ミニ企画展
ダーウィンフィンチ −ガラパゴス諸島で進化を続ける鳥
開催期間 平成26年2月11日から3月2日
開催場所 国立科学博物館(台東区上野公園)
日本館B1F階多目的室
南米沖のガラパゴス諸島周辺のみに生息する小型の鳥類ダーウィンフィンチ。チャールズ・ダーウィンもこの鳥から進化の着想を得たといわれているが、平成26年2月11日から3月2日まで、国立科学博物館で、ダーウィンフィンチ類、15種中14種の貴重な研究用剥製と、それらにかかわる資料が展示公開されていた。
本ミニ企画展では、このダーウィンフィンチ類の研究用剥製を紹介。展示用に製作された剥製とは雰囲気がちがう、実際に研究に使用されている標本が並べられていた。
また標本をもとに製作された精巧なバードカービングも同時展示。野生の剥製を実測して製作する精巧なバードカービングは、博物館の科学的な展示や保全活動に利用されていることなどを知る展示がなされている。

ダーウィンフィンチがすむ島
ここからは、展示内容を元にダーウィンフィンチについて紹介していこう。特に「適応放散」の代表例になった鳥類ダーウィンフィンチとはどのようなものか、パネルと標本を通して理解することができる。
ダーウィンフィンチ類は、南米沖ガラパゴス諸島とココ島に生息している。ガラパゴス諸島は太平洋に面した南米の国・エクアドルから、西に約1000キロメートルの活火山で、大陸と地続きになったことはなく、すべての生物が海を越えてたどり着き、独自の進化を遂げたとされる。ダーウィンは、1835年にガラパゴス諸島を訪れ、多くの動植物を観察、標本を採取。そして固有の生物が多くいること、島ごとに生息する種類も違っていることに注目したとされる。

ダーウィンフィンチとは
ガラパゴス諸島、ココ島にのみに生息する小型の鳥類ダーウィンフィンチ(ガラパゴスフィンチ)は、進化論を唱えたチャールズ・ダーウィンがビーグル号の航海で採取し、のちに世界に紹介されたものだ。
現代では進化の実態を示す例としてよく知られている。見た目は違う種類にしか見えない鳥たちが、実は同じグループ(ダーウィンフィンチ亜科)であったという事実は、ダーウィンが「種の起源」を著するに大きな影響を与えたが、ここでは進化の根拠の一つ、くちばしの形状がなどの違いをジョン・クルードが調査し報告した”The Zoology of H.M.S Beagle,Prart III birds”(「ビーグル号航海の動物学」復刻版)(John Gould画)等が並べられ、詳細な絵からも同じダーウィンフィンチのグループでもその違いを知ることができる。


「適応放散」の代表
鳥類学者のジョン・グールドは、くちばしの構造、短い尾羽、体の形、羽の色などの類似を根拠にムクドリやオウム、花鶏のようなくちばしをもつものから、ムシクイのような細いくちばしを持つものまで、13種の鳥を同じグループに分類。ダーウィンフィンチは「ただ一つの祖先種から多様な形質の子孫が短期間に出現する」という適応放散の代表例として知られるようになったことをパネルで紹介している。
主に木の上で生活する樹上フィンチ類は標高の高い常緑樹林帯に生息、主に地面に近いところで生活する地上フィンチ類は乾燥地に生息、ダーウィンフィンチの生息地が常緑樹林帯から乾燥地に広がったことが、樹上フィンチ類から地上フィンチ類へと種が分かれていく大きな要因になったと解説されていた。
また700kmほど北北東にあるココ島では、かつてのガラパゴス諸島から渡ったフィンチが長期の地理的隔離を経てココスフィンチという種に分かれたことを展示では解説を元に知ることができた。

精密なバードカービングでダーウィンフィンチを見る
今回の展示の特徴は、標本や写真をもとに製作された精緻な模型バードカービングからダーウィンフィンチ7グループ15種を比較し観察できるとことだ。かぎりなく実物に近く再現された模型は、くちばしの高さや鳥のスケール感を実際に見ることができる。また、展示方法も系統、形態、生態でわかりやすく分けられ、前述で解説された進化と形態がどのように関係しているかも知ることができた。実際の展示解説から7グループの特徴を紹介しておこう。

サボテンフィンチ類
長いくちばしでオプンティア(サボテン)の実や葉、花、花蜜を食べ、サボテンの花粉を媒介。この2種は違う島に住んでいる。オオサボテンフィンチ サボテンフィンチ。

ガラパゴスフィンチなど3種は、くちばしが太いにも関わらず主に昆虫を食べる。
オオダーウィンフィンチ、コダーウィンフィンチ (ダーウィンフィンチ)。
キツツキフィンチ類
頑丈で真っ直ぐなキツツキ型のくちばしで、樹木に穴をうがってカミキリムシの幼虫や樹皮の下に隠れた昆虫などを食べる。マングローブフィンチ、 キツツキフィンチ。
ココスフィンチ
ガラパゴス諸島から約700km離れたココとうにすみ、ムシクイフィンチ類に次ぐ細いくちばしをしているが、雑食で、フルーツや花蜜、昆虫、草の種子などを食べる。
ココスフィンチ 植物食樹上フィンチ
オウムを思わせるくちばしで、葉や芽や木の実などを食べる。ハシブトダーウィンフィンチ、 ハシブトダーウィンフィンチ

ムシクイフィンチ類
ウグイスやムシクイ類のように細いくちばしで、木の葉などについた昆虫などをつまみとってたべる。グレイムシクイフィンチ、 グリーンムシクイフィンチ。
マメワリ
マメワリは現生する鳥類の中でダーウィンフィンチ類に最も近縁な鳥、コロンビアからペルーにかけて南米大陸の北西部に分布、草の種子など食べる。
4 ダーウィンフィンチに関する研究
会場ではグラント夫妻によるリアルタイムで観察される進化の具体例として、フィンチが取り上げられていたので少し紹介しておこう。グラント夫妻は1970年代から2万羽を超えるフィンチ類を観察。その結果、エルニーニョの影響で気候が乾燥するたびに、新しく生まれる世代のくちばしや体の平均サイズが変化することを突き止めた。
干ばつがあると小さな種子が大幅に減るため、大きな種子を食べる必要性が増す。そのためくちばしが小さな個体は不利になって死亡率が上昇する一方で、くちばしの大きな個体は相対的に有利になって子孫を残す。このようにして時に数年単位できわめて急速に進化することが分かった。
これは産業革命のイギリスで見られた蛾の工業暗化(工業黒化)や抗生物質への耐性菌の進化などとともに「実際にリアルタイムで観察された進化の具体例」ひとつともいえるということだ。解説ではダフネメジャー島におけるガラパゴスフィンチの1976年の成長ち1978年の幼鳥のくちばしの高さの比較グラフも合わせて見ることができた。

会場にはバードカービングを紹介する展示も
今回の展示で重要な要素となったバードカービングだが、展示でもバードカービングについても触れていたので紹介しておこう。バードカービングとは鳥(Bird)の彫刻(carving)のことで、ハンターが鳥をおびき寄せるために「おとり」として使用した「デコイ」がそのルーツ、初期のデコイが、次第に本物の鳥の姿形に似たものとなっていったものだ。当初は伝統的な彫刻刀による木彫で始まった技法も、グラインダーや電気ごてなどの電動工具の使用によって、より精巧で実物に似せた作品が製作されるようになってきている。

ダーウィンフィンチのバードカービングの製作者 内山春夫氏
会場には、今回のバードカービングを手掛けたバードカービングの草分け的な内山春雄氏についての紹介コーナーもあった。野生の剥製を実測して製作する精巧なバードカービングは、博物館の科学的な展示に使われるほか、保全活動にも利用されている。その活動は、小中学校でバードカービング教室を実施したり盲学校の児童向け活動をおこなうなど、その普及にとりくんでいられる。ダーウィンフィンチのバードカービングを、進化について学ぶ教材とすることを考案し、国立科学博物館とともに製作した人物だ。


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