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展示会レポート 

群馬県立自然史博物館

第35回企画展 「むし虫ウォッチング」
開催期間:2010年3月13日〜5月5日
開催会場:群馬県立自然史博物館


群馬県立自然史博物館では3月13日から5月5日までの期間、第35回企画展「むし虫ウォッチング」が開催されていた。
本企画展は群馬県立自然史博物館で昆虫をテーマにした3度目の企画展で、過去に第2回企画展「ふしぎな虫たち」、第19回企画展「ファーブル昆虫記の世界」に次いでの開催になる。

今回の企画展では昆虫のからだや構造といった点に重点をおくのではなく、身近にいる昆虫の知られていない生態や、擬態する昆虫、また絶滅が危惧されているチョウの分布・保全といった昆虫の生活史を中心に450をこす標本箱と540点もの生態写真が展示され多様な昆虫の世界を知ることが出来る企画展だ。


会場ゲート付近全景

また、群馬県立自然史博物館では開館14年が経つがこれまで寄贈された多くの標本を一同に展示した機会はこれまでなく、今回それら公開されていなかった収蔵標本を出来るだけ多くの方に見ていただくことも目的として企画されている。

会場へと繋がるスロープの展示

展示会場へと繋がるスロープの各ゲージ内にはチョウの頭部やハエの頭部、オサムシの頭部といった昆虫の頭部の模型と、電子顕微鏡で撮影されたキタテハ(タテハチョウ科)の眼、ニクバエの眼、カナブンの眼が解説と共に展示されていた。


会場に繋がるスロープの展示

カナブンの眼の解説とオサムシの頭部模型


今回の企画展では数多くの生態写真が使われている。これらの写真は博物館でボランティアもされている青沼秀彦さんから数千枚の写真を提供してもらい、その中から選ばれた約560枚が展示されている。


生態写真が随所に見られた

ウスバシロチョウの標本展示

会場入り口で、目を引くのがウスバシロチョウの標本、大きな標本箱を4つ並べられた中にはウスバシロチョウが上から下まで広がっていくようにグラフィカルに配置されている。またその横には色彩が印象的なモルフォチョウの仲間も並べられチョウの色彩の多様さを印象付ける展示になっていた。

今回の企画展のテーマである昆虫の多様な形態と生態を知るために様々な展示の工夫がされていた。その1つが会場入ってすぐの展示だ。ここではバッタ目やチョウ目、カメムシ目などといった目が違う昆虫の形態を知ることが出来る。


展示会場入り口付近

昆虫の形態の違いを見る

標本箱には、コーカサスオオカブト(コウチュウ目カブトムシ亜科)ミヤマカラスアゲハ(チョウ目)トノサマバッタ(バッタ目)ルリボシカミキリ(コウチュウ目カミキリムシ科)セミ(カメムシ目)といった私たちに馴染み深い昆虫を見ることが出来た。

またその横には、「夏の草原の虫」「昼の虫たち」「夜の虫たち」といった生息環境別にどのような昆虫が生息しているかを知ることが出来た。


生息環境別に昆虫が展示されている

きれいに展翅・展足された標本 ルリボシカミキリ(左)

さらにこの企画展でのポイントはきれいに展翅・展足された標本たちだ。
ルリボシカミキリは翅が開く過程をコマ撮りしているかのように多くの標本で展示され動きが持たせていた。
そのほか、トノサマバッタやセミといった足と翅両方広げないといけないものもきれいに並べられ見ることが出来る。

3 世界の虫たちを地域や種別に展示

世界の昆虫を紹介する展示では、チョウやゾウムシ、カブトムシ、クワガタといった世界各地に生息する昆虫が展示されていた。ユーラシア・北アメリカ、中央・南アメリカ、東南アジア・オセアニア、アフリカといった地域をブロックにわけ、それらの地域に生息する代表的な昆虫を見ることが出来た。


世界中に分布するカブトムシ・ハナムグリの仲間などを見ることができる(展示右下)

世界の虫たちの展示コーナー

特に中央・南アメリカに生息するキプリスモルフォチョウ(コロンビア)、メネラウスモルフォチョウ(ブラジル)などモルフォチョウの仲間がもつ翅の色彩は本当にきれいだ。また、バイオリンムシ(マレー半島)はその名のとおり、形がバイオリンに似ている昆虫も展示されていた。またチョウの仲間で後翅の裏面が数字の89、98と読める模様になっているウラモジタテハの仲間も見ることが出来た。



モルフォチョウの翅の解説(左上)ウラモジタテハのなかま(右下)

ヘラクレスオオカブトの飛行を紹介した展示




東南アジア・アセアニアに生息するチョウ



メネラウスモルフォチョウ

形がバイオリンに似ているバイオリンムシ


4 1つ1つの標本箱で昆虫の生活史を見せる

このあと日本の昆虫がテーマごとに展示されていた。箱の中には一定のスペースがあいており標本も見やすくレイアウトされている。
また、特出すべきは、標本と生態写真が1つの標本箱に組み合わせて展示されている点だ。一つの箱の中に、一種しか入れず、その中に説明を入れて、生活史がわかるように展示されている。その数からしてもこれまでに見たことがなく新鮮でとてもわかりやすい。


アブラゼミの生活史を紹介した展示

それぞれの標本箱には生態写真と標本が並んでいる


標本箱の中に展示されている生態写真のほとんどが青沼秀彦さんから提供されたものだ。青沼さんの写真がなければこれだけの展示は出来なかったとのことだ。
青沼秀彦さんの写真は生態のことがわかっていないと撮れないものばかりで、標本とあわせより詳しく昆虫の生態を知ることが出来る。

展示を順に見ていくとまず「セミ・バッタのなかま」のコーナーがある。ここでは多くのセミ・バッタが展示されていた。その中からいくつか紹介すると、アブラゼミの卵、幼虫、羽化の順に卵から成虫までの生活史を紹介した展示がされていた。このほか、ヨコヅナサシガメ、バッタの仲間、カメムシの仲間などが見ることが出来た。


キバネツノトンボの展示

ヨコヅナサシガメの展示


また本企画展のチラシ表紙写真に使われていたススキなどイネ科植物に寄生するアカハネナガウンカも展示されていた。米粒程のサイズしかない標本では形の全容をつかむことは難しいが、生態写真が並んでいることでその形をとてもイメージしやすくなっていた。


アカハネナガウンカの展示

そのからだはとても小さい


このほかあまり展示されることが少ないアブ科の仲間も多く見ることが出来た。ムシヒキアブ科のシオヤアブにアオメアブ、ツリアブ科のホシツリアブとビロードツリアブ、また血を吸うアブの仲間としてヤマトアブとアカウシアブ等が展示解説されている。
ここでも、1つの標本箱の中に標本と生態写真そして解説まで入れられているので見ていても視線を離すことなく見ることが出来るのでとてもわかりやすい。


血を吸うアブのなかま

ツリアブのなかま


5 群馬のカミキリムシ

このコーナーでは群馬県に生息するカミキリムシについての説明と標本が展示されていた。
展示はそれぞれの標本箱ごとに、ホソコバネカミキリの仲間でハチに擬態する珍しいオオホソコバネカミキリや、「貯木場に集まるカミキリ」、そして、「トラカミキリムシの仲間」、「夜行性のもの」、「キイロトラカミキリ」、「花に集まるカミキリムシ」などテーマごとに展示されていた。


群馬のカミキリムシのコーナー

各標本箱がテーマごとに解説されている

ここに展示されているカミキリムシは八ッ場ダム周辺の貯木場で採取されている。今回の企画展を担当され実際に採取された群馬県立自然史博物館の高橋克之先生のお話では、八ッ場周辺採集では思わぬ結果になったという。カミキリムシは、新鮮な伐採木に集まり、それがなかなか見つからなかったそうだが、ダム工事のために木を伐採した貯木場で見つけることが出来たそうだ。


生態写真と共に標本が並べられている

ルリボシカミキリの展示(左下

その他、解説パネルでは、群馬県内に生息する2種、コブヤハズカミキリとフジコブヤハズカミキリの分布についての解説がされていた。この2種は飛べないため分布地域が分かれ、群馬県の北西部には2種類のコブヤハズカミキリの境界があること、そしてフジコブヤハズカミキリは榛名山で採取され、赤城山ではどちらのカミキミムシも見つかっていない。この点から両者の混生地が見つかっていないことが解説されている。


コブヤハズカミキリを解説した展示

群馬県内の分布をしることが出来る

オトシブミの生活史


その後のオトシブミの展示では、多くのオトシブミの仲間の生態写真と標本が並べられている。またオトシブミの生活史を知る資料として、揺りかごをつくるためのヒゲナガオトシブミ(メス)のツメや眼を電子顕微鏡写真で撮影したものが紹介されていた。


「ゆりかご」作りを写真で解説されていた

オトシブミ(右上)

6 テントウムシの斑紋

このコーナーでは、テントウムシの生活史について紹介されていた。

ナミテントウの背中の斑紋はその模様によって二紋型、四紋型、斑型、紅型の4種類に分けられる。人の血液型と同じように遺伝子の仕組みできまり、種による違いではないため型の違う個体同士でも子孫を残すことが出来る。


テントウムシのことを解説しているコーナー

また、4つの斑紋型の比率は産地ごとによって大きく違っている。
高緯度地方(北方)の方にいくと紅型が多くロシア、中国は紅型が多い。逆に低緯度地方(南方)にいくと、二紋型の比率が高くなっている。この原因として温度への適応とする説が有力で二紋型が高温に対して有利であることが解説されていた。
展示では、ナミテントウの二紋型、四紋型、斑型、紅型それぞれ越冬中に博物館内で採集された2005年と2009年のそれぞれの標本が並べられていたがそれらの標本からも二紋型が多いことがわかる


二紋型が多いのがわかる(左)

テントウムシの生活史を紹介

このほか、このコーナーでは、ナミテントウの集団越冬の解説や、ナナホシテントウムシなどの生活史を知る資料が並べられていた。

ハチのコーナー

次にハチのコーナーだ。ハチについては捕虫網で採取が行われている。また博物館独自の調査として、長野原町で生物自然史の調査がおこなわれており、今回の企画展でもこの場所で採取したものが展示されているとのことだ。


ハチのなかまを紹介したコーナー

ウマノオバチの展示では昭和14年に採取された標本も見られた(左下)

7 チョウの生態

チョウの展示では、多様な生活史の中から同じ種が季節ごとに違った形態を見せるチョウの季節型についてや、ゼフィルスと呼ばれる色彩豊かなミドリシジミの仲間、そして擬態についてスポットが当てられている。


チョウの季節型を解説したパネル

チョウの春型・夏型などの違いを見ることができた

まずはチョウの季節型だ。年に何回か出てくるチョウについては春に出てくるものと、秋に出てくるものとでは形態が違うことが展示解説されていた。


キアゲハの春型(上2段)・夏型(下2段)

キタテハ の春型(上3段)・夏型(下3段)

ゼフィルス

ゼフィルスの展示では博物館に寄贈された標本が数多く展示されていた。

ミドリシジミのなかまは「ゼフィルス」という愛称で呼ばれているここではゼフィルスの生態や魅力を伝えている

ミドリシジミ類に見られる特徴的な輝く翅について、アイノミドリシジミを例にエメラルドグリーンに見える金属光沢の「構造色」についての解説があった。エメラルドグリーンに光る構造色はオスからメスへの求愛のアピールや、鳥などに対する目くらましとして機能していることが説明されていた。その解説の下には、エゾミドリシジミやメスアカミドリシジミなど多様な色彩をもつミドリシジミ類を見ることが出来た。


ハヤシミドリシジミ(左)とミドリシジミ(右)

エゾミドリシジミ(左下)やメスアカミドリシジミ(右下)

そのほか、オオミドリシジミ、エゾミドリシジミ、ジョウザンミドリシジミは近縁で幼虫の食樹も同じだが、卵が産みつけられる場所がちがう。また同様に、ミドリシジミ、メスアカミドリシジミ、アイノミドリシジミも近い仲間で、それぞれの食樹が違い、このように見事に近縁種と競合しない環境を幼虫に用意している事などが解説されていた。


光る翅の秘密の解説

食樹と時間的な「すみわけ」を解説した展示

数多く会場に展示されている写真だがその中には、長時間連続し観察していないと撮影が難しいウラミスジシジミの卵からチョウになるまでの連続写真が展示されていた。特に蛹からチョウになるまでの瞬間を秒単位で追いかけ撮影された生態写真は大変貴重なものだ。
これは、ウラミスジシジミが羽化すると、その場で翅をひろげず、離れたところまで移動し高い所で翅を広げる。その移動を追いかけることが難しいためだ。


ウラミスジシジミのチョウになるまでの過程を写真で紹介していた

チョウになるまでの瞬間を秒単位で追いかけ撮影

撮影された林正樹さんは、昆虫の愛好家でチョウの習性にも熟知され、どのようにチョウが行動するか予想し撮影されたそうだ。


8 擬態する生き物

次は擬態する昆虫がテーマになっていた。擬態のイメージといえばカメレオンのように背景の色に似せて隠れるというイメージだが、今回の展示では様々な昆虫の擬態パターンや、その生態の不思議について詳しく解説されていた。
まず擬態の種類では、次の4つのパターンによってわけられることが説明されていた。まず、からだを背景などに似せて見つかりにくくする「隠蔽的擬態」。また逆にからだの色を別の生き物と同じようにきわだった色彩で身を守る「広告的擬態」、そして毒のない生き物が毒の有る生き物に似る「ベーツ型擬態」、最後に毒の有るチョウどうしがお互いに似た色彩や模様になる「ミューラー型擬態」などについて詳しく解説されていた。


隠蔽的擬態をする昆虫たち 葉に擬態するコノハムシ(左下))

まずこのコーナーでは、擬態される毒をもつチョウのメリットについての解説があった。幼虫のとき有毒物質(アリストロキア酸)があるウマノスズクサ科植物を食草とするジャコウアゲハは体内に毒が蓄積され成虫も「毒チョウ」とされ鳥などの外敵からも襲われにくい。


擬態の解説パネル

シロオビアゲハ(擬態種・左)ベニモンアゲハ(毒あり・中)ジャコウアゲハ(毒あり・右)

またこれらのチョウを鳥が一度食べると毒があることを覚えていて2回目からはそれを食べなくなるというメリットがある。

展示された写真資料の中には、ジャコウアゲハを食べようと口にしたヒヨドリがその後開放する瞬間をとらえた写真が解説と共に見ることが出来た。
口から離した行為が仮に落としたものであれば再度捕まえるはずだが、そのような行動はとらないことからもチョウに毒が有ることを鳥が認識しているといえる。


ジャコウアゲハを開放するヒヨドリ(鈴木勝氏撮影)

ベニモアゲハに擬態するシロオビアゲハのメス(ベーツ型擬態:中央) 

次に「ベーツ型擬態」をする毒のないシロオビアゲについて説明されていた。毒のあるベニモンアゲハの姿や形に擬態する種だ。


ヘクトールベニモンアゲに擬態するシロオビアゲハ・メスを紹介

シロモンアゲハの擬態に関する説明

シロオビアゲハのオスはどの地域でも黒色で翅に一本白い線があり、ベニモンアゲハに似ていない。しかし、各地に分布するメスにはオスと同じ型の白い帯の模様を持つタイプ(シロモン型)そして、赤い斑点が出る(ベニモン型)の2タイプあることが解説され擬態するベニモン型の優位性について解説されていた。


カバマダラ・メス(中央上)に擬態するメスアカムラサキ・メス(左上)ツマグロヒョウモン・メス(右上)

ナガサキアゲハのメスは同じ種とは思えないほど様々な型が出現する(左)

そのほかカバマダラに擬態するメスアカムラサキ(メス)ツマグロヒョウモン(メス)また同じ種とは思えないくらい別の毒チョウに擬態をするものとして、ナガサキアゲハのメスについて展示されていた。ナガサキアゲハのオスは黒色だが、メスはホソバジャコウアゲハやフィリピンキシタアゲハといった複数の毒チョウに擬態し色もオスと同じ種類だとは思えないほど違っている。

擬態するテントウムシの解説

擬態を解説したのコーナー

またほかに擬態する昆虫としてテントウムシが紹介されていた。テントウムシ類から分泌する黄色や朱色の独特の臭いのある液体は有毒成分が含まれ、その液体で身を守っているといわれている。すべてのテントウムシに見られる派手な黒色と赤色からなる類似した斑点は、毒があることを警告していてミューラー型擬態といわれている。 
また毒のないものが毒のあるものに擬態し身を守るものをベーツ型擬態とよばれていることが解説されていた。

この点を高橋克之先生は、警察と警備員との役割の違いを例に次のように解説された。
−ミューラー型は例えば世界中の軍隊や警察の服装が似ているというのがそうです。ひと目見ただけで何の職業かわかるものです。そしてベーツ型は逮捕権がないガードマンのようなもと考えるとわかりやすいでしょうか。−とお話頂いた。


ベーツ型擬態するベーツタテハ

ドクチョウのミューラー擬態の標本と解説

展示ではベーツ型擬態するベーツタテハと元になっているベニモンドクチョウが展示されていた。

またここではミューラー型擬態について、ミューラー(ドイツの博物学者)が1887年同一地域に生息するドクチョウ同士がお互いによく似ていることに気づき、また捕食者である鳥に対して毒があることを覚えさすのに効果があると考え、このように毒のあるもの同士が互いに似る現象をミューラー型擬態と呼ぶことが解説されていた。


ミューラー型擬態するスズメバチ類とそれに擬態する昆虫

ベーツ型擬態をする様々なチョウ


毒の有るスズメバチ類はミューラー型擬態で黄色と黒色のからだの色は毒の有るものとみなされる。それに擬態するベーツ型擬態の生き物としてトラフカミキリ、アカウシアブ、ホソヘリカメムシ、ブドウスカシバの標本が見ることが出来た。標本の比較ではその違いがわかるが飛んでいるとこを見るとその違いはわからないそうだ。


9 絶滅が危惧された生き物の保全

次のコーナーでは、群馬県で一度は絶滅したヒメギフチョウや、絶滅が危惧されているオオムラサキなどが紹介されていた。いずれも共通しているのは草原の環境が失われその数が減少したものだ。今から20年ほど前から減少しているオオムラサキの保護活動については、オオムラサキが安心してすめる森づくりを目標に発足した「群馬国蝶オオムラサキの会」での保全活動が紹介されていた。また天然記念物に指定されている赤城山のヒメギフチョウの保全活動では、「赤城姫を愛する集まり」の活動について紹介されていた。

赤城山のヒメギフチョウの保全活動

赤城山のヒメギフチョウの保全活動ではヒメギフチョウの食草となるウスバサイシンを使った分布域の拡大についての説明がされていた。

かつてヒメギフチョウは人の手が加わる里山の環境があるときには絶滅危惧の心配はなかった。しかし林床が暗く下草が育たないスギ林になった現在では、ヒメギフチョウの食草であるウスバサイシンが育たない状況にある。
ヒメギフチョウは、ウスバサイシンに卵を産み食草になるウスバサイシンと切り離せない生活史をもっている。


コーナーの全景

群馬のオオムラサキの調査と保全に関する展示

しかし生息地に適した山のふもと近くではウスバサイシンが減少し、生息場所がだんだん山頂近くになり寒い年では幼虫が死んでしまうようになってしまった。そのため、ヒメギフチョウの保全活動では生息地として適さない環境から適した山のふもとへと移動させる活動を行っている。


赤城山のヒメギフチョウの保全に関する展示

1940年〜1945年の間に採取された赤城山のヒメギフチョウ標本

実際には生息地をかえるために山頂からふもとまで食草となるウスバサイシンの渡り廊下を作り生活分布を移動させる活動について紹介されていた。

また展示されていた標本からは、ヒメギフチョウを研究していた田中恒司さんが戦前から採取した1966年までの標本を見ることが出来た。ヒメギフチョウは1966年に一度絶滅したと考えられ絶滅宣言された。しかし、その後再発見されて天然記念物になって現代に至っている。だが毎年出てくるヒメギフチョウは100個体ほどで人が保全し手を加えないと絶滅してしまうチョウであることも解説されていた。

このほかこのコーナーでは、オオムラサキの保全活動と、そのほかの群馬のチョウの現状がについての展示があった。


オオムラサキ:オス(左)メス(右)

群馬のチョウの現状と保全に関する展示


10 昆虫の移動と標本の重要性


数が減少している種がある一方で昆虫の移動や人為的行為によって分布を広げている昆虫をこのあとの展示で知ることができた。


昆虫の移動を紹介したコーナー

分布を広げるチョウを紹介

まず、渡りをおこなうウスバキトンボとアサギマダラを紹介。アサギマダラは翅にマーキングしその移動距離を知ることが出来る有名なチョウでその移動距離は2000kmに及ぶことが確かめられている。

また、かつて群馬県では見られなかったツマグロヒョウモンだが、今ではどこでも見られるようなったものだ。展示では古い標本から最近採取された標本が並べられていたが、一番古い1946年の標本は台風で飛ばされてきたものらしく翅がかなりボロボロだ。そのことから採集地で羽化し成長したのではない可能性が高い。


ツマグロヒョウモンの標本

アサギマダラの移動に関する解説

逆に近年前橋市内で採取されたのは、翅の状態もよく採取された周辺に生息していることがわかる。
博物館周辺では、1998年を境に生息にしているのではといわれ、新聞にも載ったほどだ。2008年の標本は博物館周辺で取られたものだ。増えた原因として考えられるのが食草である植物のスミレ、パンジーの数が人為的によって増やされ数が増加しているのではと考えられている。

あと人為的に増えたものとして展示されていたのがアカボシゴマダラだ。アカボシゴマダラハは中国の個体を誰かがばらまいたことにより数が増加したと考えられている。アカボシゴマダラは日本のゴマダラチョウと競合するがアカボシゴマダラの方が強く、しかもゴマダラチョウ科はやわらかい葉しか食べないが、アカボシゴマダラは硬い葉も食べられることが出来るため、越冬や繁殖力が強く在来種への影響が心配されている。
ムラサキツバメは、前橋市で採取されているので生息しているのはわかるが詳しくわからないらしい。


ナガサキアゲハ

生息が増加しているチョウたち

あとナガサキアゲハは温度に影響を受けているのが詳細に調べられ温暖化の影響であるといわれているものだ。


標本の重要性を解説した展示

ウスバシロチョウ(異常型)の詳細な記録と標本

標本の重要性についても解説があった、標本は種が実在することを具体的に証明するもので、過去に分布していたかなどを知る重要な歴史的な資料であると同時に、生物が絶滅してしまった場合には、標本だけがその生物の形態や生態を知る重要な資料であることが解説されていた。このコーナーでは、田中恒司さんが昭和12年に採取したウスバシロチョウ(異常型)の詳細な記録と標本が展示されていた。

11 今回の企画展を担当された群馬県立自然史博物館 高橋克之先生に企画展のポイントをお聞きしました。

一番見ていただきたいポイントは、種の中でも違う生活史や形態です。例えばミドリシジミですが、電子顕微鏡で見ると種ごとに翅の構造が違って光の反射率の違いがあります。また交雑するのを防ぐために活動時間が違い、また卵を産み付ける場所も違います。
今回の企画展のようにミドリシジミの種類をこれだけ出したところはそうないと思います、その点からも昆虫の多様性にも注目して頂きたいと思います。


群馬県立自然史博物館 高橋克之先生

ミドリシジミ類の解説

― とお話しいただきました。


新種のクジラ化石が展示されていた

今回の企画展の取材日には高崎市内で発掘された新種のクジラ化石が展示解説されていたので紹介しておこう。この化石は約1100万年前の後期中新世に生息していたヒゲクジラの新属・新種と判明したものだ。化石は桐生市のアマチュア研究者清水勝さんが2002年に高崎市の安中層群で発掘し、翌年群馬県立自然史博物館へ寄贈され、同博物館の木村敏之先生が記載したものだ「ジョウモウケタス」と命名され、種名は「シミズアイ」と名付けられた。




群馬県自然史博物館では7月17日から11月21日まで第36回企画展 「石になったものの記録」が開催されるが、その会場でもこの化石が展示される。企画展ではこの他にも化石に関する最新の研究成果や、日本初公開になる世界最大の三葉虫などが展示される。


最後に今回の取材にご協力いただきました群馬県立自然史博物館・高橋克之先生はじめ博物館関係者の皆様、また企画展に関われた皆様に心よりお礼申し上げます。


群馬県立自然史博物館

第35回企画展 「むし虫ウォッチング」

開催期間:2010年3月13日〜5月5日まで
開催会場:群馬県立自然史博物館

開館時間:午前9時30分〜午後5時(入館は午後4時30まで)
詳しい休館日については直接お問い合わせ下さい。
観覧料:一般/600円(480円)・高校・大学生300円(240円)・中学生以下無料(※( )は20名以上の団体料金です)

お問い合わせ 群馬県立自然史博物館  電話 0274-60-1200

この内容については、群馬県立自然史博物館の協力を得て掲載しています。
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