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展示会レポート 

第48回企画展
空の旅人 〜渡り鳥の不思議〜

開催期間:2010年3月13日(土)〜6月13日(日)
開催場所:ミュージアムパーク茨城県自然博物館

ミュージアムパーク 茨城県自然博物館では平成22年3月13日〜6月13日の期間、第48回企画展「空の旅人 〜渡り鳥の不思議」が開催されていた。本企画展では、季節ごとに見られる渡り鳥の生態を四季の風景をおりまぜた美しい生態写真と様々な生活史を中心に解説されていた。企画展の構成は、第1部では渡りを行うメカニズム、第2部では渡り鳥の生態、第3部では渡り鳥と人との関わり、そして第4部では渡り鳥の保全と未来についての4部構成になっていた。


会場入り口付近全景

ポスターのモデルはサシバ

企画展の入り口には、今回の企画展のチラシやポスターに使用されていた渡り鳥のイラストが会場入り口のゲートにも使用されていた。このイラストはサシバをモデルに描かれている。サシバは数年前にレッドデータリストの絶滅危惧種に指定され、茨城県の飛来数は全国的にも多くそこで渡り鳥であるサシバをモデルに本企画展のポスターなどに採用されたそうだ。
またツバメのペーパークラフトがこのゲートの上に見ることが出来た。


サシバがモデルとなったゲート

生態写真と共に鳥の剥製が展示されていた

入り口を入ると四季折々の生態写真が

入り口を入ると四季折々に見られるきれいな渡り鳥の生態写真が剥製と共に展示されていた。今回の企画展で使用されている生態写真は博物館周辺に在住のアマチュア写真家の方が撮影されたものだ。
また、入り口の正面にはアネハヅルの剥製が展示されていた。アネハヅルは迷鳥で日本ではあまり見られないものだ。ただ茨城県中央部にある涸沼での飛来記録があることもあり展示されている。
また、長距離渡りを行うコハクチョウや身近に見られるツバメなどがどのようなルートを通り渡りを行うか世界地図を使ってそのルートを確認することができ、鳥の種類によってその移動距離の違いと、渡り鳥が国境を越えグローバルな存在であることを知ることが出来る。


渡り鳥のルート表示

1 渡りを行うメカニズム

第1部の鳥の渡りのメカニズムでは、なぜ渡りを行い、そして渡りを行う鳥たちがどのようにして長距離の移動を可能にするのか、その生活史と翼や骨といった鳥の構造的な部分に触れ解説されていた。

まず今回の企画展のタイトルになっている鳥の渡りについては、季節ごとに生息地をかえる移動のことを「渡り」といい、そして厳しい気候条件を避けるために渡りを行うということが解説されていた。また、より一般の方にもわかるようにその生活史を夏鳥、冬鳥、旅鳥、漂鳥、そして渡りを行わない留鳥も紹介され鳥のタイプを5つのタイプにわけ解説されている。



解説では渡り鳥をわかりやすくタイプ別にみることが出来た


夏鳥 夏鳥は日本に繁殖するために渡ってくる鳥

夏鳥は、日本で繁殖し子育てをする渡り鳥だ。春になると暑さの厳しい南の国から、暑すぎずえさも豊富な日本へ渡ってくるもので、ここでは、クロツグミ、コマドリ、ツバメ、チュウサギ、ヨタカなどが展示されてた。ちなみにツバメは台湾や、フィリピン、ボルネオ島北部などで越冬する。


夏鳥のコーナー

左:チュウサギ 右:ヨタカ

冬鳥 冬鳥は日本で越冬するためにわたってくる鳥

冬鳥は、日本で冬を過ごす渡り鳥。日本で冬を越すために秋になるとロシアなど北の国から渡ってくる鳥だ。コハクチョウやツルが冬鳥として知られているが、ここではツグミやタゲリ、また渡りをするフクロウの代表としてコミミズクなどが展示されていた。


冬鳥のコーナー

左:ツグミ 右:タゲリ

旅鳥 旅鳥は春と秋に日本を通過する(中継地とする)鳥

旅鳥は春と秋の渡りの途中に、休息の地(中継地)として日本に立ち寄る渡り鳥。日本を中継地とし北の国で繁殖し、南の国で越冬する長距離の移動を行う渡り鳥だ。チョウシャクシギなどのシギやチドリといったなかまや、ノゴマやアジサシなどが旅鳥としてその剥製が並べられていた。またシギやチドリが干潟や水田に生息する生き物をえさにし、中継地となる日本で大切な栄養分を補給するために大切な場所であることが解説されていた。


旅鳥のコーナー

左:キョウジョシギ 右:チャウシャクシギ

漂鳥 漂鳥は国内の山地から平地などへ小さな渡りをする鳥

漂鳥は夏鳥、冬鳥、旅鳥などのように国境を越えるような渡りを行うものではなく、国内の山地から平野などへ小さな渡りを行う鳥だ。一年を通して日本にいるもので、繁殖期と越冬期ですむ場所が異なるものだ。ただルリビタキは繁殖期では亜高山帯に生息することが多いが、冬は平地に降りて越冬するものも見られる。しかし山地にえさが豊富な時には冬期もそこに残る個体もあり漂鳥のタイプとしてわけることは難しい種もあるそうだ。
ここでは、北海道から本州中部の山地で繁殖し、冬は本州西南部や南西諸島などに渡るクロジ、そしてヒヨドリやモズといった身近にみられるな鳥などが紹介されていた。


漂鳥のコーナー

左:モズ 中:ヒヨドリ 右:カケス

留鳥 日本で一年中みられる鳥

留鳥は、同じ地域で一年中観察することが出来る鳥で繁殖地と越冬地が同じで渡りをしない鳥。飛翔が苦手なキジやヤマドリ、そして越冬期も山間部に残るクマタカなどが解説展示されていた。

また日本でしか見ることができない日本固有の鳥などについても解説されていた。南西諸島、小笠原諸島、伊豆大島など離島に生息しているものが多い、これは島は大陸にくらべ競争相手や捕食者が少ない環境であること、また周囲が海に囲まれていることで分布を広げにくく固有種が生じやすいのだ。ここでは地上性の沖縄県本島の山原(ヤンバル)に生息するヤンバルクイナが展示されていた。


留鳥と漂鳥のコーナー



左:クマタカ 中:カワセミ 右:セグロセキレイ

日本固有種 ヤマドリ

渡りを行う鳥以外の生き物

第1部では、鳥だけではなく昆虫や魚など鳥以外で渡りを行う生き物も紹介されていた。昆虫の渡りでは、日本の春から初夏にかけてオキナワなど島々から北上、夏を本州高原で過ごし繁殖を行うアサギマダラについて解説。
またシロザケの母川回帰に関する映像と回遊に関する解説がされていた。シロザケの親魚は秋になると、海から生まれた川に遡上し河床の砂利に卵を生む、その後翌春に川から海に出て、オホーツク海、カムチャッカ半島、ベーリング海まで回遊をして、4〜5年後が経過した初夏にまた産卵のために母川を目指すことが解説されている。



昆虫と魚に関する展示

昆虫の渡りでは北アメリカのオオカバマダラも展示されていた 

渡り鳥の飛行メカニズム

渡りを行う鳥には、渡りを行わない鳥にくらべより飛行に適した体の構造になっている。また渡り鳥は上昇気流や、海風を利用するものなど飛行パターンにも違いがある。渡り鳥のメカニズムを知る後半のコーナーではこれら飛行方法のパターンや体の構造にスポットを当てそのメカニズムを解説していた。


渡り鳥の飛行方法を解説した展示(手前)

まず飛行方法をタイプ別に3つのパターンがあることが解説されていた。まず羽ばたき飛行を行うガンやコハクチョウ。上昇気流を利用した飛行を行うタカやツル。そして海風を利用したグライダーのような飛行を行うアホウドリやミズナキドリのなかまなどだ。ここでは飛行をイメージしたイラストと剥製がそれぞれの飛行方法の違いをよりイメージしやすくなっていた。


翼の構造を解説したコーナー

翼の揚力の実験装置

渡り鳥と渡らない鳥の翼の違い

次に渡り鳥と渡らない鳥の翼の違いにスポットを当てそれぞれの翼の構造や骨格標本なども並べられ詳しく解説されていた。


渡りを行う鳥の翼

渡らない鳥の翼

渡り鳥では、オオミズナキドリ、ヨタカ、アマツバメ、渡らない鳥では、スズメ、カケス、キジなどの剥製から翼の形状の違いを見ることができ翼の形状が渡りにとって重要であることがわかる。

また鳥が飛ぶためには、体を支える揚力と体を前進させる推進力の2つが必要だ。これに関連した風切羽の展示では、揚力を生み出ものが次列風切で、推進力を生み出すものが初列風切であることが説明されていた。
また、このことをより詳しく理解するための資料としてからだを支える揚力がどのように発生するか揚力実験装置でその原理を知ることが出来る。
また鳥が飛行するために必要とされる推進力が翼のどの部分で生み出されるか知る資料が並べられていた。


初列風切と次列風切の資料

オオミズナギドリの翼(尖翼)とコジュケイの翼(裂翼)の比較

また翼の比較では、渡り鳥の翼は、先の尖った細長い形の翼(尖翼)が、翼の端で発生する渦の影響を軽減し、空気抵抗を小さくし省エネルギーかつ高速飛行を可能にし長距離を滑空するのに適している点が解説されていた。

対照的に、渡りを行わない鳥の翼は、短く幅が広い三角形翼が渡りに適さないことが解説されていた。これらの鳥の翼の先端は割れた裂翼になっていて瞬間的に飛び上がる場合などに適した構造になっている。しかし裂翼をもつものでも渡りを行うものがあり翼の形だけでは説明できないとしながらも、翼の構造とその原理から渡りに適した翼の形がどのようであるかを知ることが出来た。


骨に関する展示

オオハクチョウのトラス構造

渡り鳥の骨格

渡り鳥の骨についてのコーナーでは、強度が必要で重くなりなりがちな骨について骨の内部が網目状に張りめぐらせた「トラスト(すじかい)構造」が強度をたかめ軽量化されたていることをオオハクチョウの上腕骨の骨格標本などを通し解説されていた。


左:オオミズナギドリ 右:コジュケイの骨格標本

実際にオオハクチョウの骨の重さを体験できる


2 渡り鳥の生態

渡り鳥は種によって多様な生態を持っている。第2部では、渡りを行う鳥を種ごとに違う生活史と、その生態をより詳しく紹介している。日本からロシアまで4000kmを旅するコハクチョウ、日本に毎年やってくるガンの中で一番大きいオオヒシクイ、夜に渡りを行う、オオルリやキビタキなど、今回の企画展でもっともスペースが割かれたコーナーには多くの生態写真と剥製が並べられ展示されていた。



渡り鳥の生態を紹介たコーナーでは多くの生態写真と資料が並べられている


生態写真と共に解説

ポスターのモデルになっているサシバの紹介

展示されていたものをいくつか見ていこう。

サシバ

サシバは里山を代表するタカの仲間で、日本に夏鳥として飛来し繁殖、やがて冬になると沖縄や東南アジアに渡りをおこなうものだ。

アオバズク

アオバズクは、野山に青葉が茂るころに渡って鳴き出すことからこの名前がついた。関東地方周辺にやってくるのは4月下旬で、5〜8月が繁殖期間で、夏の神社の境内で「ホーホー」と特徴的ななき方をする。展示では木の樹洞のなかに収まるアオバズクの剥製が展示されている。その下には、アオバズクの食痕も展示されていた。ここからはカブトムシなどの昆虫を捕食していることがわかる。


アオバズク

アオバズクの食痕

オオヒシクイ

オオヒシクイは茨城県に飛来する謎多きガンとして紹介されていた。茨城県は関東地方でガンのなかまオオヒシクイが毎年飛来する唯一の越冬地になっている。日本のオオヒシクイは、ロシアのカムチャッカ半島から渡来し、越冬する約9000羽のうち大半が日本海岸で越冬し、関東で越冬するのは稲敷市の50〜80羽のみであることが解説されていた。


オオヒシクイ

ヒシの実

コハクチョウ

茨城県の菅生沼には、毎年300羽を越えるコハクチョウが越冬し、3月には故郷の北極海沿岸に旅立っていく。またコハクチョウは、春になると、北シベリアに向けて北上をはじめ、北海道に4月下旬にまで休息をしたあと5月にはサハリンを渡り下旬には、繁殖地の東シベリアのチャウン湾へと戻っていく、ここでは博物館に隣接し、県の自然環境保全地域にも指定されている菅生沼に越冬するコハクチョウと、東シベリアの繁殖地の様子を知る資料が展示されていた。

コハクチョウは繁殖地の東シベリアまで4000kmもの長距離を渡るが、ここではより渡りの様子をイメージさせる飛翔タイプの剥製が展示、それ以外にも生態写真や映像資料、繁殖地で採取したコクハクチョウの巣がみることが出来た。


コハクチョウの渡りを紹介する展示

夜に渡りを行う鳥

このコーナー中央には「夜の世界へ」と書かれた6角柱の壁とカーテンに囲われた展示ブースが設けられていた。この中には、夜に渡りを行うホトトギスやトラツグミといった鳥の剥製が夜をイメージしたブースの中に展示されていた。天井には夜空をイメージした中に渡りを行う鳥がディスプレイされている。夜に渡る鳥のメリットとして、猛禽類などから身を守りやすい点と、羽ばたいて渡る鳥は気流が安定する夜間を選んでいると考えられている。


ホトトギス トラツグミ

夜に渡りを行う鳥を解説

コアジサシとムナグロ

このほかこのコーナーでは、オーストラリアやニュージーランドから4月頃に繁殖のために渡ってくるコアジサシ、越冬地のオーストラリアからシベリア周辺の繁殖地を移動する途中に日本に立ち寄り、田んぼで休んでいるところが見られる長距離飛行移動を行うムナグロなど多種多様な渡り鳥の生態を知ることができる。


ムナグロ

右:コアジサシ

ミヤマガラスと他のカラスの見分ける方法

このほか鳥の生態に関するクイズを楽しむことが出来たので1つ紹介しよう。分布を広げるミヤマガラスと他のカラスの見分ける方法についての問いだ。

答えは三択で選ぶようになっている。見分け方の答えだが、「ミヤマガラスのくちばしが細く、くちばしのつけ根の皮ふが白い」が正解だ。一見難しそうに思える問題でも、ミヤマガラスの剥製とハシボソカラス、ハシブトカラスの頭部のカービングが並べられているのでじっくり観察すればすぐわかる問題になっていて楽しみながら学べるようになっていた。


左:ミヤマガラス

鳥のトリビアとしさまざまな問題があった

茨城県の渡り鳥について

菅生沼に越冬するコハクチョウもそうだが茨城県の山や、海、川、水田と湿地といった多様な環境の中では、多くの渡り鳥が毎年季節ごとに移動を行っていることが知られている。
しかしその一方で通常のルートをはずれこれまで訪れたことがない地で羽根を休めたり越冬することが観察されている鳥がいる。このコーナーではこれら珍しい渡り鳥について紹介されていた。

2004年10月に神栖市波崎に渡来したクロトキは、中国で繁殖し、東南アジアへ渡り越冬する。展示ではクロトキの近縁種アフリカクロトキの剥製が展示されていた。このほか、日本でごく稀に渡来し、2006年に霞ヶ浦で観察されたレンカクなどを見ることが出来た。


茨城県の渡り鳥事情を紹介したコーナー

レンカク

3 渡り鳥と人との関わり

第3部の渡り鳥と人との関わりでは、私たち人間の季節の味覚やタンパク源として利用され重要な現金収入でもあったカモの伝統的な猟法や、渡り鳥が食用として品種改良されたウズラやアヒルなど渡り鳥と人との関わりについて紹介されていた。


コーナー全景

流し餅網猟と投げ網猟

人と渡り鳥の関係は猟という形で数百年に及ぶ歴史がある。千葉県の手賀沼が発祥とされ、その起源は1300年代までさかのぼる「流し餅縄猟」と、1700年頃に石川県加賀市の武士が、魚捕りの縄を使って飛ぶカモを捕ったことを起源とする「投げ網猟」も人と鳥との関係をあらわすものの一つだ。今回の展示では、これらの猟の様子の写真や、実際に使用された道具などを見ることが出来た。流し餅猟は1947年以降禁止になっておりそのような意味でも貴重な資料だ。


家禽化された渡り鳥

渡り鳥には、人間によって食料や観賞用として利用するために品種改良(家禽化)されたものがいる。このコーナーででは、これらの家禽化されたウズラや、またマガモが家禽化されたアヒルなど人間と関係が深い生き物についても紹介されていた。展示では、ウズラの飼育用ゲージやウズラやマガモ、アオクビアヒルの剥製が並べられ家禽化された生き物について学ぶことが出来た。
そのほか、歴史的な資料として渡り鳥と縄文人との関係を知る資料も展示されていた。縄文前期から後期に茨城県のひたちなか市の三反田貝塚から出土した大型猛禽類のオジロワシの発掘資料がオジロワシの剥製とともに展示されていた。
オジロワシの骨は、ほぼ全身の骨格が良好な状態で出土し意図的な埋葬の様子が伺われるのではないかということだ。


家禽化された渡り鳥と人との関係

渡り鳥と縄文人の関係を知る資料


人と鳥との関係

日常の中で家禽化された鳥たちが私たちに様々な恩恵を与えてくれる一方で、渡り鳥の中には鳥インフルエンザや食害など人と様々な軋轢を生んでいるのも事実。第3部のコーナーの最後には、これら問題点を人間と鳥の両方の立場からの予防策を考えることが重要であることが語られていた。

高病原性鳥インフルエンザは、家禽化された鳥と人間が接触することで感染する可能性がある。そこで展示では、鳥インフルエンザの検査キットや検査に関わる資料などについて紹介されていた。また、鳥がさまざまな構造物などに衝突するバードストライクや防鳥網にかかる事故なども取り上げられていた。ここではその実例として、レンコンへの食害を防ぐために張られた防御網に関係のない渡り鳥がかかって死んでしまう事故なども報告されていた。ここでは、バードトライクで死亡した鳥の仮剥製標本や、渡り鳥が網にかかって事故にならないよう改善された新しい防鳥網も並べられていた。


人と鳥との軋轢を紹介した展示

網にかかる鳥と従来の防鳥網

4 渡り鳥の保全と未来

第4部では、渡り鳥の保全と未来をテーマに現在日本の渡り鳥の数がどのように推移しているか、またその要因と考えられる自然環境がどのように変わってきているかなどにスポットを当て展示解説されていた。


渡り鳥の保全と未来のコーナー

数を減らす渡り鳥と増やす渡り鳥

まず減っている渡り鳥から、旅鳥の代表であるシギ・チドリ類は、干潟の減少が原因で最近20年間で少なくとも4〜5割が減少していると推定されている。特に、ヒシクイ、タマシギといった湿地性の鳥の減少が目立だっていることが解説されていた。そのほか、河原や、砂礫地で繁殖するコアジサシなども減少している。また人の手で維持されてきた里山で見られたサシバも急速に減少していることが解説さていた。

中継地としての干潟の役割についての解説では、干潟は、シギ・チドリ類、ガン・カモ類、サギ類、カモメ類など多くの渡り鳥が利用し、特に、シギ・チドリ類のように長距離を渡るものは日本の干潟はエネルギーを補給する中継地として重要な環境だ。しかし、干潟の減少により春と秋に干潟を中継地として利用するシギ・チドリ類がほぼすべての種で数がへってきている。展示ではイソシギ、シロチドリ、ハマシギなどの剥製が並べられていた。
また渡り鳥をグローバルな目線で見てみると、日本で繁殖する夏鳥のアカショウビンは、越冬地である東南アジアの森林の減少により日本に渡る夏鳥が減少していることが解説され減少傾向にある渡り鳥をグローバルな視点から考える必要があることを知ることが出来た。


数が減っている渡り鳥たち

シギ・チドリ類の剥製


逆に数を増やす渡り鳥も確認されている。ガン類やハクチョウ類、また日本ではほとんど渡来しなかったミヤコドリやセイタカシギが増え、東京湾では100羽以上のミヤコドリが越冬し、セイタカシギは渡りをしないで国内で繁殖している個体が確認されている。



数を増やしている渡り鳥たち

セイタカシギ

菅生沼の環境の変化と渡り鳥

菅生沼の環境の変化と渡り鳥の変化についての調査に関する展示もされていた。菅生沼の鳥類相は、1970年代より、野田野鳥同好会、東京理科大学野鳥クラブ、ミュージアムパーク茨城県自然博物館、そして野鳥ボランティアチームが継続して調査をおこなってきている。その結果から、土砂の流入による開水面の減少と乾燥化により植生がヨシやヤナギなどの群落が増え、利用する渡り鳥の構成も変化していることが示されたそうだ。1970年代にはキンクロハジロなど潜水性のカモ類やシギ・チドリ類が多く見られたが、現在ではヨシ原を好むオオヨシキリやチョウヒなどが目立つようになってきている。ここではそれらを知る調査資料とオオヨシキリなどの仮剥製が展示されていた。


菅生沼の調査に関する展示

現在 左:ノスリ 右:オオヨシキリ  以前 右:コガモ 左オナガガモ
渡り鳥の食性

日本に集まってくる渡り鳥の食性に関する展示もされていた。渡り鳥の食性はさまざまだが渡り鳥にとって植物の果実は、重要な餌になっている、中には昆虫を食べる渡り鳥でも果実が熟す時期には果実も食べる。展示では、冬鳥として渡来し落ち葉の下にいる昆虫も食べるが、冬には果実も食べるシロハラやアカハラ、また夏鳥のオオルリなどの剥製が展示されていた。


渡り鳥の食性に関する展示

キレンジャクとヤドキリの実

渡り鳥を守る

この展示の最後には渡り鳥を守る国際的な取り組みや日本国内そして茨城県内での取り組み等について展示されていた。

まず国際的な取り組みでは生物に関する3つの条約、「渡り鳥条約」、「ラムサール条約」「ワシントン条約」について解説されていた。
「渡り鳥条約」は渡り鳥の捕獲の禁止と輸入規制し共同研究の推進をすることで渡り鳥を保護する条約、「ラムサール条約」は渡り鳥の生息地になっている湿地と、その機能の保全や賢明な利用を進めるための条約だ。また「ワシントン条約」は、希少な野生生物の輸出入を規制し、野性動物の生存を守る条約だ。
これらの国際的な条約を通し渡り鳥を守っていこうとするものだ。


国際的な渡り鳥を守る取り組みを紹介したコーナー

海洋汚染による多量のプラスチックなどが鳥の胃の中に

このコーナーではさらに、海洋汚染によって餓死したクロアシアホウドリの胃の中に多量のプラスチック破片があった報告や、国を超えた研究の必要性と海洋生態系の保護に関わる解説と展示がされていた。
日本国内の取り組みでは2003年からはじまったモニタリングサイト1000という調査について紹介されていた。これは、日本全国に約100か所モニタリングを設置し、その変化を100年見続けようというものだ。鳥類では、森林性・草食性の鳥、ガン・カモ類・シギ・チドリ類、海鳥などが対象種になっている。


コアホウドリ

国内と茨城県の取り組みの資料

茨城県もこのモニタリングサイト1000に16地点登録されており、ミュージアムパーク茨城県自然博物館に隣接する菅生沼では、ガン・カモ類の調査が行われていうことが紹介されていた。また小学校15校、中学校6校を愛鳥モデル校に指定し、野鳥観察をとおして身近な自然に目を向ける活動支援を行っている。さらに現在も県内の動物相の分布や生息環境を調べる総合調査の中で、鳥類相についても調査を進めていることが紹介されていた。


渡り鳥の羽を知る資料

会場を出口付近から

このコーナーの最後には、2009年理科自由研究作品展でミュージアムパーク茨城県自然博物館長賞作品を受賞した茨城県稲敷市立江戸崎中学校理科研究生オオヒシクイ班が研究したオオヒシクイの生態に関する研究成果が展示されていた。過去8年にわたる調査結果から、飛来場所と飛来回数を細かく観察し、オオヒシクイに適した生息環境についてどのように改善していけばよいか今後の課題についてもかかれておりオオヒシクイに対する意識の高さを感じさせる内容だった。


ミュージアムパーク茨城県自然博物館長賞を受賞した作品

季節ごとに博物館周辺にやってくる野鳥たちを紹介していた

最後に今回の企画展を担当されました、ミュージアムパーク茨城県自然博物館の伊藤誠先生に企画展の見所などをお聞きしました。


私たちの身近なところにたくさんの渡り鳥がいますがそのほとんどが減少傾向にあります。渡り鳥の保全を考える場合には、自分達の見えているところの環境が整えば救えるわけではなく、越冬地と中継地と繁殖地と少なくても3つの環境が整って初めて安心して暮らすことができるのです。なかなか海外には目が行き届きませんが、国にとらわれずに鳥を守っていこうというような考えがなければ守って行けないことを感じてもらえればと思います。また今回の企画展から、渡り鳥の生態や生活史を通して楽しんで見ていただければよいと思っております。

と語っていただいた。

最後に、今回の取材にご協力いただきました、ミュージアムパーク茨城県自然博物館の伊藤誠先生はじめ関係者の皆様、また今回の企画展に関われた皆様に感謝申しあげます。


ミュージアムパーク 茨城県自然博物館

第48回企画展
空の旅人 〜渡り鳥の不思議〜


開催期間:2010年3月13日(土)〜6月13日(日)
開催場所:ミュージアムパーク 茨城県自然博物館


開館時間/午前9時半〜午後5時、月曜休館(祝日は開館し翌日休館)。
入館料/大人720円、高・大学生440円、小・中学生140円。

お問い合わせ  ミュージアムパーク茨城県自然博物館 (茨城県坂東市大崎700) 電話:0297(38)2000


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