第29回企画展
「100年の標本が語るぐんまの植物」
レポート

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群馬県立自然史博物館にて平成20年3月15日〜平成20年5月6日まで全国都市緑化ぐんまフェアの協賛事業として「100年の植物が語るぐんまの植物」展が開催されている。そこで、展示会での模様を紹介し抑えておきたいポイントをレポートしていこう。

1 100年の標本が語るぐんまの植物展 入り口

まず、博物館に入ると企画展と常設展に入り口が分かれているのでチケットを持って企画展のほうへ、企画展の入り口には大きなポスターが見に来た人を出迎えてくれる。ここでまず一つ目のポイント、群馬というと東北、関東、北陸などそれぞれの気候の変化を受け動植物が多く生息していることで有名だが、そんな群馬県でも一箇所しか生息しなかった植物がある、現在は絶滅してしまったタカノホシクサがそれだ。ポスターに描かれているのでまずはこの名前を覚えておこう。


タカノホシクサ、ムジナモの標本が左から順に並んでいる

今回の企画展は全国都市緑化ぐんまフェアの協賛事業として開催されている

今回の展示は地域と時代の変化に伴う環境の移り変わりを分かりやすく解説している。この点も抑えておくとよい。タカノホシクサや、ムジナモ、ガシャモク、など水辺や低湿地に生息する水草を展示し解説したコーナー、前橋市中心の河原流域の植物 そしてみどり市を中心とした里山を中心としたゾーン、この3つの違いを理解し展示を見るとより分かりやすいく見られるはずだ。

2 自然の移り変わりをパネルで紹介

入り口を入ると古い前橋の地図や写真が展示され環境の変遷を見ることができる。もし一度でも写真パネルの場所に行ったことがある人なら懐かしさとその変化の違いを感じるはず。順に、展示パネルや昔の地図を見ていると時代がさかのぼっていくようだ。また、このコーナーでは群馬県下の地域ごとの概要を知ることもできるので次のコーナーでの予備知識を知る上でとても参考になる。このコーナー最後には昔のビデオ映像がモノクロで流れ当時の様子を知ることができる


入り口に入ると昔の地図が解説と共に展示されている

群馬の原風景農村景観の特徴を捉えた写真パネルが並ぶ

群馬の多様な気候、地形による地域の違いを解説

手前から利根川、前橋公園さちの池の現在と昔のパネルが並んでいる


3 生活の中の植物

最初のパネルのコーナーを過ぎると県下の植物標本の歴史をたどるコーナーになる。まず目を引くのが、群馬で記録されているもっとも古い植物標本だ。これらの標本は当時教師をしていた手賀勝美氏が1894年〜1895年にかけて採取,603点残しうち前橋のものは242点を占めていたということだ。中でも群馬県では個体数が少ないミシマサイコや平野部では壊滅的なイヌタヌキなどの標本がある。またこのコーナーには標本のラベルについて解説されていたのでこの点も押さえておこう。標本には植物名を記したラベルが何枚か張られている。採取日等が書かれた採取ラベルと同定ラベル(植物名と同定者と日付が記されている)だ。この同定ラベルはとても重要でこの標本の名称はこれで間違いないですよというお墨付きと考えると理解しやすい。もし何枚かこのラベルが張られているときはもっとも新しいラベルを参考にするとのことだ。


「昔の群馬のまちは植物の楽園」コーナー全景

手賀勝美コレクションについての解説

標本のラベルと植物の名称

手前からバイカモ、イヌタヌキモ、ノジトラノオ、ミシマサイコ

次にタカノホシクサの発見でも有名な高野貞助氏のこととタカノホシクサの標本が展示されている。入り口のポスターでも紹介したがたがタカノホシクサは群馬県の多々良沼で1909年に高野貞助に採取され、その後牧野富太郎氏が新種記載されたもので、現在では絶滅した種として有名で群馬県にはゆかり深い植物だ。また、そのほか以前生息していたが県下では見ることができないムジナモの標本も展示されている。ムジナモは現在では埼玉の一部で保護活動が行われている絶滅が危惧されている種だ。そのほかデンジソウやオオアカウキクサ、ミズニラなどの標本が展示されている。これらの植物は群馬県の東毛地区に当たる邑楽館林などに多い沼や低湿地に生息する植物で展示からも当時の模様が容易に想像がつくよう工夫されている。


「水辺の植物の楽園・邑楽館林」コーナー

タカノホシクサの乾燥標本とレプリカ

館林地域の堀上田の模様

左からアブノメ、ミズニラ、ミヅツバメ


3 河原の植物 

河原の植物は河川の拡幅など水量の変化によってとかく変化の激しい地域であることは知れているが、ダムの設置や水域領域の変化、時代の移り変わりで多くの在来植物が減少の傾向にあるという。展示では前橋市内の利根川の河原の様子を再現し展示されていた。
また、これらの展示標本には環境省から出ているレッドリストと群馬県から出ているレッドリストに対応したスタンプが押されている点にも注目していただきたい。


コーナー全景

実際に河原の石が並びよりリアリティのある展示になっている

4 減少する在来植物と外来植物

今からではあまり想像することが難しいが雑木林の地表付近は炭焼きのため伐採され、落ち葉は堆肥にと生活に欠かせない時代があり日照不足に弱い小型の植物も生えることが可能だったそうだ。里山の草地にも同様に人の手が加わることで生息しえた植物が多く見られた。それが現在では人の手が加わることが無くなり環境の変化に対応できず数が減り見ることが難しい在来植物も多くなってきている。その代わりそんな環境の変化にも対応した外来種の帰化植物が多くなっているという。例をあげると帰化植物のオオオナモミが生息域を拡大するに伴い、在来のオナモミが減少してきているというのだ。このほかにも外来植物の侵入によって在来種は大きな影響を受け絶滅の危機に瀕しているものも少なくない。その辺りもふまえ展示を見ることもポイントだ。


「里山にはこんな植物がありましたコーナー」

左からアツモリソウ、ヤマタバコ、シラン

外来植物解説

右から要注意外来種のコカナダモ、ホテイアオイ

群馬の植物は今コーナー全景

群馬の絶滅危惧種解説


5 標本から

標本からさまざまなことがわかることはこれまでの解説で多少理解してもらえたはず。また、この展示を通して絶滅・絶滅危惧種がいかに多いか知ってもらえるはずだ。ムジナモ、ガシャモク、・・・・・・今回、紹介されている標本の中から絶滅危惧されているものだけに注目し展示会場で探してみて見るのもいいだろう。おそらくこれだけの絶滅、絶滅危惧標本を一同に見ることができるのはそうあるものでは無いはず。


新たに発見され貴重種解説

左からヒナノカンザシ、マルミスブタ、スブタ、
チチブリンドウ


また、植物標本の作り方のビデオ上映や実際に採取に使用している器具の展示もあるのでぜひ見ておこう、研究者の大変さがわかるはず。このコーナー最後には、植物の分類と同定(植物の名前の調べ方)の解説コーナーがあるので分類による植物の違いについて勉強しもう一度展示を見直すのも楽しみの一つかも。

6 終わりに

100年余りの群馬の植物と人とのかかわりを見ることが出来る今回の展示は、植物のことが分からなくても環境の影響を植物がいかに受けやすいかを知るいいチャンス。レッドリストができ自然保護意識が高まる環境にある現在、見過ごしがちな小さな植物に目を傾けるのもよいのではないだろうか。また5月6日まで開催しているのでゴールデンウィークの予定が決まっていない方はぜひ足を運んでみてはいかがだろう。


植物を採取し標本を制作する道具が展示されている

被子植物や種子植物など分かりずらい分類も標本を確認しながら見ると分かりやすい

会場には顕微鏡もあり実際に観察することもできるのでとて楽しい。


第29回企画展 「100年の標本が語るぐんまの植物」
(全国都市緑化ぐんまフェア協賛)
期間:平成20年3月15日〜平成20年5月6日 
(休館日は博物館ホームページを確認ください。)
料金 中学生以下は無料 高大生 ¥300  一般¥600

※企画展開催中は上記の料金で常設展示、企画展示の両方を観覧できます。
お問い合わせ 群馬県立自然史博物館  電話 0274-60-1200
展示資料