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展示会レポート 
企画展「絶滅危惧植物展」
開催場所:国立科学博物館筑波実験植物園にて
開催期間:10月3日〜10月12日

国立科学博物館筑波実験植物園にて10月3日から10月12日の期間、企画展「絶滅危惧植物展」が開催された。今年は野生では絶滅してしまった貴重な水生植物のコシガヤホシグサの野生復帰に関わる資料とともに開花したコシガヤホシグサが展示されていた。

また、日本の自生する4分の1,約1700種類にも及ぶ絶滅に瀕している絶滅危惧植物の現状をパネルや写真などで知ることができる。今回の企画展では、絶滅危惧植物を園の屋外と屋内にわけ展示されていた。屋内展示では絶滅種として1度指定され、その後生息されていることが発見されたシビイチタシダや、同じく絶滅が危惧されているタイワンシンシラン、タイワンホトトギス、など多くの絶滅危惧植物を見ることができた。

国立科学博物館筑波実験植物園では、植物の多様性を、「知る」、「守る」、「伝える」をキーワードに活動が行われているが、今回の展示でも科学博物館が行うさまざまな活動とあわせ、絶滅危惧植物の保全に関わる研究なども知ることができた。


国立科学博物館筑波実験植物園入口

花を咲かすオオシマノジギク

取材当日には今回の企画展を担当された國府方吾郎先生による絶滅危惧植物展の展示案内が行われていたのであわせて報告していこう。


1 屋外に展示された絶滅危惧植物

本企画展での特徴は、なんといっても屋外と屋内に多くの絶滅危惧植物を見ることができる点だ。時期とタイミングさえあえば開花したようすも見ることができ,これが毎年多くの方が来園される魅力の1つではないだろうか。

それでは、屋外展示されている絶滅危惧植物を見ていこう。植物園内には、絶滅危惧植物の区画が設けられている。本企画展では、それらの種に解説がなされ見ることができた。
その中からいくつかを紹介していこう。

エゾヨモギギク

オオシマノジギク

1 エゾヨモギギク 海岸近くの草原などに生育する。園芸としても利用されるため野生への逸脱が心配されている。護岸工事などにより個体数が減少している。

2 オオシマノジギク 海岸近くの岩場に生育する。染色対数の倍加を伴いながらリュウノウギクから分化したと考えられている。護岸工事などにより個体数が減少している。

3 タチスミレ 湿地に生える多年草。5〜6月にかけて開放花、その後晩秋まで閉鎖花をつけて種子を生産する。その間ヨシやオギの間で茎を伸ばし、草丈はしばしば1mを超える、関東地方の利根川水系と九州の一部に分布し、茨城県では利根川の支流である小貝川と菅生沼に生息する。現在、茨城県自然博物館および、筑波実験植物園との多くの研究者が協力し、火入れ等の人為的な植生管理を行い、タチスミレ群落の復元に効果をあげている。


タチスミレ

コシガヤホシクサ
.

マツムラソウ

ツルウリクサ

4 コシガヤホシクサ 野生から絶滅してしまった貴重な水草。筑波実験植物園ではコシガヤホシクサを野生に戻すための研究保全活動を環境省と共同で行っている。

5 マツムラソウ 崖などの湿った環境に生息する。花序にムカゴができ無性生殖を行う。もとより個体数が少ない。

6 ツルウリクサ 奄美大島、沖縄島、宮古島で確認されていたが、沖縄島と宮古島では絶滅した可能性が高い。


シブカワシロギク

キイジョウロウホトトギス

7  シブカワシロギク 蛇紋岩によく見られる。基本種のサワシロギクと比べ葉が細く、光沢もある。もとより個体数が少ない。

8 キイジョウロウホトトギス 花期8月〜10月。和歌山県紀伊の深山などに分布。名は花の上品さを上臈(ジョウロウ:宮中に奉仕する貴婦人)に例えて。ユリ科

9 タイワンホトトギス 水の滴る滝側などに生息する。国内ではもとから個体数が少ない。
などが展示されていた。

中でも取材時には、タイワンホトトギスやツルクサソウ、オオシマノジギクなどの花が咲かせており小さくきれいな花を観察することもできた。


タイワンホトトギス

取材時にはタイワンホトトギスが開花していた

2 コシガヤホシグサの自然復帰

絶滅危惧植物展の屋内展示には、絶滅危惧植物を展示するだけではなく筑波実験植物園で行われているさまざまな研究や活動についても紹介し解説されている。
特に、自生地である茨城県砂沼から絶滅前に救出したコシガヤホシクサの保存・増殖に関する研究では、今年6月に砂沼で種子の発芽に成功するなど〜植物版トキを目指して〜と題されたコシガヤホシクサの自然復帰プロジェクトは野生絶滅植物の自生地への復帰活動として今年大きくマスコミなどでも紹介されたが、この研究や活動についても調査時に使用したウエットスーツなどとともに解説が行われていた。
展示のポイントはコシガヤホシクサの野生復帰に向けた保全生態学的研究とコシガヤホシクサ野生復帰プロジェクトに関する概要が解説されている点だ。

コシガヤホシクサの保存・増殖に関する研究解説

コシガヤホシクサ野生復帰プロジェクトに関する解説とコシガヤホシクサが展示

コシガヤホシクサの野生復帰に向けた保全生態学的研究では、生息域保全(安定した種子生産・保存方法の確立)と生息域内保全(復帰予定地での播種・移植法方)の2点についての解説。
そして、野生復帰基盤の構築と復帰に最も適する環境を明らかにするための研究が紹介されている。

プロジェクトの概要の解説では、砂沼でのコシガヤホシクサの生活史、魚などによる撹乱、食害の影響、また光量による生育の違いの、そして最も重要な沼の水位の違いによるコシガヤホシクサの生育のようすや調査に関する解説を見ることができた。


屋内で展示されていたコシガヤホシクサ

屋外展示されているコシガヤホシクサ

このほか、日本に生息する16種のうち13種が絶滅危惧・準絶滅危惧種になっている海草に関する解説パネルが並べられている。


絶滅危惧・準絶滅危惧種になっている海草解説

水槽にはコアマモが展示されている

3 地中から蘇ったガシャモク

絶滅危惧TA類のガシャモクは水草の仲間で1960年頃まで、利根川水系・琵琶湖・北九州などで生息が確認されていた種だが、その後、安定した生息地は北九州の1箇所だけとなった絶滅危惧種だ。しかし、1998年に手賀沼に近くの土木工事でできた池にたくさんのガシャモクが現れたそうだ。これは地中に眠っていた種子が発芽したものだそうだ。ここでは、地中の種子からガシャモクを復活させる研究についても解説されていた。

まず、これらのような種子がどれほど眠っているのか、さらに実際に地中から発芽するのかなどをポイントに解説されている。また千葉県手賀沼湖底堆積層からは26種の水草植物が見つかり、2種のカタシャジクモとシャジクモの発芽したことが紹介されていた。
このコーナーではガシャモクとともに絶滅危惧TA類のヒメシロアサザや絶滅危惧U類のミズオオバコなどの水草も展示されていた。


ガシャモクの地中に眠っていた種子から復活させた研究についての解説

絶滅危惧TA類のヒメシロアサザ

デンジソウとミズニラ

絶滅危惧U類のデンジソウ

4 多様な絶滅危惧植物

絶滅危惧植物展では多く絶滅危惧植物が鉢植えなど生きた状態で展示されているのが魅力の1つだ。先ほど紹介した海草、水草のほかにも特徴的な絶滅危惧植物の展示が種のグループごとに解説し展示されている。ここではそれらの展示を見ていくことにしよう。

美しい谷川に生息するチャルメルソウの仲間

屋内展示の入口はいってすぐにチャルメルソウの仲間に関する解説の展示がある。このチャルメルソウの仲間はユキノシタやダイモンジソウと同じユキノシタ科の植物で、美しい谷川や滝のそばに、水しぶきがかかる湿った場所に好んで生息する種だ。日本の多様化が著しい植物のグループで、日本を代表する1つといえるものだが残念なことに5種が絶滅の危機に瀕している状況が解説されている。

チャルメルソウの仲間に関する解説

トサノチャルメルソウ(九州産)


トサノチャルメルソウ(四国産)

ツクシチャルメルソウ


タキミチャルメルソウ

モミジチャルメルソウ

展示では、トサノチャルメルソウ(九州産)(四国産)、ツクシチャルメルソウ、タキミチャルメルソウ、モミジチャルメルソウなどの絶滅危惧種植物のチャルメルソウの仲間が展示されていた。

琉球列島の絶滅危惧植物

ここでは、絶滅危惧植物の集中する地域にスポットをあてその地域に生息する植物が展示されている。日本九州と台湾の間に位置する大隈諸島とトカラ列島の一部を除く島々は、温帯と熱帯の中間的な気候帯で亜熱帯になるが、世界の中で亜熱帯を見ていくとその多くの地域は砂漠や乾燥した地域が広がっている。しかし、琉球列島では梅雨や台風が雨量をもたらし世界的にも珍しい湿潤な亜熱帯を作り、生物多様性が高い地域といわれているそうだ。だが、その反面絶滅危惧植物の集中する地域でもあり琉球列島の単位面積当たりの絶滅危惧植物の数は日本全体の約60倍以上高いことが解説されていた。

琉球列島の絶滅危惧植物

絶滅危惧TA類 マツムラソウ

会場には屋外展示もされていたマツムラソウや奄美大島の固有種で2箇所にしか分布しないアマミクサアジサイ、渓流沿いに生息するツワブキの渓流型リュウキュウツワブキ、日本では沖縄島の1箇所だけ分布するハナコミカンボク、日本では宮古島の海岸にしか分布しないミヤコジマソウなどが展示されていた。


リュウキュウツワブキ タイワントリアシ ヒメショウジョウバカマ

イラブナスビ ミヤコジマソウ オキナワギク


筑波実験植物園での絶滅危惧植物の保全

筑波実験植物園では日本シダ協会の協力により絶滅の恐れのあるシダ植物の収集保全に努めている。2007年度版の環境省レッドデータリストにある絶滅危惧シダ植物202種のうち、実に40%にもなる80種類を保有している事実からもいかに保全にかんして重要な機関であることがわかる。

今回の展示でも多くの絶滅危惧シダ植物が展示されていた。
その中でも1度は絶滅とされ、その後野生絶滅に変更になったシビイタチシダは、今回の展示でも多くの来園者の注目を集めていた。
他にクマヤブソテツ、リュウキュウキンモウワラビ、など絶滅危惧TA類に分類される種も展示されている。


絶滅危惧シダ植物の展示コーナー

シビイタチシダ

このほか絶滅危惧植物の最も多いグループであるラン科植物の中から国内では石垣島、西表島のみ分布するキバナシュスラン、国内では和歌山県以西の西南日本に分布するアキザキナギランなど見ることができた。


様々なシダ植物を見ることが出来る

絶滅危惧植物の最も多いグループであるラン科植物も展示

筑波実験植物園は日本植物園協会の指定した絶滅危惧シダ植物拠点園になっていが、2010年までに50%の収集を目指しているそうだ。

ラン科のキバナセッコク

絶滅危惧TB類のキバナシュスラン

5 日本固有種の多様性ホットスポット

絶滅危惧植物展の屋内展示2階には日本固有種の多様性ホットスポットに関する展示と絶滅危惧植物の多様性地形図が並べられ展示されている。

日本固有種の多様性ホットスポットを解説した展示では、日本固有の絶滅危惧植物について北海道北部・東部(利尻・礼文島・知床、根室)、沖縄本島、八重山諸島には固有種は少ない。日本アルプス、屋久島、小笠原には固有種が多いことなどが説明されている。本来固有種とは日本でしか生息しないものでその希少性の度合いは高いものであるとのことだ。

また、それらを補足するように日本の絶滅危惧種植物の多い地域に順位をつけ解説されている。1位は父島(小笠原諸島、父島南部)、2位は伊野田(沖縄県、石垣島北部)、3位は仙丈ケ岳(長野県、山梨県堺)、4位に層雲峡(北海道。大雪山系)の順でそれぞれの地域で記録されている絶滅危惧植物と主要減少要因などが解説されていた。


日本固有種の多様性ホットスポットを紹介する解説と絶滅危惧植物の多様性地形図

絶滅危惧植物の多様性地形図


絶滅危惧植物の多様性地形図とは絶滅危惧植物が多い地域を立体的に示しているもので、10km×10kmのメッシュの中にどれ位の絶滅危惧植物が含まれているかを高さであらわしたものだ。

ここからは、その高さの比較から一番高いところは小笠原諸島等が一目で確認することできる。次に多いのが琉球列島であることがわかる。逆に東北地方はあまり高くないこともわかる。

これは何を意味しているかだが、東北地方にはいろんな植物が生息している、しかし自然が守られているので絶滅危惧植物が少ないということがわかるのだそうだ。その他南アルプスも高くなっているが、先ほど解説されていた日本固有種の多様性ホットスポットの解説と関連させ見ることでより理解を深められるようになっている。

また他の地域に比べ高くなっているのが関東近辺だ。関東近辺というのは開発が進んで絶滅危惧植物が多くなっているとのことだ。
このようにこの地形図を見ることでこれらのことが視覚的にわかるようになっており、より地域の違いによる絶滅危惧植物の問題点を明確に理解することができるものとして紹介されていた。

日本固有種の多様性ホットスポットを知ることが出来る

絶滅危惧植物の多様性地形図

また現在、国立科学博物館では日本の固有種の地形図を10km×10kmのメッシュで作成しているそうだ。
来年の10月頃には見られるそうだ。

植物の種子・組織の器内培養展示


絶滅危惧植物展に関連し屋内展示会場の2階奥では、植物の種子・組織の器内培養についての解説展示と培養されている絶滅危惧植物を見ることができた。
器内培養は、野外での栽培とは異なり、植物にとって有害な病原菌などの生物から植物を隔離し、植物の生育にあわせて環境をコントロールしながら栽培することができ、植物を細胞や組織の状態で長期保存し、必要におおじて育成させて、株数を増やすことができるメリットがあるものだ。解説では、多くの植物が絶滅の危機にさらされているいま、地球上の多様な植物を残すためにも、器内培養を利用した植物の保全が強く求められており、筑波実験植物園では、器内培養の技術を生かし、絶滅する恐れのある植物の保全と研究に役立てていることが記されていた。

展示では、器内培養されているアサザキナギランの液体回転培養されているようすや、種子・組織の器内培養法に関する解説、植物の生育に必要な養分をもちいた培養の作成方法、種子の組織の消毒、培地の播種・置床、大きなフラスコへの移植、そして大きくなった植物のフラスコから外に植え出しといった器内培養に関する手順が解説されている。


器内培養についての解説展示コーナー

器内培養に使用さている機器などを見ることも出来た

またここで培養されたウチョウランの生息地への植え戻しに関する解説もあわせて紹介されており。器内培養が絶滅危惧植物の保全活動にどのように影響を与え関わっているかも知ることができる。

培養されている、ウチョウラン(絶滅危惧U類)シマシュツラン(絶滅危惧U類)カンダヒメラン(絶滅危惧TB類)などが展示されているが、現在ラン科植物を中心に、絶滅の危機にさらされている30種あまりを培養しているとのことだった。


器内培養について詳しく知ることが出来る

培養されているカンダヒメランとクモキリソウ

研究の展示コーナー

屋内展示2階には、ほかにも筑波実験植物園で行われている研究などについて展示していた。ここでは筑波実験植物園のことだけではなくミュージアムパーク茨城県自然史博物館や海洋記念公園の防護研究センターなどと協力し保全を行っている事業が紹介され展示されていた。


研究の展示コーナー全景

他の研究機関と連携した保全活動についての解説パネル

日本製紙と筑波実験植物園との共同展示では挿し木の技術を筑波実験植物園とコラボレーションをしたことが説明されている。これは筑波実験植物園が植物材料を提供し日本製紙が挿し木をする。そしていくつか成功したものを展示していた。

また日本の固有種で絶滅した世界で見ることができない植物の標本や、日本では見られなくなってしまった植物の貴重な標本等も展示され見ることができた。


地球上から消滅した植物は標本で紹介されている

絶滅危惧植物に関する様々な研究が展示されていた



6 絶滅危惧植物展パネル展示解説から

国立科学博物館筑波実験植物園では、植物の多様性を、「知る」、「守る」、「伝える」、をキーワードにさまざまな活動が行われているが、そのかなでも今回の絶滅危惧植物展にあわせ絶滅危機具植物の現状と危惧に至る要因、そして今後の課題などパネル展示されている。
取材日には今回の企画展を担当された一人で国立科学博物館植物研究部 多様性解析・保全グループの國府方吾郎先生の解説も行われ多くの方が参加された。そのようすをあわせて紹介していこう。


絶滅危惧植物展パネル展示

展示解説される國府方吾郎先生

解説の冒頭では、これまで筑波実験植物園にて開催された欄展やサクラソウ展と比較し。

「欄展やサクラソウ展ではたくさんきれいな花を見てこられたかと思います。しかし今回の企画展ではきれいな花が並んでいるわけではありません。」

「それは企画展の趣旨が違うからです。その代わりといってはなんですが、皆さんに2つのことを覚えていってもらいたいと思います。1つ目は生物多様性とは何であるか、そしてもう1つは日本の絶滅危惧植物の現状です。この2つのことを今日、覚えていってもらえたらなと思っています。」
と語られた。

中央のデザインが今回のシンボルマークだ

絶滅危機具植物の現状を詳しく解説されている


まず貴重な日本の植物の解説では、日本列島にはおよそ約7000種もの植物が自生し、そのうち環境省版の絶滅危惧植物のリストには、前回2007年に発表したとき約1700種類が発表されていることを知らせ、実に4分の1、4種類に1種類が日本では絶滅の危機に瀕していることを説明されていた。
また、絶滅危惧植物展では円グラフの4分の1だけ塗りつぶされたようなシンボルマークが至るところに表示されているが、それは来園された皆さんに4種類に1種類が日本では絶滅の危機に瀕していることを知ってもらうようにという思いが込められているものだ。

日本の絶滅危惧植物の現状

「生物多様性というのは何か」の説明では、難しく聞こえる生物多様性についてわかりやすくそして生物多様性という言葉を知ってもらえればとの展示だ。

生物多様性に関して重要な3つの多様性に関し國府方吾郎先生は次のように解説された。

「生物多様性は3つの多様性からなっています。1つは生態系の多様性です。」
「これは、生物と生物の間にある関係です。食べる食べられるの関係、共生の関係、寄生の関係です。このように生きものの間にはいろいろな関係があることを生態系の多様性といいます。」

「動物にこれらの関係があるのは皆さんご存知だと思います。少し難しいと感じるかも知れませんが生態系の多様性とはこのような生きもの同士のいろいろな関係のことをさしています。これが1つ目。」

「2つ目は種の多様性です。」
「かっこよく聞こえるかも知れませんが簡単にいえばいろいろな生物がいるということです。山に行けばサクラ、海に行けばタコがいる。そのほかさまざまなところにいろんな生物がいるということです。」

「最後の3つ目が遺伝子の多様性です。」
「これは1種類の中にはさまざまな遺伝子があるということです。」
「ここで質問です。人間は動物のなんという種だかわかりますか。」
「人間はホモ・サピエンスという種です。」
「そして皆さんは自分と同じ体重、同じ顔をした人と会ったことがありますか。」
「おそらく無いと思います。このようにホモ・サピエンスという種の中にはいろんな遺伝子があります。この1つの種の中にさまざまな違う遺伝子があることを難しい言葉で遺伝子の多様性と呼んでいます。」

「要するに生物多様性というのは皆さんが知っていることを難しくいっただけです。これから皆さんが生物多様性という言葉を聞いたらこの3つの多様性を思い浮かべてください。」

「これが、皆さんにお伝えしたいこと1つ目です。」

と解説。

生物多様性を紹介したパネル

生物多様性の重要性を説明

絶滅危惧種とは

絶滅危惧種が何に基づいているのか、またカテゴリーについての説明と日本の絶滅危惧植物の現状についての説明があった。

「ここにあるのが日本の絶滅危惧植物のカテゴリーです。」
「先ほど4種類のうち1種類が絶滅危惧植物だといいましたけれどもそれは何に基づいているかというと環境省から出ているレッドデータリストに基づいています。」

「ここにあるのは絶滅危惧植物のカテゴリーです。」

「絶滅植物のラベルのところにEX、CRなどのマークがこれは何を意味しているかですが、これは絶滅危惧植物の危険度をあらわしています。」

絶滅危惧種植物のカテゴリーについてもわかりやすく解説されている

「上から説明すると上から絶滅種(EX)、これは日本で絶滅しまった種です。」

「次に野生絶滅です。これは野生環境では絶滅していましたけれども、栽培などによってその種が残っているものです。」

「次が絶滅危惧T類、U類です。」
「定義はありますが、わかりやすくいえばT類の次にU類は絶滅の危険性が高いと覚えていてください。」
「また、T類にはTA類(CR)とTB類(EN)に分かれています。」
「これはTA類がごく近い将来における絶滅の危険性がきわめて高い種。」
「TB類はIA類ほどではないが近い将来における絶滅の危険性が高い種」

「これに次ぐのが絶滅危惧U類(VU)。そしてその次に準絶滅危惧種(NT)になります。」

「狭い意味での絶滅危惧植物というのは、絶滅してしまった種と、野生絶滅は絶滅危惧植物ではありません。また準絶滅危惧というのは絶滅危惧の準であるため含みません。」
「このことから狭い意味での絶滅危惧種はこのT類とU類ということになります。」

「このように絶滅危惧には2つの捉え方があることを覚えていてください。」

「ただ、私の頭の中では、環境省から出ているものだけが絶滅危惧植物ではないと考えています。東京や茨城にも絶滅危惧植物があります。というのは全国それぞれの都道府県に独自のレッドデータブックもしくはレッドデータリストを出しています。」

「私の頭の中ではそれらすべて含めて絶滅危惧植物ととらえています。例えば、私は沖縄出身なのですが皆さんご存知のゼンマイですが、沖縄県ではゼンマイが絶滅種です。そして奄美大島では絶滅危惧植物です。このようにここにたくさんあるから沖縄では絶滅種じゃないと思われるかも知れません。しかし、それぞれの地方で絶滅危惧植物があることを覚えてください。」

とこのように絶滅危惧種に関する説明をされた。

絶滅危惧植物の現状

絶滅危惧植物の現状については、次のように語られた。

「これは2000年と2007年でどれぐらいの数が変わってきたかを示したものです。ではかいつまんで話をすると、狭い意味での絶滅危惧植物では、プラス25種、そして広い意味での絶滅危惧植物では131種増えています。これを見ると日本では絶滅危惧植物は悪化の一途をたどっています。」

「中には2007年のレッドデータリストに日本では絶滅と記載されていたシビイタチシダですが、筑波実験植物園に栽培されていることがわかり、その後野生絶滅種になったものもあります。このように無いものを100%立証するは難しいのです。このようなこともありリストも作りなおされていくのです。」

「こちらは、どのような植物が一番絶滅の危機に瀕しているかを円グラフであらわしているものです。一番絶滅危惧植物が多く含まれているのはラン科です。」
「当館でもラン科植物を研究していますが、本当に多くのラン科植物が絶滅の危機に瀕しています。そして残念なことにその絶滅の危機の原因の1つが乱獲です。」「違法な乱獲によって数を減らしています。」
「その次に多いのはキク科です。ラン科もキク科ももともとの数が多いんですね。その個数が多いからどうしても絶滅危惧植物になる確率は高くなります。」

「またキク科もその傾向がより強く、ラン科に比べるとそれほど乱獲は少ないですがキク科と比べ数が多く絶滅危惧植物も多いんです。」


来園者の多くのが熱心にパネルを見ていた

絶滅危惧植物の現状を解説したパネル

「次にカヤツリグサ科です。カヤツリグサ科の絶滅の要因ですがまず科として大きい。そしてもともと数が少ない種類が多いというのもあげられます。その他の要因としてですが、この科は湿地に生えます。しかし現在そのような湿地がどんどん無くなる傾向にあります。カヤツリグサ科の自生地の生育環境の消失がカヤツリグサ科の数を減らしている原因になっています。」

と解説され、絶滅危惧植物が数を減らす要因についての説明がでは

「この円グラフを見てください。これは、どのような原因で絶滅にさらされているかを説明したものです。」
「ここでお伝えしたいのは80%が人為的な要因であること、人間の直接的な温暖化は自然変異に含まれています。地球温暖化が絶滅の要因になることは人間の間接的な要因であるのでこの間接的要因と先ほどの直接的な要因を含めると人間の要因になる割合は約9割にも関与しているということです。」

「そして、もともと希少な植物が絶滅の危機に追いやられていることも要因の1つです。私はイワタバコ科植物を研究しています。このなかにラザニカズラというのがあります。日本には西表島の1箇所しか生息していません。このような種はもとも数が少なく希少であるために人為的な要因で簡単に絶滅してしまいます。もともと希少ということも絶滅危惧になる要因なのです。」

「それと乱獲です。これはオーストラリアのソテツの仲間です。これを根こそぎ採ってしまうのです。」
「また最近問題になっているのは動物による食害です。九州の特に宮崎などでは林床の植物が鹿の大量発生によって食べられ数を減らしています。」
「さらに尖閣列島の魚釣島ではそこに生息しいている固有種の植物をヤギが食べてしまって魚釣島の林床の植物が絶滅寸前になっています。」

「現在ヤギを駆逐する計画があるそうですが、駆逐しないとこの島に生息する固有種が無くなってしまうという現状があります。」

と絶滅危惧植物の減少の要因についての説明があった。

植物が絶滅してしまうと

「植物が絶滅してしまうと」と題された展示では、1・生物の生態系の危機、2・植物資源の消失、3・遺伝子資源の消失、4・植物の無い世界等を例に説明が行われた。

生物の生態系に与える影響については、すべての生物は食物網等お互いに関係しあう生態系の中にいて、ある種が滅びることによりその生態系が壊れ、他の生物の生活に与え危険性があることを指摘し人間も生態系の中にいるということを知って頂きたいと語られた。


植物と人間との関わりの重要性について知ることが出来る

パネル展示では写真も多く使われていた

さらに植物資源の消失と遺伝子資源の消失では、私たちは野菜などを食べて植物の恩恵を受けている。このことからも植物というのは重要だということを再認識して頂くこと。そして遺伝子資源の消失では、リュウキュイナモリを例にこの植物に含まれるカンプトテシンについての説明がされた。これは医療の分野で抗がん物質の重要な成分と期待されているもので、このリュウキュウイナモリが無くなることでカンプトテシンを作る遺伝子が消失してしまうとのことだ。

また、沖縄のワダツミノキも、カンプトテシンを含んでいるのではないかといわれる植物で、この種も奄美大島の2箇所ほどしか生息せず今は絶滅の危機に瀕しているそうだ。このように植物にはさまざまな有効な成分を作る遺伝子を持っているもがあり、これらが絶滅してしまうことでそれらを作る遺伝子が無くなってしまう恐れがあるということを知ってもらいたいと語られた。

「最後に植物の無い世界を想像してください。考えられないですよね。」
と植物の重要性をアピールされた。

植物の絶滅を防ぐには


このパネル展示コーナーの最後には植物の絶滅を防ぐために必要な保全や調査といった点についての説明もされた。この点についても紹介していこう。

「では絶滅させないためにですが、一番は自生地で保護を行う。この方法を行えば生態系が守られるのでよいのですがなかなか難しい状況にあります。しかしダムが作られ広野の開発などによって水没してしまい絶滅してしまうことがあります。」


植物の絶滅を防ぐために必要な調査・研究について解説

別の角度からのコーナー全景

「オリズルスミレモもそうで、ダムが作られたことによってその生息場所が水没しなくなってしまい、この場所では絶滅してしまいました。」
「しかし、幸いにもダムができる前に一部を採って栽培していますので野生絶滅というカテゴリーになっています。」

「しかし、自生地での保全ができない場合には、自生地以外の場所での保全を考えなければなりません。例えば、筑波実験植物園などの機関が絶滅危惧植物を保全して、場合によっては保全地に戻す活動などを行っております。今日見て頂いたコシガヤホシクサなどもその1つです。自生地に復元した1つの例です。」

「絶滅危惧植物を防ぐには学術調査が重要です。学術調査を基にレッドデータブックが作られ皆さんが知ることができる。言い換えれば学術調査が無ければレッドデータブックも無いということです。それほど必要であるということを覚えていただければと思います。」

「最後に筑波実験植物園では、「知る」「守る」「伝える」をキーワードにいろいろな活動を行っております。」

「またいろいろな絶滅危惧植物を保全栽培しています。」
「皆さんにお伝えしたラン科植物またキク科植物、そして琉球列島の植物が多く保全栽培しています。また絶滅危惧植物が含まれる水生、湿地などの環境も絶滅の危機に瀕しています。」
「このような水生や湿地などに生息する緊急を要する植物を優先的に保全しています。」

と絶滅を防ぐために必要なポイントについて解説された。

7 絶滅危惧植物の込められたテーマと筑波実験植物園の今後の活動についてについて國府方吾郎先生にお聞きしました。

「まずこの企画展では「生物多様性を知る、守る、伝える」を今後25年後の50周年まで繋いでいきたいとの思いで行っています。」
「昨年、筑波実験植物園が25周年だったのですが、今までの25周年を振り返って今後の25年をどうするかということを話した結果。「生物多様性を知る、守る、伝える」をキーワードにしていこうということになりました。」

「また、筑波実験植物園の進む方向ですが、生物多様性を知る。(知るというのは生物多様性の重要性を訴える。)種の多様性、遺伝子の多様性だけではなく、生態系の多様性を含めて知っていただくための活動を進めていくのが筑波実験植物園の方向性です。」


国立科学博物館 植物研究部 國府方吾郎先生

「また守るというのは絶滅危惧植物の保全ですね。それとコシガヤホシクサのような自生地の復元、それも活発に行いたいと思っています。」
「ただ自生地への復元はかなり難しい問題があります。ただ単に数を増やしてただ戻すだけではだめで、特に、ここで栽培したものを自生地に持っていくと植物自体はそれでいいかも知れませんが場合によっては土壌についた菌なども一緒に移動させてしまうこともあります。そこは戻すというよりも、復元をする基礎データを集積していくことが重要です。」
「コシガヤホシクサは成功した例だと思います。まとめると、充分なデータに基づいた復元を目指すということです。」

「それと伝えるですが、今回の絶滅危惧植物展に限らず博物館の使命だと思っています。とにかく生物多様性を伝える、あるいは生物多様性の意味を伝える、そして生物多様性の重要性を伝えるです。」
「特に重要性までを伝えられれば私は大成功だと思っております。

とお話いただきました。

「命を支える多様性」区画

筑波実験植物園では命を支える多様性の区画をオープンした、この点について次のように語って頂いた。

「生物多様性の重要性を伝えるためには筑波実験植物園では「命を支える多様性」という新しい区画をオープンしました。ここでは人の役に立つ植物を植栽することで「命を支える多様性」を知ってもらおうと思っています。衣食住に限らず、文化なども含んでいます。そのようないろいろな植物、つまり生物多様性が人間の命を支えてくれているのだというのを来た人に理解してもらう。」
「それを知ってもらえれば生物の多様性の重要性が理解できるのではないかと考えています。」




「バラもただ単に植栽しているだけではなくバラの遺伝子の多様性を理解して頂くために行っています。バラの種の中にある多様性に富んだ遺伝子が豊富な園芸バラを作った。というようなメッセージ性があって楽しめる。そのような植栽展示を目指しています。」

「絶滅危惧種植物展もそうです。ただ絶滅危惧植物を見せるだけではなくて興味を引く絶滅危惧植物ですね。きれいとかそのような絶滅危惧植物を見てもらって絶滅危惧植物を知ってもらい興味をもらうこれがまず第一歩だと思っています。」

と「命を支える多様性」についても説明いただいた。

生物多様性の3ステップ

生物多様性をより理解して頂くために最初の一歩として知ってもらうことの重要性をアピール。

「生物多様性も、生物多様性を知っている。生物多様性の意味を知っている、そして生物多様性の重要性を知っている。この3ステップで理解してもらいたいと思っています。」
「人間というのは知ればその意味が知りたくなるし、意味を知ればその重要性も知りたくなると思っています。」
「その知るというステップの敷居が高いかも知れませんが、この知るというワンステップを踏み出せばツーステップ、スリーステップはすぐ行くと思います。」

「このことは生物多様性のことだけではなく絶滅危惧植物にも言えることだと思います。」

と最後に締めくくって頂いた。



今回ご協力いただきました國府方吾郎先生ならびに関わりになられた先生方に心より取材のお礼を申し上げます。

企画展 
企画展「絶滅危惧植物展
開催場所:国立科学博物館筑波実験植物園
開催期間:10月3日〜10月12日

開園時間:9:00〜16:30(入園は16:00まで))
入園料:一般/300円 高校生以下・65歳以上無料
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