| HOME | サイトマップ | ヘルプ | 
サイト内検索 Powered by Google
哺乳類 鳥類 魚類 昆虫類 甲殻類 特別版 植物&土壌
貝類 植物 希少標本
展示会レポート 

かはく生物多様性シリーズ2010 第3弾
企画展「日本の生物多様性とその保全−生き物たちのバランスの中に生きる−」
開催期間:5月1日(土)〜7月19日(月)
開催会場:国立科学博物館 日本館1階 企画展示室
主催:国立科学博物館

国立科学博物館では、2010年国連が定める国際生物多様性年の今年、「かはく生物多様性シリーズ2010」と題して生物多様性の意義や重要性についての知識や普及を図るために様々な展示が実施されてる。10月には名古屋において生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)も開催され、生物多様性にとっても節目になる年。企画展「日本の生物多様性とその保全−生き物たちのバランスの中に生きる−」も同シリーズの第3弾として実施されている。今回の企画展では、生物多様性を「知る」「学ぶ」そして「守る」がキーワードになっていた。

まず日本の生物多様性がどのような特徴をもっているのかを「知る」展示では、日本の動物相、植物相、を体系的にとらえた展示がされている。また、日本のホットスポットを知る維管束植物の固有種の多い地域を立体的に示した生物多様性地形図も並べられ客観的に日本のホットスポットを知ることが出来る。

入り口を入ると「生物多様性とは何か」との問いかけが目を引く

次に、生物多様性のメカニズムについて里山や皇居内での生物調査などを通し生物多様性とはどのようなものであるのかをイラストやパネル展示などを通し視覚的に「学ぶ」ことが出来る展示。

そして、生物多様性の保全の事例と現状を紹介している。展示ではコシガヤホシクサの生息域内保全と域外保全から生物多様性を「守る」ことの大切さが解説され、生物多様性を「知る」「学ぶ」「守る」様々な国立科学博物館の取り組みと、私たちが生き物から様々な恩恵を受け微妙なバランスの上で生きていることを考えさせられる展示だ。


1 生物多様性とは何か

会場入り口を入ると、「生物多様性とは何か」とかかれた文字が目に飛び込んでくる。とかく生物多様性は概念的要素が強く私たちの身近に感じにくい方もいるのではないだろうか。序章となる入り口の展示では生物多様性を構成する3つの多様性について解説されていた。地球上に多種多様な生物が生息していることを「種レベルの多様性」、同じ種でも、遺伝子は個体ごとに異なる「遺伝子レベルの多様性」、そして多様な生態系をつくっている「生態系レベルの多様性」をそれぞれ写真や標本などと展示され、これら生物の多様なありさまをまとめた言葉が「生物多様性」と解説がある。
また、食う・食われるという基本的な生き物の関係「生物種間の共生セットワーク」について解説し、生物多様性のシンボルとなっているトキの標本が並べられ絶滅危惧種であるトキの背景にどのような生物がかかわっているかを展示からも知ることが出来る。

トキをめぐる共生ネットワークの解説と標本

展示キーワードに沿った標本が並べられている


2 「日本の生物多様性―その特徴」とは

生物多様性ホットスポット

日本の生物多様性の特徴を生物多様性地形図から知る

まず初めに生物多様性のホットスポットに関する展示がある。生物多様性のホットスポットとは、コンサベーションインターナショナルによって「生物多様性が高いにも関わらず、破壊の危機に瀕している地域」という定義に基づいて選定された34地域のことだ。世界の2.3%にすぎない地表面積の中に種数で見ると維管束植物の既知数の半数が集中する優先的に保護されるべき地域で日本もその中に入っている。「固有種」の宝庫である日本のホットスポットの候補地域を「生物多様性地形図」で具体的に見ることで日本のホットスポットの現状を知ることが出来る。

日本の生物多様性の特徴を知る生物多様性地形図が並ぶ

世界のホットスポットをつくるときには、日本の固有種も1つの指標になっている。
その日本の中では、どうなっているか示すのがこの生物多様性地形図だ。2000種以上の固有種の国立科学博物館にある標本のデータと、そのほかの博物館の情報を足して約17万件の分布情報をまとめたものだ。それに基づき地図にし、解析したのがこの地形図。
単純に、種数を足すだけではなく、植物の場合はどれだけ広い範囲に分布しているか、1つの山にしかいないのか、日本中にいる固有種なのかなど分布域の狭い場合は高い得点を与えて「固有種指数」の集計を行い製作されたものだ。維管束植物の固有種指数を示した生物多様性地形図では、高い山が出来ているところでは、非常に狭い地域にしかいない植物が多く集まっている地域だといえる。ここではパネル解説でそれら高い地点を日本のホットスポット候補として紹介している。

コーナーを担当された国立科学博物館植物研究部の海老原淳先生

左が繁殖鳥類の種数、右が維管束植物の固有種数による地形図

今回展示されている「生物多様性地形図」は繁殖鳥類の種数のデータを基に製作されたものと、維管束植物の固有種数のデータを基にした生物多様性地形図を見ることが出来る。

繁殖鳥類の生物多様性地形図では、山が高いほど繁殖種数が多いことを示している。数字だけではわからない状況が地形図という形で見ることが出来るようになっている。

本州では中部高山帯に高い山が出来ている

日本のホットスポット候補地域を紹介

日本のホットスポット候補を紹介する展示では、小笠原諸島・父島(東京都)、屋久島(鹿児島県)、アポイ岳(北海道)、八ヶ岳(長野県・山梨県)などが紹介されていた。


狭いながらも豊かな生物相

次は日本周辺に見られる魚類や貝類などその豊かな多様性についての展示だ。日本は国土面積は小さいながらも海岸線の総延長は世界でも6番目に長く約35,000kmにも及び、北の亜寒帯から南の亜熱帯まで、それぞれの気候に適した種と多くの固有種が生息することが解説されている。日本海周辺の黒潮(日本海流:暖流)、対馬海流(暖流)リマン海流(寒流)親潮(千島海流:寒流)といった海流にどのような種がいるのかわかりやすく展示されている。

日本周辺に見られる魚類や貝類などを解説した展示

貝類ではタカラガイや巻貝の仲間が展示されている

また、日本産のコンブ類8種の分布、熱帯系要素の代表であるタカラガイ科の出現の有無を示した黒潮の流路との関係を知る解説と標本、その他温帯域固有要素の代表であるサザエの分布を示した展示など日本周辺海域での生物相の特徴を知ることが出来る。


生物多様性の高い地域 小笠原諸島

海洋生物は分布が拡散するため種分化が難しいと考えられている。しかし小笠原諸島周辺の海域には貝類や甲殻類など様々な固有種が見つかっている。また植物でも「海洋島」と呼ばれ、いままで陸続きになったことがない特殊な環境下で小笠原諸島に分布する維管束植物の100種以上が固有種であることを知ることが出来る。しかし人間活動の影響で危機に瀕していることが説明されていた。

小笠原諸島の海洋生物を紹介

左が小笠原固有のオガサワラモズクガニ、右がユウゼン

本州中部と北海道そして琉球列島の特徴

続いて本州中部の高山の生物多様性の特徴を知る展示と北海道の高山、そして、琉球列島の特徴を解説展示している。
本州中部に生息するライチョウやミヤマモンキチョウなど高山に生息する生き物の標本が展示されている。また日本列島の中でも特に高い「種の多様性」「固有種」が見られる琉球列島について多様な気候と島々の間の遺伝子交流を隔離する島嶼列島(とうしょれっとう)が固有種の形成に大きく影響し「固有性」が高められていることが解説されていた。

本州中部高山、北海道の高山、琉球列島の特徴

本州中部の高山に生息するライチョウ(左)

琉球列島は、南北に長く北琉球、中琉球(沖縄本島)、南琉球にわけられそれぞれの地域で温度環境の多様さをもたらしそれぞれの環境に適した様々な生物が生息している。


2 里山の生物多様性

私たちの周りにある生物多様性のメカニズムを「学ぶ」には里山についての理解が不可欠だ。なぜなら、里山は人の活動によって生物多様性が保たれている空間とはいえ、私たち人間との「生物種間の共生ネットワーク」をもっとも学べるところだからだ。

里山についてその構成要素や人とのいとなみを図解と標本から学ぶことが出来る

ここからは、里山と生物多様性の構成と生き物との関係を学ぶことが出来る。


まず、里山という言葉が示すところだが、生物多様性というのは自然の豊かな部分に多いと思われがちだ。しかし、人がまったく入らない原生林が100%の自然度だとすれば、里山は人手の入らない自然が50%、人工的な部分が50%というような人工的な自然環境だ。里を構成するものだが、特殊な環境ではなく、身近なものだと思っていただいてよい。解説パネルにあるような水田や水路が里山の構成要素だ。

原生林のような人の手が入っていないものに比べ、里山は私たちの身近に見られ、よく知った環境だ。農家には必ず、田んぼや畑があり、田んぼには必ず水を引き、作物にあげるための小川、池、水路を引く。するとそれに付随する池には、いろんな水草や、昆虫など非常に沢山の生物がすむようになる。民家の後ろには、必ずといっていいほど林があり、その林は、かつては電気やガスの替わりに、薪や炭などをつくるために利用されていた。そのために、材料となるアカマツやコナラ、クヌギなどを植えて林をつくっている。それぞれの林の環境によって、虫や、植物などの多様性に富んだ生物相が形成されたのが里山だ。

水田や水路、畑などがどのように関わっているのか解説されている

特定の動植物に強く関わる昆虫が並べられている

一般的には原生林の方が、自然度は高いと思われているが、全体を通してみると、人為的に構成された里山の方が高い生物多様性を維持している場合もあるといわれている。

ひとつひとつに関係している生物は多くはないが、里山を構成する多くの要素が1箇所にあることによって、非常に高い生物多様性が維持できるといえるのだ。

担当された動物研究部の野村周平先生

里山と人とのかかわりの中で生物多様性が維持されていることが説明されている

次に里山がどのようにつくられているかを見ることが出来る。薪炭林については暖房を維持するための林。木を伐採すると新しい芽が出て、それをさらに育てる必要が生まれ、育てるために下草狩りを行い、落ち葉かきを行う。そのようなことが継続し行われ20年、25年という歳月がたつと、木が成長し、利用できるようになる。そのような利用が何十年単位で利用繰り返し行われる。このような生態系サービスの享受が、現代のエコロジーの原点になりリサイクルの原型になっている。

もし手入れをしなければ、林の中では、日があたらなく薄暗い環境になり豊かな生物多様性は維持されなくなってしまうだろう。

そのようなことを避けるためにも、手入れを行い、何度でも利用できる環境を保つことが望まれるのだ。

そして、春や秋に見られる植物も紹介。秋に見られるヒガンバナの標本が展示されていた。

養蚕や牧畜に関係する昆虫

薪炭林や植林に特徴的な昆虫

またこれら例をあげた環境の中にどのような固有の昆虫がいるのか紹介している。
例えば、水田に生息している昆虫、野菜や果実に見られる昆虫。これらは、害虫ではあるが、生物多様性の一翼をになっているということがいえる。なぜなら、これらを食べる鳥も集まってくるからだ。

里山には様々な鳥たちもいる

里山や里に見られる特徴的な標本が並ぶ

昔の農家には、必ず、牛や馬が飼われていた。それは牛や馬の力を借りなければ作業が出来なかったことがいえる。それら家畜がいる環境下では、特有の昆虫が発生する。糞などにつくコガネムシもその1つ。オオルリシジミは牧草地帯に生息し今では絶滅危惧種になっているチョウだ。それから、養蚕の蚕。絹を採るために飼われるためには餌となるクワの畑がなければならなかった。桑畑が出来るとクワを食べる何種類ものカミキリムシが一緒に生息することが出来る。
養蚕がさかんな時代には普通に見ることが出来たが、桑畑の減少に伴い絶滅危惧種になった種もある。

里山と奥山

東京周辺の里山と奥山がどのようになっているかを地図で確認することが出来る

里山に対する概念として奥山がある。奥山は、人が手を入れない、おもにブナ、ミズナラからなる林に代表され、東京の西方、奥多摩一帯にみられる。展示を見てもらうと住宅地が広がる灰色の部分があり、そして、奥山との境に里山が広がっている。今回の展示では、里山と奥山の土壌昆虫、それらは厳密には区分することは難しく共通するものもあるが、その中でもさらに、里山と奥山の特徴的な昆虫が展示説明されている。

東京周辺の里山に特徴的な昆虫(カブトムシやオオスズメバチ)

里山の土壌昆虫(クロミジンムシダマシなど)

また奥山は全体的に豊かな生物多様性を育んでいた広葉樹からだんだんと生物の乏しい針葉樹の植林へと変わりつつある。


3 都市の生物多様性

この展示では都市から消えた生物を例に、生き物たちの生息場所と都市開発の変遷と生物多様性の現在の姿を紹介しその関係を知ることが出来る。
私たちの周りは、住宅があり、道路があり、自然環境は決してよくはない。しかし、東京の皇居の周りには多くの自然が残っていることが知られている。その皇居の自然を絡め生物の多様性について展示解説されている。1996年国立科学博物館では、生物相の調査を行い、このデータをもとに都市の生物多様性の変遷が紹介されている。

都市の生物多用性の解説展示

今では消えてしまった都心の植物標本が並んでいる。100年近く前のものも

もう都市ではいなくなってしまったヤママユガ科やイボタガ科は1950年代から60年代までは生息していたが見ることが出来なくなってしまった。1950年代の標本と1910年の標本が展示されている。

100年以上前に採取されたムジナモ(左)とアギナシ(右)

上段左から2番目1910年採取のイボタガ、  
上段左から3番目1954年採取のヒメヤママユ

しかし、かろうじて残っていたものはサクラ類を幼虫が食べるヤママユガ科のオオミズアオだけで、皇居と赤坂御所で採取されていることを紹介。

解説してくださる動物研究部の大和田守先生

1936年に採取されたオオミズアオ(左下かから1番目)
2001年に皇居で採取されたオオミズアオ(左上から3番目)

大気汚染と地衣類の関係をあらわした展示

姿を見せなくなった種がある一方で環境の変化によってコケガ類が復活している。1960年代から70年代にかけて都区部での環境汚染により地衣類や藍藻類は枯死して消滅したが(地衣類は大気汚染に弱い)その後2000年前後には都心部の緑地でコケガ類が再び取れ始め皇居でも2000年に定着が確認された。

東京都区部で復活したコケガ類を解説

地衣類のウメノキゴケ


緑のオアシス

皇居内の調査では、東京では見られなくなった生き物が生息していることがわかった。
皇居内には水辺もあり、そこには、トンボ類が多く生息し希少なトンボ、アオヤンマ、コサナエ、ベニイトトンボも多数見られる。皇居の中には、豊かな生物多様性がある。もし皇居と同じような環境があれば生物がうつりすむことができ、それは公園や私たちの周りかも知れない。環境の改善が生物多様性の拡大につながることを知ることが出来る。

皇居の生物多様性に関する展示

左 ベニイトトンボ

もう1つ皇居の調査でわかったことは皇居内に見られる里山だ。里山にいる昆虫などが数多くいることがわかった。
雑木林や桑畑、田んぼ、水路といった里山を構成する要素が皇居の中にある。それは、皇居の中には豊かな自然があることを示している。

左 アオオサムシ 右 ノコギリクワガタ
 
皇居に生息する植物タシロラン 左端

甲虫の仲間アオオサムシの標本が展示されている。アオオサムシは羽がなく歩いて移動する虫で、もし皇居の中からいなくなってしまえば増えることが出来ない昆虫。ミミズ類を餌に食べるがそれがなくなると生きていけない。そのことからも食べる・食べられる生物の関係が読み取れ生物多様性が高いといえる。
国立科学博物館では、今後も皇居内での生物多様性の調査を継続していきたいと話されていた。

4 生物多様性の減少と実態

次のコーナーでは、高度経済成長時代に発生した公害問題や都市開発により藻場・干潟といった自然な海岸が消えていった実態や、夏鳥の減少、シカの増加による林床性のシダ植物の減少など、生物多多様性のバランスが崩れた例を紹介しその減少と実態について解説されている。

藻場干潟の減少


藻場と干潟は減少傾向にあり、1980年代の地図からは人工干潟が増えていることが読み取れる。

藻場、干潟の減少と生物多様性の喪失に関する説明

干潟の底生生物のリスト。赤ベースの文字が近年著しく生息数を減らしている種

もう1つは東京湾の漁獲高の推移。1960年代から0になっていたが、これは漁業権を放棄して漁師の人がやめたために0になっている。その結果、急速に埋め立てがすすんでしまったというデータだ。この展示では、干潟にいる生物の一覧と標本が並べられている。

展示されているのは日本産のハマグリ

消滅の可能性のあるカブトガニ
全滅寸前の種がどれほど多いかがわかる。
展示してるハマグリだが現在では日本産のハマグリはほとんどいない。
カブトガニなど干潟の消滅が止まらない限りいなくなってしまうものも展示されている。

夏鳥の減少

その後に続く展示は鳥類だ。日本だけの問題ではなく世界的な視点で解説されている。1997年のボルネオで起きた大火災のために、長野県野辺山では、アカモズの数が減少している。
また、減少の原因としてみなければいけないことは、森林伐採、地球温暖化により渡り時期と繁殖時期を調整することが難しくなっていることも指摘されていた。さらに伐採した材は日本に来ている。日本の生物多様性を考えるためには、世界のグローバルな結びつきに成り立っていることを考えなければならないことが紹介されている。
展示では渡りを行うアオバズク、アカショウビンなどの鳥類の標本が展示されている。

渡りを行う鳥類は日本以外の環境にも影響される

アオバズクとアカショウビン


シカの食害によるシダ植物の減少

次は、シカの増加と食害の問題。シカが増えすぎるために起こる問題が解説されている。シカの食害がもたらす結果としてシカの食べないものしか見られなくなってしまうことだ。
特にひどい屋久島を例に、ヤクシマタニイヌワラビほか林床性のシダ植物のほとんどが見られなくなってしまった。
シカをコントロールしないと日本の植物相の悪化が食い止められない状況にあるが、駆除しコントロールするのは難しく屋久島では保護柵を使って植物を保護していることが紹介されている。

きれいな水に復活したどぶ川

次の展示では人が汚染された環境にどのように向き合い改善していったか学ぶことが出来る。

シカによる影響で絶滅寸前の植物を紹介

どぶ川から復活した再生活動の解説

ここでは神奈川県にある境川を例に、昔は合成洗剤などの影響で泡だっていたが下水道整備などの努力で水質は改善し、生き物が回復した明るい内容の展示だ。これらの結果は長期の底生動物や魚類、珪藻類などのモニタリングからわかった。
ここでは水生動物や付着珪類を展示している。左は汚い水の中にいる生き物、右はきれいな水の中で生息している生き物を見ることができる。

1976年(左側)フナガタケイソウなど汚濁に強い限られた種が見られた

2005年(右側)トビゲラやカワゲラの仲間の幼虫など汚濁に弱い種が見られるようになった

このモニタリングからも汚染されてかつては「どぶ川」と呼ばれた環境でも人の努力で水質は改善し生き物も回復することがわかる。

5 生物多様性の保全

最後のコーナーでは、生物多様性の保全についての展示

おもに、2つのことについて展示されている。生息域内で保全する場合と、生息域外で保全する場合だ。生息地で保全する場合には生態系全体を保全する必要があるために効率的に沢山の種を保存することができない。また人工的な環境で保全する場合には進化がストップしたり、数に限りが生じるなどの問題がある。このコーナーでは保全の大切さとあわせ保全の難しさについても知ることが出来る。

ラン科植物の生息域外保全の紹介

アホウドリの生息域内保全

最初に生息域内から見ていこう。まずここではアホウドリの保全について展示されている。
アホウドリは南の諸島に繁殖している鳥だ。かつては8箇所で繁殖していた痕跡があり一度は絶滅してしまったと思われていたが、1951年に鳥島で発見された。再発見の場所は燕崎というところで、ここは急斜面で繁殖には適さない場所だった。最初の保全活動は、この場所に土砂が流れないようにすることだったこと、そして急な勾配ではなく、西側の緩斜面に繁殖地を新設しデコイを多数設置して、つがいの誘引に成功し新繁殖地をつくったことが説明されている。

実際に使用された内山春雄氏製作のデコイも展示されている。その後、鳥島は噴火の危険があるため聟島にヒナの移送が行われている。
このように生息域内で保全することが生息域内保全だ。

コシガヤホシクサの野性復帰の解説

実際にコシガヤホシクサを見ることが出来る

国立科学博物館植物研究部ではラン科植物の約3000種の生息域外保全を行っている。
ラン科は絶滅危惧種が多いため保全されている。

また植物研究部がすすめている、コシガヤホシクサの野生復帰について解説されている。

コシガヤホシクサはトキの植物版として、域外保全から域内保全が上手くいった植物だ。実際にコシガヤホシクサを見ることが出来る。

生物多様性保全のシンボルになっているトキだがその繁殖には餌となる水棲動物がいる豊かな水田や水辺、そして営巣木となる大木がある豊かな森などが必要で、このような生物多様性が高い環境を守り整備することが、私たち自身の生活の質を高め持続可能な発展につながると解説されている。

保全などについて解説していただいた動物研究部西海功先生

生物多様性をハンモックにたとえ重要性を解説

トキは1950年代から生息域が分断され絶滅危惧種になってしまった種で、最後に残ったのが佐渡ヶ島と中国の一部だけだ。

そのほか希少動物の保全には、植物園や、動物園・水族館などが連携、分担し希少動物の生息域外保全を行っている。

また域外保全をする場合特に重要なこととして、優れた繁殖計画を行うために、近親交配を避け繁殖に適した相手を動物園の間で貸し借りを行うシステム(ブリーディング)が利用され、遺伝子レベルの多様性を維持する取り組みが世界レベルで行われていることを知ることができる。

最後に、私たちを支える生物多様性性の結びつきをハンモックに見立て、生態系の結び目が崩れると生物多様性は崩れて大変なことになってしまうことをわかりやすく展示し生物多様性を守っていくことの重要性を伝えていた。


企画展の全体総括を担当された松浦啓一先生(国立科学博物館標本資料センターコレクションディレクター)に今回の企画展を通しメッセージをお聞きしました。

―未来へのメッセージですが、われわれが地球上に、生存し続けるうえでは生物多様性を守るしかないということ。
酸素も植物がつくりだしたもの、食べているものも他の動物や植物なのです。そういう意味でも生物多様性の保全というのは私たちの生活を守るために必要であって、それをしっかりととらえてほしいです。

そのために、私たちに何が出来るのかを展示を通し知らせていくことが重要です。この種、この生物を守ったから安全だということは今はいえないのです。

また、保全を行うにも生物のことをよく理解しないと効果的な対策が出来ません。
そのために、少しでも(生物多様性を)客観的なものにするため、多くの生物の分布がどの様になっているか知ることが求められています。
その意味でも生物多様性地形図のようなものが、生物多様性を知るための手段としてこれまでにない形として有効と考えています。


国立科学博物館 標本資料センターコレクションディレクター 
松浦啓一先生

企画展全体を通し解説を行われた

データを具体化し示すことが国立科学博物館の役割ということですか。

―国立科学博物館ではインターネット上に標本のデータベースを約70万点公開しています。
データベース化すればすべてがわかるわけではないですが、少なくとも、標本データから数値化したものが使えれば、いままでには見たことがない世界が見えてくると思います。ただ、1つの種だけわかってもだめで一人の研究者だけでは出来ません。その意味でも様々な研究者がいる科博だからこそ出来ることだと思います。

ご協力いただきありがとうございました。


会場内に設置されたメッセージコーナーには感想やメッセージが書かれた短冊が吊られている。
メッセージの多くに身近な自然に親しむことと、生物多様性の大切さが訴えられていた。


最後に今回の取材にご協力頂きました国立科学博物館の皆様、そして企画展に関われた皆様に心よりお礼申し上げます。

かはく生物多様性シリーズ2010第3弾

企画展「日本の生物多様性とその保全−生き物たちのバランスの中に生きる−」

開催期間: 5月1日(土)〜7月19日(月)
開催会場: 国立科学博物館 日本館1階 企画展示室

休館日 毎週月曜日および6月22日(火)〜6月25日(金)ただし5月3日(月)、7月19日(月)は開館

開館時刻 :午前9時〜午後5時、毎週金曜日は午後8時まで
(入館は各閉館時刻の30分前まで)

入館料 通常入館料のみでご覧いただけます。一般・大学生:600円(団体 300円)
※団体は20名以上  高校生以下無料


主催 国立科学博物館

展示資料
トップ | ご意見 | ヘルプ

Copyright(c)2006- a specimen room. . All Rights Reserved.