栃木県立博物館 自然系 テーマ展
 「スズメバチ」
 レポート

開催期間 平成20年8月19日〜平成21年4月12日
開催場所 栃木県立博物館

1 「スズメバチ」を知るテーマ展

平成20年8月19日〜平成21年4月12日までの間、栃木県立博物館にて自然史系テーマ展「スズメバチ」展が行われていた。集団で人を襲い人の命を奪う怖い生き物としてイメージだけが先行しているスズメバチだが、生態ピラミッドの頂点に位置し、幼虫を養うため多くの昆虫をかり生態系を保もち、害虫を食べる益虫としての一面を持つスズメバチ。今回の展示では、怖いスズメバチのイメージだけではなく、力強い体、種ごとに異なる生態や種間関係、スズメバチの巣の不思議、スズメバチの子育ての社会生活、などにスポットを当てて普段観察が難しいスズメバチの生態を一から知ることができる展示だ。

4月12日で展示は終わってしまったが展示を担当された栃木県立博物館の中村剛之先生に今回の展示の見所などを展示物と交えお話しを聞くことが出来たので、その内容を中心に紹介していこう。



会場全景

2 人とスズメバチの関係

「展示を始めたのが昨年の8月の半ばです。その時期から秋にかけ必ずメディアでは人間に問題を起こすということでスズメバチは話題に上がります。そこで皆さんに興味を持っていただき紹介しようと企画しました。」

「また、ただ、おっかないや怖いと言うだけではなく、スズメバチってどんな種類がいるのか、どんな暮らしをしているのか、という点にも興味を持ってみていただけるよう展示をおこなっています。」

「展示の最後のところにも書いてありますが知らない相手は怖いということがあります。よく知らない隣人は怖いとか。それと同じでスズメバチもただただ怖いところを報道されることが多いですが、それだけではない面白いところも見てもらいたいと思っています。相手を知る、それが「スズメバチ」展の目的です。」


人とスズメバチ解説

巨大なスズメバチの模型

「まず、人とスズメバチについてです。年間20人前後の人がスズメバチで命を落としています。危ない生き物は何ですかと聞くとハブ、クマ、野良犬などいますが、実はそのような生きもので死ぬ方はほとんどいないですね。ハブに刺されて亡くなるというのは年に一人か二人、それに比べてスズメバチは身近にいるし非常に恐ろしい生き物だということも認識していないといけません。」

「ではなぜこれだけ被害が出るのかということですが、最近では、町がだんだんと郊外に出るようになり、庭にいろんな植物をうえるガーデニングなどがはやっています。これらの人の暮らす環境がスズメバチにとっても暮らしやすいことで、人との摩擦というか問題があちこちで起こるという現実があります。」

益虫についての解説

ビデオ上映

「会場にはスズメバチの生態を知るビデオ上映もおこなっています。展示内容は「巣の上の働き蜂」「巣を作るコガタスズメバチ」です。日替わりでこれらのビデオを上映しています。

今日上映の「巣の上の働き蜂」を見ていると時々天敵のオオスズメバチが飛んで働き蜂が一斉に飛び出るシーンが一時間の間に数回あるんですよ。」

3 展示の構成

「スズメバチ展の構成ですが、スズメバチとはどんな生き物か、どのような種類のスズメバチがいるのか、スズメバチの巣についての話と、ハチの暮らし、というような流れで見ることができるようになっています。」


スズメバチの体を解説したパネル

「まず、導入部としてスズメバチの体について解説させてい頂いています。スズメバチの体は、一見恐ろしげな虫なんですが、スズメバチの体は大変機能的で出来上がった体をしています。導入のスズメバチの体を解説したパネルでは、これらスズメバチの体の機能について紹介しています。例えばこの頭部ですね、普通の昆虫というのは目が横に飛び出しているものが多いんですが、スズメバチは前のほうにあるのがわかります。それと、胸部ですが硬く筋肉がつまっていて翅や脚などを動かしていることなど体の機能をまず解説しています。」

「この中で特に知っておいてもらいたいのが針です。スズメバチというとみんなすべて刺すと思われていますが、刺すのはメスだけなんですね。これは卵を産むための産卵管が変形して毒針になっていているので、当然オスにはありません。」

「それと針ですが注射器の針のようなものを連想する人も多いのですが、実は管じゃなくて三本の針が束になって一つの針になっています。ここでは、拡大鏡を使って針の部分を詳しく見ることができるように展示しています。」


スズメバチの針を説明

左がメスで右がオス

4 スズメバチの種類

「ここからが、スズメバチの種類についてです。展示には標本の展示とパネル解説を使い日本にいる全7種類の説明をあげています。実は、オオスズメバチからモンスズメバチの5種類はこの博物館のある中央公園でも見ることができるんですよ。」


「日本のスズメバチ」コーナー

7種類のスズメバチ標本

「体の特徴ですが模様と大きさ、また少しずつ生態も違っていています。順に説明していくと、まずオオスズメバチですが、一番恐ろしく、世界でも一番大きいなハチの種類です。ほかのスズメバチの巣を襲ったりあとミツバチの巣を襲ったりというのが特徴です。次に大きいのがヒメスズメバチ、アシナガバチの巣を襲って食べ、ほかのものはあまり食べないことがほかのハチと違うところです。」


オオスズメバチ

ヒメスズメバチ

「また、コガタスズメバチ、キイロスズメバチというのは住宅地によく進出し屋根裏に巣を作ることで知られる2種類です。中でも多くみられるのがキイロスズメバチです。」

「モンスズメバチはすこしかわった生態をしています。夜も行動し、おおきな昆虫、バッタだとか蝉を襲って幼虫の餌にする性質を持っています。夏の夜に蝉が羽化のため地下から出てきますが、蝉になり損ねたやつなど木に止まっているところを襲う蜂です。」


キイロスズメバチ

コガタスズメバチ

「あと、中央公園にはいないんですが栃木県にはこのチャイロスズメバチがいます。これは縞模様になっていなくて真っ黒い色をしています。ほかの蜂と大きく違うところはほかの巣をのっとることです。ほかのスズメバチが作った巣をのっとり、その働き蜂に自分の蜂の子の世話をさせるというとんでもないやつです。」


モンスズメバチ

栃木県では準絶滅危惧種のチャイロスズメバチ

「それから沖縄県にしかいない蜂でツマグロスズメバチ、南の島のスズメバチです、模様がぜんぜん違い、石垣島とか西表島とかの南の島しかいないんです。これが日本にいる全7種類のスズメバチです」


ツマグロスズメバチ

写真とパネルで特徴を紹介
5 スズメバチの巣

「次にスズメバチの巣の展示と解説です。これが、スズメバチの巣の構成を解説したものです。軽く、紙みたいでしょう。この材料は木なんです。木の皮だとか、あと、腐った木などをカリカリ噛んできて唾液と混ぜ、紙粘土のようにして作っています。」


スズメバチの巣を解説

初期の巣

「これが巣の作りです。小さな状態から、だんだんと回りに大きくなってソウバンといういう六角形の穴の層が増えていき巣が大きくなっていくことがわかります。これが一番わかりやすいスズメバチの巣の内部がわかるものです。」



キイロスズメバチの巣

「よくスズメバチの巣の縞々模様は何ですかと聞かれます。そのことを説明するためスズメバチの巣作りにチャレンジしたのがこちらの展示です。いろんな材料を山から持ってきて、のこぎりでひいて粉にして木工用ボンドでこね、順番をばらばらに並べてみると縞々模様になります。」


スズメバチの巣作りにチャレンジ

会場では巣を直接触れるコーナーも

「ではなぜ作る過程で巣が縞々模様になるかということですが、何百匹という蜂がそれぞれ違う場所から巣の材料を持ってくると、白っぽいところからもってくれば白い帯になり、黒っぽい木の皮を持ってくれば黒い帯になるんですね。また縞の一本一本なんですが、一匹の蜂が一回の巣材集めでもってくれる量なんです。一匹が作って次に一匹というように作っていくと縞々模様になるんですね。」


コガタスズメバチの初期の巣

大きく発達した巣

「初めの頃の巣というのは単一色の巣が多いのですが、これは女王蜂一匹で作るからなんですね。女王蜂は一匹で同じ場所を行ったりきたりします、なので全体に真っ黒とか、真っ白とかになるんです。」


巣の内部を詳しく知ることができる

6 スズメバチの生態と暮らしを知る

「ここからは、スズメバチの暮らしをテーマにした展示です。まずズメバチの普通の巣の中はすべて全部メスです。ミツバチもそうですが、働き蜂もメスなんです。次の世代を作らないといけないというときだけオスが生まれてくるんです。」

「オス・メスの生みわけについもパネルで解説しています。交尾して受精をするとメスに受精をするのをやめるとオスになります。女王蜂は季節ごとに受精をコントロールするんですね。」


スズメバチの生態を知るコーナー

スズメバチのコミュニケーションを解説

「またスズメバチは1つの巣の中で強い繋がりを持って生活しています。これは、成虫と幼虫の生態に大きく起因しています。体の展示でも、解説しましたが、成虫の腰は細くくびれ消化管が細く固形物をほとんど食べることをほとんどしません。だから液体のジュースのようなものや花の蜜などの液体のものしか飲めないんです。なので成虫が採っているのは幼虫の餌なんですね。そして幼虫の頭を刺激すると口から液体を出すんです。これを成虫がなめてほとんど暮らしているんです。かなり栄養がたっぷりらしいです。後足りないものを樹液だとか花の蜜などですごしているらしいんです。1つの巣の中で持ちつ持たれるになっていて、成虫はこれをもらうために虫を捕まえてこないといけない、幼虫はこの餌を運んできてもらうために自分で餌を口移しで与える、この両方がいないとだめなんです。なので1つの巣のつながりが強くできているんですね。」


スズメバチの生活史

季節ごとの活動を紹介

「スズメバチの一生ですが、まず女王蜂が冬越しして春に動き出し、巣を作って卵を産み、初めに、8匹か10匹くらいの蜂を一生懸命育てます。これが成長し働き蜂になると、女王蜂は専念し数を増やしていきます。やがて巣が大きくなっていくんですね。」

「季節が変わり秋の終わりになるとオスバチと次の年の女王蜂が現れて交尾をして大半のハチは死んでしまいます。これがハチの一年のサイクルです。」

7 スズメバチの標本から

「展示室中央のスズメバチ標本はインパクトあるかと思います。一つの巣の中にいたハチを全部捕まえ翅を広げて標本にしているものです。これがオオスズメバチですね、これが、コガタスズメバチ、モンスズメバチです。オスバチと次世代の女王蜂は秋にならないと出てこないので全部そろっているのはなかなかないんですよ。創設女王蜂ですが一匹だけ世代が違うんですね。これがお母さんでほかが子供たちです。この四つ(創設女王蜂、次世代女王蜂、働き蜂、オス蜂)がそろっていると私からするとコンプリートですね。全部そろってやったと思うんですね。」


一つの巣にいた蜂を種類ごとに見ることができる標本


「それと、必ず聞かれるのは、次の世代の女王蜂と、創設女王蜂の違いがどうしてつくのかと言うことなんですが、見ていただくと創設女王蜂は去年の秋から生きているので体のいたるところがすれて体に生えている毛が抜けてつるつるしているんです。あと、翅もぼろぼろになってきているので違いがわかります。」

「標本からオス・メスの違いがわかりますよ、オスは触角が長くなっています。」


オオスズメバチの標本

「チャイロスズメバチは本当に珍しく栃木県のレッドデータブックにも登録され、非常に少ない種です。」


コガタスズメバチ(左上)モンスズメバチ(左下)ツマグロスズメバチ(右)

「ツマグロスズメバチは栃木県にいないので、展示に先駆け石垣島まで防護服を持って行って捕獲しました。スズメバチの巣は探してもなかなか見つからないので農家をしらみつぶしにあたり、スズメバチの巣がないですかと聞きながらさがしたものです。あったところに採らしてもらえないですかと聞いたんですよ。そしたら逆に採ってくださいと頼まれるんです。パイナップル畑の脇にあったのを見つけて採らしてもらって。向こうの人も喜んでもらってフルーツジュースをもらいましたよ。そんなエピソードもありましたね。」


「その他、今回の企画展で使用した標本ですが、もともと博物館に収蔵されていたものと、この企画展に合わせて収集したものを展示しています。収集期間は企画展をやろうときまってから1年間です。秋にフルに活動をし、県内の農家の方とか、業者の方たちにハチの巣のありかなどを教えていただいたりして巣は30個ぐらい採りましたね。その間展示が始まるまで刺されずに済まそうと言うのが目標でした。」


キイロスズメバチの巣の成長 春

初夏


8 展示のポイントと来館者の方の反応などについてお聞かせ下さい。

 


栃木県立博物館 中村剛之先生

「今回の展示では解説をできるだけ少なくして写真や標本を多くする。そして視覚的に並べ説得力がある構成をしているので御来館いただいた皆さんに好意的に見ていただきました。」

「オオスズメバチは間近で見る機会はないですので、今回の展示のように間近で見ることがきることに驚いてかいられる方が多いですね。」

「アンケートを読んでもスズメバチ面白かったと言う意見は多いです。」


蜂の種類ごとに女王蜂などが並べられている

「標本では、女王蜂、働き蜂、オス蜂がすべてそろっています。その標本を見是非てもらいたいポイントでした。それと暮らしですね、春には一匹の女王蜂から始まり、秋にはこんなに増えると言うことをこの点を知ってほしいですね。またハチで刺すのはメスだとか。それと、巣は木から出来ているんだとか。スズメバチハチのことを展示を通してわかってもらえればいいかなと思いますね。」

今回の展示では、日本に生息する7種類のスズメバチの、体、種、巣、社会、生活史、を標本を通し分かりやすく解説され知ることが出来る展示でした。

ご協力いただきました中村剛之先生解説頂きありがとうございました。


栃木県立博物館 自然系 テーマ展 

「スズメバチ」 

開催期間 平成20年8月19日〜平成21年4月12日
開催場所 栃木県立博物館 
(休館日は博物館ホームページを確認ください。)

入館料:一般/250円(団体200円)高校・大学生/250円(団体200円) 中学生以下無料 ※()内は20名以上の団体料金

お問い合わせ 栃木県立博物館 電話  028-634-1311 (代)