平成22年度夏季企画展
−三葉虫からカブトムシまで−
節足動物の多様な世界
開催期間:2010年7月17日(土) 〜 9月12日(日)
開催場所:栃木県立博物館
栃木県立博物館にて7月17日から9月12日まで「節足動物の多様な世界−三葉虫からカブトムシまで−」が開催されていた。栃木県立博物館では平成16年に企画展「脊椎動物の進化―5億年のたび―」平成21年には「植物の進化―生きたちのシーソーゲーム」が実施されたが、その際生物の進化が重要なポイントになっていた。今回の企画展でも、地球上の生物のうち最大の分類群である節足動物が、どのような進化を経てさまざまな形態や生活圏へと多様化したかが見所になっている。
企画展のテーマになっている節足動物は動物界最大の分類群、昆虫類、甲殻類、クモ類、ムカデ類など、硬い殻(外骨格)と節のある関節を持つグループ。現生種は約110万種で、名前を持つ全動物種の85%以上を占めている。
今回の企画展ではこれら多様な節足動物を「海」「陸」「空」ごとに展示解説され生活圏の違いによってバラエティに富んだ節足動物が生息していることを知ることが出来る展示だ。
会場入り口ゲート付近 |
昆虫の大型模型が展示されている |
展示の構成は、4つの章にわけられている。まず第1章では、「節足動物とは?」どのようなものか進化や系統など総論について解説。第2章では、海で活動する節足動物がどのような進化の過程を経て現生の外骨格を持つ生き物へ繋がっていくのか、古生代カンブリ紀の貴重なバージェス動物群の化石や三葉虫そして現生の脚を広げると最大4メートルにもなるタカアシガニなどが展示され解説されていた。
会場入り口付近全景 |
第3章では、陸に生息する生物が展示。第4章では空に活動を広げた昆虫類を中心にその生態と多様化した構造の仕組みなどにスポットを当て展示されている。また展示の最後には、ハチなど社会性昆虫の生態についても解説されていた。
それぞれの章には、現生の標本と共に古生代や中生代などの化石も並べられている。中には古生代の酸素の濃度が高い時代に生息した大型のアメンボの化石も展示され当時と現在の環境の変化が生き物にどう影響を与えたかについても知ることが出来る企画展だ。
1 節足動物とは?
第1章のプロローグでは、節足動物のからだ、進化、系統、といった総論についての解説がされている。節足動物は脚に節がある動物を想像するが、からだを殻で覆われた節足動物には、からだを動かすために脚だけではなくからだ全体に節を持っている。これらは私たちがよく知っているエビやカニなどといった甲殻亜門、カブトガニやサソリといった鋏角亜門、そしてムカデといった多足亜門、ゴミムシや昆虫などの六脚亜門、そして三葉虫亜門の5つのグループにわけられることがここでは解説されている。
また本企画展の特徴だが古生代や中生代の化石が多く展示されている。第1章では、節足動物が誕生する以前、先カンブリア末期6億年前の動物の資料としてオーストラリアのエディアカラ丘陵で最初に見つかった「エディカエラ生物群」の化石標本が展示されており、当時の生息していた動物を知ることが出来る。この時代の動物は硬い肢や節のある脚が無いことが解説されている。地球上で初めて大型で複雑な構造を持った生き物で形態的にはクラゲ類に似ているコンドロプロンやマウソニテスなどが展示されている。
また節足動物をより理解するために、節足動物に形態が似た動物も紹介されている。まず体節が1列に繋がっているゴカイなどの環形動物、熱帯の湿った土地にすんで、イボ足の先に錨のような爪がある有爪動物、体長1mm以下で、コケや海藻などにすんでいる緩歩動物。ここでは緩歩動物でクマムシの一種の写真が共に展示されていた。
節足動物の概論を解説した展示 |
エディカエラ生物群の化石 |
2 海の節足動物
第2章では海を生活圏にしている動物についてスポットが当てられている。現生では絶滅してしまった三葉虫、鋏角亜門のカブトガニ、十脚類のカニやエビ、そして、海底や寄生を行い生活する多様な甲殻類についてその標本と共に解説されていた。
バージェス動物群
第2章のはじめにはバージェス動物群の化石が展示されている。バージェス動物群とは、古生代カンブリヤ紀のバージェス頁岩から発見された貴重な化石動物群で化石には残りにくい軟体部まで保存された動物化石が豊富に産出している。
カンブリア紀からペルム紀の化石が並ぶ |
バージェス動物群の化石 |
この中には、現生の生物分類の枠に収まりきらない変わったデザインを持った動物が沢山いることからバージェスモンスターとも呼ばれている。
当時生息していた動物のイメージ画と模型が化石と共に並べられている |
また古生代カンブリア紀は一気に進化が進んだ「カンブリアの爆発」と呼ばれ、また生物にとっても餌のとり方や移動方法、身を守る仕組みも1つではなくさまざまな方法を探っていた時代だ。その時代の生物を表すのに「進化の実験室」と表されるほどその体のデザインはさまざまだ。このコーナーで展示されている復元図や模型などからもそれらのことがわかる。
アノマロカリス |
マルレラ |
今回の企画展に展示されているバージェス動物群の化石は、これまでその多くが展示されたことはなく栃木県立博物でも貴重な資料展示になっている。
この中には、全長7.5cmのカブトエビの頭にエビの尾がついたような動物で節足動物の1つの考えられているワプティア。奇妙なエビという意味の名前のアノマロカリスは最大で2mにもなるが、ここでは1/5のサイズの復元模型が並びその奇妙な形を知ることが出来るはずだ。
そのほかにも体の前方に3本の長い尾ヒゲを持った1対の長い腕が有るレアンコイリアなど貴重な化石標本が並んでいた。
ワプティアの化石 |
レアンコイリア(右) |
バージェス動物群の主要な節足動物の多くは、カンブリア紀の間に絶滅してしまったが、その中でも生き残って繁栄を続けたのが三葉虫の仲間と、エビやカニといった甲殻類の仲間、そしてクモやサソリに続く仲間と、多足類や昆虫に続く仲間だ。
オットイアの復元図と化石 |
三葉虫鋼レドリキア目(右)とコリネクソカス目(左)の化石 |
次に、古生代にもっとも栄えた三葉虫のグループについての解説と展示がされている。三葉虫の形態は多様で、およそ2,000属・10,000種以上が知られている。三葉虫はすべて海生で、多くは海中の砂泥中の栄養分を摂取する底生動物だったが、浮遊生物もいた。
体のつくりは、殻の縦に走る2本の溝によって中葉とその両脇の束用の3つの部分に分かれることから三葉虫と呼ばれている。
三葉虫とウミサソリの展示 |
アサフス目(左)とファコプス目(右)の化石 |
ここでは、オルドビス紀以降に栄え、独立した個眼が集まった集合複眼を持ったファコプス目(カンブリヤ紀〜デポン紀後期)のプシコピゲやエンクリヌスなどが展示されている。またのっぺりした体つきのアサフス目(オルドビス紀〜デポン紀中期)のアサフスやシアンシイアなどが展示されていた。
またその横には、古生代、オルドビス紀からベルム紀にかけて沿岸域〜汽水〜淡水域に生息していたサソリに似た形態を持つウミサソリについて、当時の生態系の頂点に立つ最大の節足動物として解説され、ここではウミサソリ復元模型ミクソプテルスと化石標本が並べられ見ることが出来る。
ウミサソリの名前に関する解説 |
ウミサソリの復元模型と化石 |
現在では三葉虫やウミサソリの生きた姿を見ることは出来ないが、ウミサソリと同じ鋏角亜門で古生代に出現し中生代に繁栄した「生きた化石」と呼ばれるカブトガニは、現在でも日本や東南アジア、北アメリカ東岸に4種類だけ生息している。展示ではジュラ紀のメソリムルスの化石標本や石炭紀のパレオリムルスの化石からも現生のミナミカブトガニ、マルオカブトガニ、カブトガニがその姿を変えていないことがわかる。
同じく鋏角亜門のウミグモについても大変珍しいパラエオイソプス(デポン紀)の化石標本と現生のヤマトトックリウミグモの標本が並べて展示されていた。
カブトガニの解説展示 |
ウミグモノ化石 パラエオイソプス |
十脚類 海の節足動物
本企画展中大きさが際立っていたのがタカハシガニ、大きな個体は4mを超えるといわれている大きなカニは節足動物の中で最大といわれている。ここからは、エビやカニそしてヤドカリなど現生の海に生息する節足動物を中心にその形態や生態の多様性について展示解説されている。十脚類は基本的に歩脚が5対、左右10本あるので十脚類と呼ばれているものだ。
十脚類展示コーナー全景 |
タラバガニ類は、カニとついているがカニかヤドカリかにわけるとヤドカリ類になる。腹側に織り込まれた腹部はカニのようではなく、第5歩脚が目立たないのが特徴だ。ここでは、イバラガニ、タラバガニ、ハナサキガニが並べられ見ることが出来る。
十脚類の標本と解説 |
タラバガニ類の解説 |
次に並べられているのがカニの世界1を誇る十脚類だ。1つは鋏脚を広げてのばすと4mをこす個体もある長さとその大きさはカニの中では世界1のタカハシガニ。そして、甲羅の幅が60cmにもなりその重さが10kgにもなるオーストラリアオオガニ。オオストラリアオオガニは甲羅の幅とその重さは世界1のカニであることが展示され説明されている。
またタカハシガニのオス・メスの稚ガニが並べられている。タカハシガニの鋏脚はオスの成体は長く目立つが稚ガニの時にはオス・メス共に鋏脚は短く鋏脚の大きさで見分けることが出来ない、標本からもその違いを見ることが出来る。
大きなタカハシガニ |
オーストラリアオオガニ |
イセエビ類は歩脚が鋏状にならなず、大きい種類が多いグループだ。展示では体長が60cmにもなるミナミイセエビの一種の標本と色彩がカラフルなニシキエビが展示されていた。
十脚類の最後には十脚類の体の基本的なつくりの解説がされている。また十脚類の基本形からさまざまに変化したカニ・エビ、ヤドカリの形態についてそれぞれのタイプの解説がされていたので紹介しておこう。エビ型は泳ぐために適しているため基本的な形態が残っている。カニ型は、水底生活に適し腹部の腹側に折りたたまれ退化している。カドカリ型は、巻貝の殻に入る生活に適応して、腹部がねじれ、柔らかくなっているなどだ。
展示では世界中の形態や色彩が違う十脚類の標本が並べられていた。
ニシキエビ(右壁) |
イセエビ類の解説 |
それぞれガザミ、イセエビ、ヨコスジヤドカリのオス・メスが並べられ体の違いを見ることが出来る
十脚類の体のつくりを紹介した解説 |
さまざまな形態をした十脚類を見ることが出来る |
多様な甲殻類の生活史
海の中にはさまざまなグループの甲殻類が生息している。その中には海底を這い回るもの、海中を泳いだり浮遊するもの、また他の生物に寄生するものなど形や大きさなどもまちまちだ。ここからはこれら多様な生活をしている甲殻類についてスポットが当てられている。
まずは、泳いだり、浮遊する甲殻類が紹介されている。サクラエビやシラエビは浮遊性のエビだ。また泳ぐ力が弱く海中を漂うような生活をしているものをプランクトンというが、ケンミジンコやオキアミなどはプランクトンで浮遊生活をする。さらに、ほとんどの甲殻類の幼生の時期をプランクトンとして過ごすことが解説されている。
甲殻類のコーナー |
シラエビ(中)乾物のサクラエビ(左) |
海底で生活する甲殻類には、エビ、カニ、ヤドカリ、等脚類、ヨコエビ類がいる。ヨコエビ類は海草で身を隠すような生活をし、また干潟では、穴を出入りするコメツキガニやオサガニなどのスナガニの仲間を見ることが出来る。展示では、スナガニやニホンスナモグリまた小さなテングヨコエビの標本が見ることが出来た。
多様な生活をする甲殻類を生態写真と標本で展示 |
ニホンスナモグリ(上列左から3番目) |
甲殻類の中には、ほかの動物に寄生するもがいる。次にこれら寄生する甲殻類についての展示がされていた。
魚の口の中に寄生するウオノエ類、クジラの体表につくクジラジラミ類、サンマなどの魚の表面につくサンマヒジキムシ、カニの腹部につくフクロウムシなどだ。中には甲殻類とは思えないようなものがいることが解説されている。イソガニの腹部に寄生したウンモンフクロムシの標本やクジラの体表に寄生したクジラジラミの一種の標本が展示されていた。
寄生する甲殻類 |
ウンモンフクロムシ(左) |
深海底に生息する甲殻類
甲殻類の中には、深度1万メートルを越える過酷な環境下にも分布し発見されている。海底の熱水噴出孔から噴出す場所には硫酸水素をエネルギー現とした独特な生態系をつくっている。その中にもゴエモンコシオリエビ、ユノハナガニなどの十脚類を見ることが出来る。
深海底にすむ甲殻類の解説(ダイオウグソクムシ) |
深海にすむ甲殻類を生態写真などで紹介している |
また、ダンゴムシの仲間(等脚類)のダイオウグソクムシは大西洋やインド用の水深170m〜2500mの海底にすみ、動物の死骸を食べているところから、深海の掃除屋と呼ばれているものだ。その大きさは、等脚類中もっとも大きくオオグソクムシと比較され展示されている。その隣には長い触角で子育てをするオニナナフシやオオコシオリエビ、ベニズワイガニ、サガミアカザエビなどの十脚類の標本と深海にすむカイコウオオソコエビやユノハナガニといった深海を生活圏にしているものの生態写真が展示されていた。
幅広いカニの生活スタイル
甲殻類の中でも一番といっていいほど身近に感じるのがカニではないだろうか。海や川の中や陸にも生息するものもいる。このコーナーでは、さまざまな生活スタイルをもつカニについて解説されていた。
さまざまな生活スタイルをもつカニについて解説 |
眼が特徴的なオサガニ |
海にすむカニと、岩場にすむイソガニやイワガニ、内湾の泥干潟にすむコメツキガニやオサガニとでは生活スタイルは違う。オサガニなどは眼だけ泥水から出し警戒するため眼柄が長いのが特徴だ。
どのような生息環境にいるのか生態写真で紹介 |
河口域に住むカニ(中央ベンケイガニ) |
そのほかには、河口域のアシ原などにすんでいるアシハラガニやクロベンケイガニ、海と川を行き来する鋏にフサフサしたけのあるモズクガニ、また山間部の清流にすむサワガニ類は完全に淡水だけで生きていくことが出来るカニで他のカニは幼生が育つのに海が欠かせないが海に下ることがなく母ガニが稚ガニになるまで腹部で育てることが解説されていた。
陸の生活に適応したオカガニ類や海に近い水田や草原にすんでいるアカテガニについて解説されていた。
淡水にすむサワガニ |
海と川を行き来するモズクガニ(右) |
3 陸に生息する節足動物
第3章では陸を生活圏にしている動物を紹介している。陸を生活圏に移した動物には、海の節足動物と同様に鋏角亜門、多足亜門、六脚亜門、甲殻亜門のグループに属する動物がそれぞれ展示され見ることが出来る。
コーナー全景 |
鋏角亜門のクモ形類は、古生代で繁栄したウミサソリ類(絶滅群)から分化し、陸上に進出したグループと考えられている。現生の鋏角類の中では、ウミグモ類やカブトガニ類が海で細々と暮らしているのに対してクモやダニなどのクモ形類は陸上にあがって反映したグループであることの解説と共にクモ形類の標本が並べられている。
展示では、白亜紀のサソリの仲間アラリペスコルピウスが当時の形を残した化石が展示され現生のサソリとの形の比較が出来るようになっている。
また、2010年5月22日に、宇都宮市で長谷川順一さんによって採取された貴重なゴホントゲザトウムシも展示されていた。ザトウムシは日本国内では九州から関東までの平地や低山地の里山から局地的に見られるもので、関東では神奈川、東京、千葉でされていた。今回の発見で栃木が新たな最北限、最東限であることがわかる資料のようだ。
陸の鋏角亜門の解説 |
ゴホントゲザトウムシ |
このほかにも原始的なクモで腹部に体節があるキムラグモ、クモの中でも最大級の大きさのオオツチグモの一種の標本も展示されていた。
ダニ目のダニは「血を吸う悪い生き物」というイメージがるが、ほかにも捕食性、腐食性、菌食性などさまざまなダニがいることが解説されている。また体は体節もなく、他のクモ形類のように頭胸部や腹部に分かれてはいず、目は多くの種で退化していることが解説されていた。
サソリの仲間アラリペコルピウスの化石と現生のサソリ標本 |
クモ形類の解説と生態写真 |
土壌にすむ多足類
多足類の紹介では、ムカデ鋼、ヤスデ鋼、コムカデ鋼、エタヒゲムシ鋼の4つのグループが解説されている。足が多いことから多足類と呼ばれてなじみのある動物でムカデやヤスデといったものの中には大きな種類もいる。現生では、湿った土壌にすむものが多くいることが解説されている。
ムカデとヤスデも細長い体をしていて足が多く同じように見えるのだが体のつくりは違う、ムカデは1胴節から1対の歩脚が出ており、それに対してほとんどのヤスデは各2対の歩脚が出来ているので区別することが出来る。食べるものも肉食性のムカデとは違い、ヤスデは落葉や樹木など腐った植物遺体や菌糸などを食べる。
ここではタイに生息するネッタイタマヤスデの一種に並んで那須町で採取されたクロヒメヤスデや日光市で採取されたトヤマキシャヤスデなどが並べられていた。
多足類を解説したコーナー |
ヤスデの標本展示 |
ムカデ鋼には毒を持つ大型のトビズムカデのほかにも日本産のムカデでは4つのグループに大別出来る。ここではその見分け方も解説されていたので紹介していおこう。ムカデの仲間には大きく歩脚が15対で歩脚が非常に長い「ゲジ目」、歩脚が15対で歩脚は普通の「イシムカデ目」、歩脚が21対か23対の「オオムカデ目」、歩脚が29対以上で体は細い「ジムカデ目」がいる。展示ではそれらの生態写真が並べられその違いを見ることが出来た。
また、ゲジ目のゲジ、イシムカデ目のイッスンムカデ、オオムカデ目のトビズムカデ、ジムカデ目のタカナガズジムカデなどの標本があった。
ゲジ(左)オオゲジ(中)イッスンムカデ(左) |
イッスンムカデ(左)トビズムカデ(中)タカナガズジムカデ(左) |
このほかに体長が2〜10mmほどと小さく、歩脚が成体で12対で尾端に剣状の突起が1対あるのが特徴のコムカデ鋼のナミコムカデ科の一種の写真と、体長が0.5〜2mmと小さく触覚の先が枝分かれしているのが特徴なエダヒゲムシ鋼のエダヒゲムシの一種が写真で紹介されていた。
翅の無い脚が6本の飛べない虫(六脚亜門)
六脚亜門の中には大別して内顎類と外顎類にわけることが出来る。両者とも6本の脚をもつ動物だが陸上には外顎類のカブトムシや蝶などと違いもともと翅がなく地面を這い回る原始的な昆虫がいる。翅の無いことから無翅昆虫と呼ばれ、主に樹皮下、落葉中、土の中にすんでいることが解説されており。ここでは内顎類のトビムシ類、カマアシ類、コムシ類の種類と、外顎類のイシノミ類とノミ類についての解説がされている。
翅の無い飛べない虫六脚亜門の解説 |
イシノミ類(左)シミ類(右) |
淡水の甲殻類
甲殻類は全般として海で繁栄しているが、淡水の中でもケンミジンコ、カイミジンコ、等脚類、エビ、カニなど多くの種類を見るこことが出来る。展示では、淡水の中にしかいないか淡水中で多くの種類が見られるミジンコやカブトエビなどの鰓脚類についての解説がされている。
カイミジンコ類は体長1〜2mm程度の小さな甲殻類で、卵がたをした二枚貝のような殻を持っている。
ケンミジンコ類は体長1mmで体は、卵型をした全体部と柄のように細くなった後体部に分かれる。
淡水の甲殻類のコーナー |
ミズムシやテナガエビが並んでいる |
鰓脚類はミジンコやカブトガニなどがおり鰓脚と呼ばれる多くの付属肢をもっているのが特徴だ。鰓脚は呼吸器官でもあり、それを動かすことによって水流をおこし餌を口に運ぶという採餌機能があることが解説されている。
ニホンザニガニとアメリカザニガニやカブトエビとホウネンエビ、カイエビ類のミスジヒメカイエビとウスヒメカイエビの一種がそれぞれ並べられ見ることが出来た。
ニホンザニガニとアメリカザニガニ |
カブトエビとホウネンエビ |
昆虫の誕生
第3章と第4章をまたぐ通路に昆虫類の化石が数多く展示されている。昆虫類はデポン紀に誕生し石炭紀には多くのグループが繁栄した。このコーナーではそれらの昆虫の化石を見ることが出来た。ハエ目やハチ目カゲロウ目トンボ目などグループごとにわけられ、また時代の違う化石が並べられているので比較しやすく見ることが出来る。その中でも形がはっきりとわかるアメンボの仲間の化石、さらに石炭紀の沼地や森林に生息した原トンボ目の一種メガネウラ科の化石が展示されていた。メガネウラは、翅を広げると50cmから70cmにもなる史上最大の昆虫だ。現在の酸素濃度では、飛行に必要な酸素が筋肉にいきわたらない。当時は、酸素濃度が今よりも高かったことがわかるのだそうだ。
昆虫の化石 |
アメンボの仲間の化石 |
メガネウラ科の一種の化石 |
第4章 空
第4章では翅のはえた唯一の節足動物のからだの構造やその仕組み、そしてその多様性について解説されている。チョウ目では鱗粉のはたらき、そして胸部から腹部まで硬い翅で覆われたコウチュウ目の昆虫の標本など色彩や形など多種多様な昆虫たちが数多く並べられ見ることが出来る。そのほかに社会性昆虫といわれる親兄弟が子供の面倒をみるハチやアリなどその生態についても解説されていた。
多種多様な翅をもつ昆虫 |
空を飛ぶ機能を身につけた昆虫
まず昆虫が空を飛ぶ機能を身につけるまでには、植物との関係が不可欠だった。乾燥に耐えられるように進化した植物は、サイズも大型化していき分布を拡大していった。その中でより地理的にも空間的にも広い生活圏を有効に活用するために空を飛ぶ機能を身につけた昆虫が誕生したとのことだ。
節足動物の中で翅がある動物は昆虫の仲間だけで生物の約6割を占める種数を誇る。このように昆虫は翅を持つことで繁栄してきた仲間だといえる。
ではなぜ昆虫がこれほど繁栄してきたかの解説では、翅をもつことや、からだを小さくすることで、餌や、繁殖場所を探す範囲を広げ、敵からも逃れやすくなる。また、寿命が短く、大量の卵を産むことは、外的な要因を受けやすくなるので、進化しやすくなる。その他にも、幼虫や、成虫と変態し、発育ステージによってすむ環境を変えることも上げられる。その結果、形態、生態、生理学的にも驚くほど多様になっていったことが説明されていた。
コーナーの全体 |
からだの名称や翅の種類を紹介している |
また、昆虫はグループによって翅のつくりに特徴がある。そのため翅のつくりは目レベルの分類にも重要な手がかりになっていることが解説されている。トンボ目のカラスヤンマ、カメムシ目のクマゼミ、チョウ目のオオイチモンジ、ハチ目のオオスズメバチの標本が並べられその違いを確認することが出来る。
昆虫の体の解説では、スズメバチの図を元に昆虫の頭部・胸部・腹部からなるからだのつくりや名称についての解説がされていた。
昆虫の多様性のわけを解説しているいるコーナー |
ナナフシやカマキリなどが並んでいる |
その横にはバッタやカメムシ、トンボにチョウなど昆虫の多様化した形態や大きさの違いを知る標本がぎっしりと並べられている。
このコーナーで特に目を引いたのが大きな4つの標本箱の中に収められた166種もの昆虫だ。大きなチョウ目のヨナグニサンやナナフシ目のオバケナナフシ、小さなものではコウチュウ目のナナホシテントウに色彩が鮮やかなタマムシ目のタマムシなど形や色、翅の形態の違いと昆虫の多様性をひと目で知ることが出来た。
マレーテナガコガネイ(下) |
ヨナグニサン(中央) |
昆虫の変態
次に昆虫の変態に関しての展示ある。昆虫は卵からかえった幼虫は脱皮を繰り返し成虫になる。この間の幼虫から成虫まで体の形を変えていく過程が変態ということが解説されている。また昆虫の変体には、卵からかえると成虫になるまで形が変わらない「無変態」、産卵管や翅が脱皮するごとに大きくなり最後の脱皮で成虫になる「不完全変態」、そして、幼虫と成虫の間に蛹の期間があり幼虫の時には翅が見えない「完全変態」の3つの変体の違いに関する解説と、個々のタイプを代表するバッタやカブトムシなど模型でその過程が紹介されていた。この模型は博物館の先生方が制作されたものだそうだ。
昆虫の変体についての展示 |
模型を使い変体の違いを解説 |
その横には昆虫採取の方法や昆虫標本の作り方など、本企画展が夏休みの期間中の開催ということもあり自由研究の題材の参考になるコーナーもある。
昆虫採取をやってみようとタイトルのついたコーナーでは、プラスチックコップの中に餌となる穀物酢などをいれ罠を仕掛けるベイトトラップの説明がされていた。またその横には、昆虫標本の作り方のパネル解説とチョウの展翅とオサムシ標本を作る資料が並べられている
昆虫の採取から標本つくりまでを解説したコーナー |
昆虫標本の作り方を紹介 |
翅の色彩が際立つチョウ目
昆虫の中でも特に鮮やかで色彩豊かな翅を持つものがチョウ目。このコーナーでは、チョウのもつ鱗粉のはたらきや、翅の色の見え方にスポットあて解説されている。
コーナーの全体 |
まずチョウ目はチョウとガを一緒にしたグループで大きな翅を持ち、全身が鱗粉で覆われている。きれいに見える翅や模様は鱗粉によるもので、鱗粉は求愛行動に使われるフェロモンを出す発香鱗をもつものもいる。現在世界で120,000種、国内では約5,000種が知られていることが説明されていた。
コーナー全景 |
チョウやガの翅の色の見え方の解説 |
色彩が豊かで中には発光をしているかのような翅をもつものもいるチョウの翅は、鱗粉の構造や物質とどのようにかかわり効果をもたらしているか翅の色の見え方を3つの特徴別に解説されていた。
まず1つ目に色素色、色素色はシロチョウの仲間など白いものが上げられる。これは鱗粉にある物質の化学的組成による色。次にモルフォチョウの青い翅が特徴的な構造色、これは鱗粉の表面の微細構造によってある波長の光だけが見えるものだ。そして、色素色と組み合わせた色の結合色がありトリバネアゲハがこれにあたる。
大きな標本箱にはそれぞれの特徴を持ったシロチョウの仲間(※1左端の白いチョウなど)モルフォチョウの仲間(※1中央の列やや右の青いチョウなど)トリバネアゲハの仲間(※1中央の列上の緑色のチョウなど)が並べられ翅の見え方の違いを確認することが出来る。
チョウとガの違いについて紹介 |
鱗粉の働きや渡りをするアサギマダラの解説 |
このほか鱗粉には水を弾いたり、体温を調節したりする働きがあることや、チョウには紫外線を見ることが出来るが人間には同じように見えるチョウでも紫外線を反射すると模様が違うことがキイロチョウの仲間を例に解説し見ることが出来た。
さまざまな色彩を持つチョウの標本(※1) |
硬い翅をもつコウチュウ目
クワガタやカブトムシ、ホタル、テントウムシなど胸部から腹部まで硬い翅で覆われた昆虫類がコウチュウ目。このコーナーでは、コウチュウ目の翅の多様性を見ることが出来る。また、クワガタやカブトムシといった武器を持ったコウチュウ目にもスポットを当てている。
コーナー全体 |
コウチュウ目の翅の解説 |
大きな標本箱には、小さなテントウムシの仲間やカミキリムシやオサムシの仲間、翅がカラフルなタマムシ、その姿がバイオンに似ているバイオリンムシ、大きなツノをもったヘラククレスオオカブトにはさみを持ったクワガタの仲間、ゲンゴロウの仲間などが並べられていた。
大きさも形も違うコウチュウ目
|
また、コウチュウ目の武器を解説した展示では、カブトムシの角やクワガタの大あごなどは同じ種であっても大きさによって形が異なる。この大きさの違いは、幼虫のときに得た栄養で決まり、成虫になってからは時間がたっても体も“武器”も大きくならないことが説明され大きさの違うカブトムシやノコギリクワガタなどの標本が並べられていた。
武器の大きさの違いを解説 |
大きさを比較することが出来る |
光る昆虫ホタル
ここでは光る昆虫のホタルが紹介されている。梅雨近くになると出現するゲンジボタルは、国内でもっとも明るく光るホタルだ。ここではカゴの中にホタルを入れて楽しむホタルカゴが紹介されている。ホタルカゴは麦わらを編んで作られホタルの光を一時楽しむために用いられた道具で昔から親しまれてきたものだ。
ホタルカゴの展示 |
ゲンジボタル |
社会性昆虫
昆虫の中には、親兄弟が子供の面倒を見る昆虫がいる。多くの個体で生活し兄弟が子供の世話を行うハチの仲間や、シロアリの仲間が代表的な社会性昆虫だ。また親が子供を育てる亜社会性昆虫たちもいる。このコーナーでは社会を形成し生活する昆虫を解説していた。
まずコガタスズメバチの巣とキイロスズメバチ、オオスズメバチの標本が並べられ女王バチを中心とするスズメバチの仲間の生態について紹介されている。
また日本でもっとも身近にみられるクロオオアリは、5月〜6月になると巣から新女王と雄アリが飛び立ち、交尾を終えた女王アリは自ら翅を落とし地中に潜り10個ほどの卵を産む。その後、秋には20〜30匹ほどの集団になり4〜5年後には1000匹ほどに成長するそうだ。ここではオオクロアリの新女王アリ、雄アリ、働きアリの標本がそれぞれ展示されていた。
社会性昆虫のコーナー全体 |
クロオオアリの標本 |
また親虫が倒木に穴を掘って家を作るクツワムシの生態解説と、ツノクロツヤムシの仲間の昆虫標本を見ることが出来た。
クロツヤムシの仲間(左)クロオオアリ(左) |
世界のクロツヤムシ |
空中を利用したクモ
本企画展の最後には昆虫以外にも空を利用するクモの仲間についての解説だ。
クモは翅がなくて飛ぶことは出来ないが空中に網を張りそこにかかる昆虫を食べて生活していることが紹介されている。またクモの中には糸を空中にたなびかせ風や上昇気流に乗って移動することも解説されていた。
空中を利用したクモの解説 |
ギンメッキゴミグモ(左)ジョロウグモ(右) |
大きなクモで人家や山地まで見られるジョロウグモや巣の中心にごみのような集まりがあるように見える巣をつくるゴミグモの仲間の生態写真とギンメッキゴミグモの標本などが並んでいる。
今回の企画展をご担当されたお1人栃木県立博物館学芸部自然課特別研究員 柏村勇二先生に今回の企画展についてお聞きしました。
節足動物は「海」「空」「陸」いろんな環境にすんでいます。波打ち際、汽水域や深海であるとか、その中には熱水噴出孔など地球上の過酷ないろんな環境に適応して生きているものもます。陸上では地面の中や、砂漠などの暑い乾燥した地方や寒冷地方、低地帯から高地帯までさまざまです。空に限っては昆虫だけなので環境でというのは無いですが全体を通して節足動物はあらゆる環境でもしぶとく生き抜いています。
それには巧みに体の機能を環境に適応させて生きていることがあげられます。
しかし、それらさまざまな環境に進化を遂げた節足動物ですが、殻を持って節のある体を持つ共通の特徴があり、個々がどのように生き抜いているのかという面を楽しくみていただければ面白いかと思います。
また形態に目を向ければタカハシガニとミジンコをとってみても基本には体のつくりが一緒でも大きさはまったく違います。
しかし現生のミジンコやタカハシガニも時代をさかのぼっていくと共通の先祖にたどりつきます。
生物は絶滅と誕生を繰り返し進化していきますが、古生物を担当した私はそのような生き物の進化の過程の面白さを感じてもらえればと思っています。
栃木県立博物館 学芸部自然課主任研究員 柏村勇二先生 |
サソリの仲間アラリペスコルピウス |
今はいない生物が大昔には生きていて、それが進化して現生の生き物にもこんな共通点があるといった発見や違いをみていただければ面白いと思います。本企画展では現生のものと化石も並べて展示しているので比較しやすいのではと思っています。
今回の企画展のポスターやチラシには動物のシルエットをモチーフに制作されていましたが、このことについもお聞きしました。
チラシの制作を考えたときに節足動物にはサイズや形が違ういろんな生き物がいるよというのを紹介しようと思いました。
そう考えたときに、カラーにすると色に目がいってしまって形が全面に出てこないと考えました。そこであえてシルエットにし構成したんです。チラシの中心には現生で最大の節足動物のタカハシガニをレイアウトし、その周りには代表的な節足動物を並べるデザインにしました。そして文字の「の」の部分にはヤスデを使ってみたり、カラフルなものよりもモノトーンにした方が節足動物のフォルムがより際立ちより興味を引くチラシに出来たと思っています。
とお話頂きいただきました。
今回取材にご協力いただきました栃木県立博物館学芸部自然課主任研究員 柏村勇二先生はじめ本企画展に関われました関係者の皆様に取材のお礼を申し上げます。
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