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展示会レポート 

「企画展 植物の進化」〜生き物たちのシーソーゲーム〜
平成21年7月18日〜平成21年9月23日
栃木県立博物館 企画展示室

栃木県立博物館において平成21年7月18日から平成21年9月23日の期間「企画展 植物の進化」〜生き物たちのシーソーゲーム〜が開催された。およそ35億年前の植物の祖先ラン藻の誕生から、真核化、多細胞化、そして陸上進出に至る現代の植物界の進化を学術的な見地と、多様な生物との関わりを通して植物の進化とはなにかを考えさせてくれる企画展だ。展示の構成は、前半部に植物の系統分化などを中心とした植物の定義を苔類や藻類などを中心に植物の進化の系統を学ぶ展示が行われている。また後半の展示ではシダ植物から裸子植物のメカニズムの違い、また被子植物が多様な生物に与え与えられる影響を植物の「衣食住」と「共進化」をキーワードにわかりやすく生態写真と標本とともに展示されている。また展示会場にはいくつかの植物の模型なども展示され子供たちにも企画展を楽しめる内容のものだった。
今回の取材では企画展をご担当されたお一人で栃木県立博物館の富永孝昭先生に解説いただきながらレポートを進めていこう。
それでは企画展コーナーを順に見ていくことしよう。

1 入口に大きな系統樹のイメージが

会場の入口には縦3m横3mほどもある大きな植物の系統樹をイメージした展示がある。この系統樹のイメージは、それぞれの枝に植物の進化にそってラン藻類や被子植物などの写真が貼られ系統分化をイメージしやすいものになっていた。興味深かったものは少しはみ出た糸だ。「これは何ですか?」と聞かれることがあるそうだが植物とは別の生物の系統と一緒になって生まれた一見植物の褐藻類や珪藻類などで、本来植物ではなく別な共生によって生まれた生物なので別のラインになっているとのことだ。また本当の意味では植物ではないミドリムシも別系統になっている。この系統樹のイメージの上部に被子植物あった。


入口にある大きな系統樹のイメージ

系統樹から伸びた糸にも意味がある


植物の進化の展示のポイントについて

前半部では35億年前に誕生した真核植物祖先ラン藻の出現から4億5千年前に出現した最初の陸上植物のコケ植物までがテーマになっている。普段私たちは進化とは階層化され上に積まれていくことをイメージするかも知れないが、ここではいろんな種類、多様な藻類が増えていき環境に適応し様々な生物が生まれていったということを前半では知ることが出来る。

2 植物の誕生 ラン藻の出現

ストロマトライトがなければ光合成が生まれなかった

入口を入ると植物の誕生を紹介するコーナーがある。ここではラン藻の出現をシアノバクテリアなどの展示とともに解説がおこなわれていた。また進化の中ではストロマトライトの影響が大きいこともあり展示ではストロマトライトの化石と現生のストロマトライトの写真と成因を紹介している。特にストロマトライトの層形成に関して一晩で起きたり寝たりを繰り返すことで1つの層が出来る仕組みが分かる模型を使いその成因の代表的なものの1つとして知ることが出来た。


会場入口全景

ペルム紀のストロマトライト化石


このコーナーについて

「企画展のタイトルは植物の進化ですが、このコーナーでは植物を紹介しているわけではありません。なぜならシアノバクテリアは細菌です。しかしこのシアノバクテリがなかったら後の真核生物も現れなかったわけで真核の植物、藻類が現れるためにはラン藻類が必要だったわけです。それでここではストロマトライトの話をしています。」

とここでは生物におけるストロマトライトの重要性を富永先生に解説いただいた。

展示全体を通して子供たちに楽しく学んでもらうように工夫されている。クイズや深海を疑似体験してもらう展示などもその1つだ。このコーナーでは今も生きているストロマトライトが見られる国はとのクイズが出されていた。(答えはオーストラリア)


植物の誕生コーナー

ストロマトライトの成長模型


3 真核藻類の出現  葉緑体の獲得

このコーナーではどのようにし真核藻類が生まれたかの解説と20億年前に生まれた最初の藻類がどのように枝分かれし子孫を残す生殖のメカニズムを持っていたかを写真やパネルを使い解説されている。

富永先生は―

「特にこの話は難しいという意見を館内でも頂いています。
しかし今までも脊椎動物の進化というとまさに恐竜や陸に上がった両性類などの化石がありますからそれで流れを追っていくことが出来ます。しかし植物の場合、特にこの時代の植物化石がないので植物の進化の話をするにはどうしても生殖の話を除いて出来ません。」


真核藻類の出現コーナー

緑藻と植物の生殖に関す解説パネル


「植物の進化は生殖の進化ともいます。精子の存在が陸に上がる上で不可欠であったことも重要な要素なのです。動物が体外受精だったものが体内受精になったように、また卵の殻の存在があったように植物の進化の上でもこの点を理解していただくために解説しています。この点を良く理解していたくことがここでのポイントです。」

とこのコーナーのポイントをお話いただいた。

展示ではラン藻の子孫として緑藻が解説され、形態に特徴がある緑藻類が並べられている。一つ一つが巨大な単細胞で出来た緑藻類のカサノリの標本、体にいくつも穴の開いているアナアオサ、深い海に生息するミルなどの標本が並べられていた。


左から ヤブレグサ ミル カサノリ アナアオサ 

傘の形が特徴的なカサノリ


特に“カサノリ”は高校生の生物の時間に遺伝子のことについて登場するものだが、実際に見ることで理解していかれた方も多かったのではないだろうか。

4 淡水域に進出する藻類

藻類は海から淡水域に生息域を広げていったが、ここでは大型の藻体を形成するカワノリと世界で二ヶ所、日本では日光の渓流にだけ生育する大変珍しいアオサ藻綱緑藻類のカワアオノリの標本などが拡大された写真などとともに展示されている。


陸上植物の祖先を紹介したコーナー

栃木県で採取された淡水緑藻類




「ご存知の通り栃木県は海のない県ですから海草は当然ありません。しかし、海草の話を抜きに藻類の話は出来ません。そこで、反対側のコーナーでは海藻と陸藻の現存種を展示しています。そして淡水藻の展示の比重がどうしても大きくなっているのではと思います。」

「私自身も調査していますが、栃木県には面白い淡水藻がたくさんあります。カワノリというのは日本特産の種なのですが、栃木県の塩原周辺が北限とされ、東北地方にはないといわれているものです。そしてこちらのカワアオノリですがヨーロッパに一ヶ所と日光地域に一ヶ所しかその生息が知られていない珍しい種です。」


左 カワノリ  右 カモジシオグサ

珍しいカワアオノリの標本


「このカワアオノリはもともと海のものです。それがたまたま日光のどこかに運び込まれてそれから淡水に適応していったのではないかと考えられています。」

「また標本で見るとシオグサとこの違いがわかりますが、実際に調査に出て川の中で見ると手に取りルーペで見ないとその違いは分かりません。またいろいろ調べていますが日光の一部の流域にしか見つけることが出来ないものです。もう一ヶ所生息が知られているのはクロアチアらしいのですが、そこはこの分野を専門に研究されている方でもどこにあるかよく知られていないそうです。」

「標本としてはとても貴重なものです。」
と解説いただいた。今回の企画展で抑えておきたい展示の1つだ。


5 植物とは

「陸上への挑戦」の解説と「様々な藻類」を紹介コーナーの間に、植物における学術的な考え方の説明がなされている。このコーナーでは、植物の分類や系統におけるこれまで研究されてきた学説をもとに植物とはどのようなものであるかを解説されている。
まず、生物を動物と植物の2つの世界に分けた分類学の古典的なリンネの「二界説」を説明し、ホイタッカーの「五界説」そして「八界説」さらに「野崎らによる植物界」までの様々な植物の分類と系統について解説されている。


植物とは何かコーナー全景

五界説など詳しく解説


今回の展示会では、これらの植物における分類の変遷を紹介しながら、系統や類縁にとらわれず。私たちが考える「植物」の姿に最も近いと考える酸素発生型の光合成をおこなう生物をすべて「植物」として紹介されているとのことだった。

またここでは、今ではあまり使われることがない葉状植物についての解説を標本とともに紹介されていた。葉状植物という言葉だが、葉っぱのように見える平らな生物群をそう呼んでいたものだ。

この生物群でいえば、ここに展示されている緑藻類のアオアサ、地衣類のイワタケ、担子菌類のキクラゲ、また苔類のゼニゴケも入り全部植物に分類されていたこになる。しかし、今ではそのように分類されることはなく、それぞれ違う種であることを標本からも知ることが出来る。


左からアオアサ、イワタケ、キクラゲ、ゼニゴケが並ぶ

植物進化の研究を解説


6 藻類のいろいろ

様々な藻類を紹介したコーナーでは、生息域や色そして生態別に多様な藻類が詳しく紹介されている。深い海に適応していき赤く見える紅藻類、紅藻類を食べていた原生生物の一種が、食べた紅藻類を消化せずに、体内に共生させるようになったのが始まりとされる不等毛藻類。それらに分類される巨大なコンブの仲間で海中林を形成する褐藻類、そしておよそ2億年前に出現し地上や植物の表面、高温の温泉から氷の下に生息するものもある珪藻類。その中には中心珪藻、羽状珪藻など形も生態も様々な藻類があり、それらを標本や模型などを使い知ることが出来るように解説されている。

展示では紅藻類のことを理解してもらおうと、来館者の方に青い海の世界の中では、紅藻類の赤色がどのように見えるか擬似体験してもらうため青いフィルムが貼るられた深海メガネがあった。
この深海メガネを使うと紅藻類の赤は黒く見え、陸上では赤く見えることがわかりやすく理解できる。


様々な藻類のコーナー

紅藻はなぜ赤いかなど解説されている


また基本的に深い海の中に多い紅藻類だが数は多くないが淡水域に進出した種も存在する。ここでは、日本固有種で淡水産紅藻類のオキチモズクが展示されていた。
オキチモズクは四国、九州、沖縄に生息する大変珍しいものだそうだ。


色が赤い紅藻類の標本

深海メガネを透かすと紅藻類は黒く見える

その他、紅藻類は、八界説の分け方では植物として呼んでよいが、褐藻類や珪藻類は八界説ではクロミスタ界という別の界になってしまうことや、カジメやナガコンブなどの大きな褐藻類の標本が並べられ解説されいる。


褐藻類の展示ではカジメやナガコンブガが並ぶ(左下から)

左からヒジキ、ノコギリモク、ワカメ、アラメ

植物?動物?どっちなの?と題されたミドリムシを紹介したコーナーでは、ミドリムシの模型を使いその生態の解説が行われていた。特に体をくねらせて動くミドリムシのユーグレナ運動をわかりやすく複数体の模型から体の変化することがわかりやすく展示されている。
ちなみにミドリムシは五界説では原生生物界に属しているので植物界には属していないそうだ。


ミドリムシの模型が並ぶ

ミドリゾウリムシの解説もあわせて

7 陸上に上がったシャジクモの祖先

植物は海から生まれ、やがて淡水に入り、淡水から陸に上がるという順序をたどることになるが、陸に上がっていった植物の祖先として今考えられているシャジクモの仲間がこのコーナーでは解説されている。ここまでは、淡水や海に生息する多様な種を見てきたが、ここからは、陸上に進出していく植物が模型や写真、標本などを通して見ていくことが出来るコーナーになっている。


陸に上がった藻類や最初の陸上植物を紹介

藻類の適応について詳しく解説している

まず解説されていたのが陸上植物につながっていく藻類、シャジクモの仲間が説明されていく。

実物のカタシャジクモ、シャジクモ、ミルフラスコモの3種類が容器に入れられ展示されている。
写真展示としてアオミドモも紹介され接合藻類に属し広い意味でシャジクモの仲間であることを知ることが出来る。これら接合藻類が陸上に進出する背景には水中では足りなくなった二酸化炭素を一部の藻類が陸上に求め進出したのだということだ。


左からミルフラスコモ、シャジクモ、カタシャジクモ

シャジクモノの写真と陸上に進出した藻類について解説

またここでは陸上の生息に対応するために必要な乾燥対策と紫外線対策について書かれている。
その他に、藻類と菌類とが共生している地衣類に関しても苔類が上陸する以前に進出していた可能性があることなども知ることが出来る。

ここにはラン藻類と子嚢菌類が共生した地衣類のトゲカワホリゴケ、同じく緑藻類と子嚢菌類が共生したコフキゲジゲジゴケなどの標本が並べられていた。


菌類との共生についても解説されていた

左からトゲカワホリゴケ、コフキゲジゲジゴケ、スミレモ、イシクラゲ


8 およそ4億5千万年前に最初の陸上植物が現れた

ここからは陸上に現れ始めたコケの生殖や多様なコケについての展示と解説が行われている。特に、50年ほど前に発表されたナンジャモンジャゴケは、コケ研究を知る上でも重要なポイントとして詳しく標本と模型などを使い説明されていた。


最初の陸上植物コーナー

ナンジャモンジャゴケの標本


その名称に特徴があるナンジャモンジャゴケだが、見つかった当時は知られていたコケに似たものがないため、コケかどうかわかからなかったらしい。しかし50年前にはとりあえず苔類として記載されたが、現在では遺伝子の系統解析により蘚類の最も祖先的な仲間といわれているのだそうだ。

ではなぜ?となるが少し難しくなるが興味深いので先生にお聞きすると、まずコケ植物(コケ植物門)には蘚類、苔類、ツノゴケ類があり。順に見ていくとツノゴケ類は見た目ではっきり違い。蘚類と苔類の葉の形の違いは、言葉だけで説明するのは大変難しいが、蘚類は楕円形の桜の葉のような、深い切れ込みの無い葉を持ち、苔類は、モミジの葉のような深い切れ込みのある葉など様々な形態の葉を持っている。ナンジャモンジャゴケの場合、葉が棒状でふつうの葉のような形ではないので、苔類と考えられ発表されたのだそうだ。その後、胞子体が見つかったことと遺伝子の系統解析により蘚類の中の最も祖先的なものであると今ではいわれているのだそうだ。


様々なコケ類を知ることが出来る

ナンジャモンジャゴケの拡大されたレプリカ


ちなみに、胞子体だが、受精に必要な胞子をつくるもので、陸上に現れたコケ植物には重要なものだ。そして、上手く受精が出来るように胞子体が発達し、その後の維管束植物の進化へとつながることも解説されていた。

展示では、ヒマラヤナンジャモンジャゴケの写真とナンジャモンジャゴケの標本、またナンジャモンジャゴケの拡大されたレプリカが展示されその特徴を見ることが出来た。
そのほか栃木県のクロカワゴケなど多くの形や大きさの違う多様なコケの標本と写真が並べられている。

9 シダ植物の出現と裸子植物の誕生


ここまでは、最初の原核生物から他の生物や生息環境よっていろんな藻類が分化していったことが中心に植物の進化についての展示がされてきたが、ここからのコーナーでは、4億2千万年前のシダ植物の出現と裸子植物の誕生にスポットを当て展示が進められている。


シダ植物と裸子植物の展示が並ぶ

初期の維管束植物を知る資料としてマツバランが展示されている


維管束を獲得したシダ植物

このコーナーでは、維管束を獲得したシダ植物を、胞子体の発達、葉の構造と起源などをテーマに解説し裸子植物へつなげている。特に初期の維管束植物に似ているマツバラン、葉の構造と起源で解説されていた葉脈が分岐している大葉のミドリヒメワラビ、葉脈が一本のみの小葉クラマゴケなど多様なシダ植物の特徴を標本と写真で解説。

その隣のコーナーでは、3億4千万年前に誕生した裸子植物が解説展示されている。
ここでは裸子植物の種子を形成する過程が模型で展示されよりイメージしやすい展示になっていた。
また、裸子植物の花粉を捕まえる仕組みも紹介されている。裸子植物は胚珠の先端に小さな穴があいているが、受粉の時期になるとそこから受粉滴を分泌し花粉を受け止め胚珠の中に引き込むのだそうだ、その受粉滴を出しているようすを捉えた珍しい写真も展示されている。


裸子植物の誕生コーナー

種子を形成する過程が模型で紹介


10 被子植物の出現

ここからは被子植物の出現と環境への適応を「衣食住」をテーマに解説と標本そして写真を中心に展開されている。

まずコーナーの初めに祖先的な被子植物はどのようなものであるか形と遺伝子の違いから2つの説が紹介されている。形から見ると現生において大変近いものはモクレン(モクレン説)を、遺伝子からは植物間の類縁関係を見てモクレンではなくアンボレラであるという違う説が説明されていた。

植物にとっての”衣“”食“”住“


植物の環境への適応を詳しく解説

モクレン科のホオノキの標本


このコーナーでは、植物にとっての“衣”“食“住”について解説している。植物も人間と同じように衣をまとい食し住んでいるという視点からどのように環境に適応していくことで様々な特徴を持てってきたかを知ることが出来る展示だ。

まずは植物の“衣”であげられているのは、有害な紫外線から身を守るユキノシタノ一種や植物体に綿毛をまとい”セーター植物“と呼ばれ寒冷地に適応したとされるトウヒレンの一種などが写真と解説で知ることが出来た。

また“食“では光合成に必要な酸素を内部の空洞から確保するのに役立つことがわかるハスの地下茎の標本や、葉がツボ型に変形しその形が特徴的なウツボカズラの一種なども昆虫などを捕まえ消化し養分を摂取するよう進化した食虫植物として写真と標本とともにその特徴がわかるようになっていた。


植物にとっての「衣食住」を知ることが出来る

ハスの地下茎、ウツボカズラの一種、タイサンボクの標本が並ぶ


植物の“住”では、生息環境に対し体の一部が変形した大きなコウホネを例に解説されている。コウホネは、水中に沈む葉(沈水葉)と、空中に出ている葉(抽水葉)とでは性質が違うのだそうだ。水中に沈む葉は水流に逆わないようなワカメのような形をしているが、空中に出ているものは乾燥しにくくなるよう適応している違いを見ることが出来る。

生息環境に適応してきた植物だが、他の生き物から捕食されない防御手段で守ろうとする植物を次のコーナーでは紹介されている。
ここでは物理的に防御するものとして葉や茎などにトゲを持ったものの例にフジアザミ、また毒など化学的な防御を行うジャガイモの芽、ヒガンバナの写真そしてヤマトリカブトの標本があった。

また被子植物は捕食から逃れるだけではなく逆に養分を寄生により摂取するものもいる。ここでは葉緑体を持ち光合成をおこなう“半寄生植物”のヤドリギが頭上に展示され実物の大きさを見ることも出来る。


植物の「住」ではコウホネの標本が

大きなヤドリギが頭上に


11 様々な生き物と協力しあう共進化

ここまでは被子植物が捕食し捕食されないようにどのような進化が起こってきたかを知ることが出来たが、ここからは多様な生物と互いに利用し協力しあって生きていこうとした共進化が解説されている。花粉を運んでもうための共進化から種子の散布のために起こした多様性まで興味深い展示になっている。


共進化のコーナーでは様々な生物が登場

大きな花を目印にメジロなどをに送粉してもらうヤブツバキ(右)


まずは送粉における共進化からだ。ここでは、動物など送粉者である鳥や昆虫に存在をアピールするために花の色や大きさ、また匂いなど様々なバリエーションを発達させることでアピールすることが写真で説明されている。また、送粉者にはどのような生き物がいるかを知る資料としてヒヨドリやメジロといった鳥の剥製標本とタチツボスミレの花にやってくるツマキチョウやビロウドツリアブなどの昆虫の標本なども並べられていた。
さらに、いかに送粉してもらうかをテーマにした展示では、蜜を得ようとして動き回る鳥やハチがどのようにアプローチしていくかスポットを当てその関係を見ることが出来た。


送粉する生物としてヒヨドリとメジロの剥製標本で紹介

送粉するハチと花との関係を知る写真が並ぶ


紫外線を発するオヘビイチゴの花

また人間の目には見えない紫外線だが、昆虫にはどうやら見えているらしい。そしてこの紫外線が花粉や蜜を見つけるためのしるし(蜜標)になっていることをオヘビイチゴの花を紫外線で見たときと可視光線で見たときの比較を写真で説明がされていた。


タチツボスミレの花を訪れる昆虫とタチツボスミレのレプリカ

紫外線を出すオヘビイチゴの花を説明


12 植物一種と送粉昆虫一種の共進化  ―絶対送粉共生系―

共進化の中には、先ほど紹介したタチツボスミレの花にやってくるツマキチョウやビロウドツリアブなど大体この植物には、このような昆虫の仲間が来るというものがある。しかし中には昆虫と植物が一対一の関係になっているものがあるらしい。これは絶対送紛共生系と呼ばれており。現在3種類が知られていて日本でもこれらのうち2つは見られるそうだ。そのうちの1つイチジクの仲間イタビカズラは栃木県内にも生息している。もう1つのカンコノキは、奄美地方に生息している。今回の展示ではこの2種類が展示され解説されていた。

まずイタビカズラの絶対共生関係にあるイタビカズラコバチだが、大変興味深かったのは、イチジクの花嚢の中に産卵し羽化すると雄は飛ぶことも歩くことも出来ず交尾するだけで雌は出ていくときに送粉を行い別の花に行って産卵をするとのことだ。

また同様にウラジロカンコノキとホソガの関係も、送扮するホソガの雌の写真やウラジロカンコノキとホソガの標本と一緒に解説されていた。


絶対送粉共生系についての解説展示

イタビカズラコバチを双眼顕微鏡で見ることも


この点を富永先生にお聞きした。

「イタビカズラは福島まで生息していますが、栃木県は北限に近くどこにでもたくさん生息しているものではないのです。でもこの植物のところには、この虫がいるのです。当然ですが、この虫がいないと世代を残すことが出来ないわけです。人間からするとこんな少ないところに虫がいるのと思ってしましますね。この植物と虫の関係は本当に素晴らしいと思います。この一対一の関係というのは、どちらかがいなくなってしまったらイタビカズラであれば、イタビカズラコバチはここにいられなくなるわけです。」


ホソガもルーペで

ウラジロカンコノキの標本


とお話いただいた。

13 菌類と被子植物の共進化

ここからは菌類と被子植物の関係が解説されたコーナーになる。まず多くの被子植物では、その根において菌類と恒常的な共生関係が築かれていることが解説されている。菌根と呼ばれるこのような根は、菌根菌と呼ばれる共生菌の働きで、植物が寄生菌に被害を受けないように共進化してきたことが説明されていた。その上でアーバスキュラー菌根と呼ばれる陸上植物の7割以上で見られる菌根の模型とその働きについて解説されている。


菌類と被子植物の共進化コーナー

アーバスキュラー菌根の模型でその構造を知ることが出来る


また、先ほどの菌根共生系のあとに進化した根にブツブツの根粒といわれる根粒菌とマメ科の根がつくる共生系を根粒共生系と呼ぶが、この解説もされていた。

ここではマメ科のアズキの根粒のわかる標本を見ることが出来る。


様々な共生系を知ることが出来る展示が並ぶ

マメ科のアズキの根粒標本


14 多様性にとんだ種子

このコーナーから種子の解説で、いろいろな種子を見ることが出来きる。虫を利用するもの、風を利用するもの、その利用方法によって形や大きさなど多様性にとんだ種子を実物と写真とで知ることが出来る。


このコーナーでは多様な種子が紹介されている

風に飛ばされる種子が並ぶ


順に見ていくと、自然に落下するもとして木についているときに発芽し落下後土に刺さり成長するオヒルギ、そして六角形の形が特徴的なトウシキミの種、またブナ科のカシ類やナラ類の果実でドングリとして知られているものなどがあった。また、風で飛ばす種子にはガガイモノの一種やタンポポの一種など飛ばされやすいように毛や翼状になっているのが特徴的だ。他に動物に運ばれるものとしてキレンジャクなどに食べられた後、粘った糞として出され発芽するヤドリギ、そしてリスなどに運ばれるオニグルミなどが動物の剥製標本とともに並べられイメージがしやすいよう展示されている。
最後にオオオナモミなど人の衣服などにつく、ひっつき虫などがあった。


ヤドリギの周りにはリスやキレンジャクの剥製標本が

ズボンにはいろいろなひっつき虫が


またここでも来館者の方に理解てもらうために種子の模型で実際に見て感じてもらうことが出来るようになっている。
この展示はもともと種子動きを理解してもらうために実物の種子をフードなどで囲い風を送り見てもらおうと考えられたそうだが、それだけではスイッチを押すだけで実感がわかない、そこで拡大した大きな模型を手で引っ張った方が楽しいのではないかと作成されたそうだ。


人が入ってシタバチの体験も出来る大きな模型

種子の模型を使って飛ぶようすを実験、手前のロープを引っ張ると上から下に下りていく仕掛けだ


15 これからの植物

植物の進化を紹介した今回の企画展の最後は、植物の未来について解説されていた。
ここではバイオテクノロジーや栽培などによる人による進化と、近縁な2種が交雑を繰り返し種の中に別の形質が紛れ込む浸透交雑によって今ある種がなくなってしまうことなど未来に懸念される問題点などを知ることが出来る。


植物の未来を解説しているコーナー

浸透性交雑の解説をコウホネの一種で解説


ここでの起こる問題として、自然に起こる上では問題ないが、人が持ち込むことで今までは浸透交雑しなかったものがしあい貴重な種が失われつつある危機を伝えていた。



16 最後に富永先生に企画展のテーマとポイントをお聞きした。

「今回の企画展では、植物は多様であること、また進化は一直線ではないことを知っていただきたいと思っています。いろいろ他の生物と関わりながら、それが共生であったり、やっつけながらであったり、共進化であったり。共進化は協力かも知ませんがだましあいなのかも知れませんね。お互いに、人間が言う協力かどうかはわからないですが、ほかの生物と関わりあっていろいろ真っ直ぐではなくていろいろ枝分かれしながら進化してきたんだということです。」

「また進化というとどうしても一番進化しているものは何ですかと聞かれることがあります。結論を言えばそれはありません。なぜなら未来にわたって永遠に続くわけです。ラン藻も35億年前に生まれたのだから一番原始的だろうと思われるかも知れませんが、35億年ずうっと進化し続けてきたのです。今の環境に合わせて。そういう意味では長い年月がかかって進化したラン藻が一番進化しているのかも知れません。」

「また階層の一番上にいるものが一番進化したものではなくて、今生きているものは同じように進化している。もちろん退化してしまったものが進化しないのではなくて、それはたまたまそのときの環境に合わなかっただけですよね。」

「進化というのはすべて同じようにしているのだと思っています。」

とお話いただいた。


解説いただいた富永孝昭先生

展示の最後には身近な野菜や果物を使って名前を当てるクイズも


メッセージ

「今回の企画展で紹介した多様な植物の中には、あまり知られていないものもあります。しかし、企画展を通していろんな生物があることを再認識ほしいと思います。」

「また、希少だと思われている植物は本当には希少なのではなくて、たまたま生息環境の変化で数が減り希少になっただけです。今の環境が保たれなければ今の生き物は生きていけません今の生き物を守りたければ今の環境を守っていかなければすべての植物が希少なものになってしまいます。」

とお話しいただいた。

17 最後に 

今回の企画展 「植物の進化」では、難解に思える植物の進化を入口の系統樹のイメージでつかみ、そのあと展示物で植物の系統分化や共進化など様々な生物との関りを詳しく紹介する手法がとられていた。会場には植物の模型が展示され多様な植物の世界を分かりやすく知るだけではなく、どのようにして植物は過酷な生息環境に適応し進化を遂げてきたかを理解することが出来る展示だった。さらに35億年にわたる進化の過程を当時の化石や資料が少ない中、現世の生物から学ぶ企画展はまさに博物館でしか出来ない貴重な企画展だった。


最後にご解説ご協力いただきました富永孝昭先生また展示を担当されました星直斗先生、齊藤みずほ先生ほか栃木県立博物館の先生方に心よりお礼申し上げます。


栃木県立博物館 企画展 

「企画展 植物の進化 〜生き物たちのシーソーゲーム〜」

開催期間 平成21年7月18日〜平成21年9月23日
開催場所 栃木県立博物館 企画展示室
(休館日は博物館ホームページを確認ください。)

入館料:一般/250円(団体200円)高校・大学生/250円(団体200円) 
中学生以下無料 ※()内は20名以上
の団体料金

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