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展示会レポート 

かはく生物多様性シリーズ 2010 第4弾
特別展「大哺乳類展−海のなかまたち」
開催期間 平成22年7月10日(土)〜9月26日(日)
開催会場 国立科学博物館 特別展会場(東京・上野公園)
主催 国立科学博物館、朝日新聞社、TBS

国立科学博物館では平成22年7月10日から9月26日までの期間、かはく生物多様性シリーズ2010第4弾 特別展「大哺乳類展―海のなかまたち」が開催されていた。2010年国連が定めた「国際生物多様性年」にあわせて国立科学博物館では生物多様性の意義や重要性についての普及に取り組んだ「かはく"生物多様性シリーズ2010"」が2010年を通して開催されているが、「大哺乳類展―海のなかまたち」はその第4弾にあたる。今回の特別展では、化石、剥製、骨格標本など40種以上約100種にも及ぶ標本をとおして、海棲哺乳類の進化と生態に迫る。展示では25mにもおよぶシロナガスクジラの全身骨格標本が会場内で間近で観察でき、またシャチやマッコウクジラ、ミナミゾウアザラシ、やジュゴンなど陸から海に還った海の哺乳類の多様性についても知ることができた。また、「大哺乳類展−陸のなかまたち」と同様に私たちと同じ哺乳類を知ることで、地球上で多様な生き物と一緒に生きていくことの大切さを考えてもらうことがテーマの1つになっている。


会場内全景

1 プロローグ 哺乳類とは

海にすむ 哺乳類の系統

入り口に入りとすぐに、海にすむ哺乳類の系統図が掲げられている。ここでは、海にすむ哺乳類が大きく3つのグループに分けられることが説明されていた。海の中で一生を過ごす、鯨類と海牛類、そして出産と子育てのときに陸に上がる鰭脚類の3グループだ。この系統図からは海にすむこれらの哺乳類の進化の過程の違いを知ることが出来た。


プロローグ全景

この系統図の前には、これら海にすむ鯨類のダンダラカマイルカ(レプリカ)、海牛類のジュゴン(レプリカ)、鰭脚類のゴマフアザラシが並べられそれぞれの形態の違いがわかる展示がされていた。特に鰭脚類は、全身を毛皮で覆われヒレ状の四肢をもち、鯨類と海牛類では明らかにその違いがわかる。


系統図と海にすむ哺乳類紹介

哺乳類の系統図

哺乳類の特徴

次に哺乳類の特徴についての解説されていた。まず第1の特徴はこどもを生み(胎生)母乳で育てること。第2に耳の中にある鼓膜の振動を内耳に伝える耳小骨が3つあることと、あごを複雑に動かし歯を使いわけることが出来るようになったことで、切歯、犬歯、前臼歯、臼歯など色んな歯が生まれたこと、そして、3つ目に体温を一定に保つことなどが解説されていた。胎生と授乳に関する展示では、イルカの生殖器(プラスティネーション)やイルカの胎児といった標本や、シロイルカの耳小骨。また体温を一定に保つために必要な毛の展示では、オットセイの毛皮や、鯨類と海牛類には毛皮の変わりに体温を保つため皮下に厚い脂肪層があることの解説とザトウクジラの脂皮の標本が並べられていた。


哺乳類の特徴解説

イルカの生殖器(プラスティネーション) 左:イルカの胎児

1 海に還った哺乳類

海に還った哺乳類の進化を知るこの第1章では、長い時間をかけて陸上での生活に適応してきた哺乳類の中から海に戻っていったクジラやイルカなどの鯨類、ジュゴンやマナティなどの海牛類、そしてアザラシやオットセイそしてセイウチなどの鰭脚類の進化について解説されている。海にいきる哺乳類の体には祖先からどのような特徴を引継ぎ、そして水中で生活することに適応した特長が混じりあっているか、それぞれのグループごとに進化の過程を知ることが出来た。またここでは、陸にすむ近縁種の骨格標本も並べられている。


第1章の展示風景

鯨類の進化

鯨類の進化のコーナーでは、現在知られている最古の鯨類のパキケトゥスや、その巨体が際立っていた完全に水中で生活した鯨類バシロサウルスの全身骨格標本(所蔵:福井県立恐竜博物館 複製)などが並べられ海の生活に適応するためにどのように変化したかがうかがえた。


鯨類の進化の解説



現在知られている最古の鯨類 パキケトゥス 
手前:さらに水中に進出した鯨類 アンブロケトゥス
左:鯨類の近縁種 カバ
また、海から陸に進出した陸上の哺乳類が再び海に進出するようになったのが約5,000万年前でクジラの祖先は、体が滑らかな流線型に、そして、前肢は胸ビレに、後肢は退化して骨盤のあとだけが残っていることが解説されていた。



完全に水中で生活した鯨類バシロサウルスの全身骨格標本(所蔵:福井県立恐竜博物館 複製)

海牛類の進化


陸上のゾウに近いといわれている海牛類の解説では、海牛類のジュゴンやマナティもクジラと同じように体は流線型で、前肢は胸ビレになり後ろ肢はなくなってしまった特徴がある点。また、成長すると新しい歯があごの奥から古い歯を押し出されて生え替わることや、前肢にひづめがあるといった特徴がゾウと同じであることなどが解説されていた。
ここでは、約5,000年前の地層から発見された海牛類の祖先ペゾシレン(所蔵:福井県立恐竜博物館 複製)とアフリカゾウの頭骨標本が並べられていた。


左:海牛類の近縁種 アフリカゾウ

原始的な海牛類 ペゾシレン

鰭脚類の進化

アシカやアザラシなどの鰭脚類は、鯨類や海牛類にくらべて水中生活にもどった時期がおそく、もっとも古い化石は鯨類や、海牛類よりも2,500万年ほど新しい。系統の解説では、まずアザラシ科がわかれ、次いでアシカ科とセイウチ科がわかれたという説が有力であるとの解説があった。
ここでも約500万年前の地層から発見されたセイウチ科の祖先で、キバ状の犬歯を持っているのが特徴のオントケトゥスの頭骨標本(所蔵:長野市立博物館分館 信州新町化石博物館 複製)とアナグマの頭骨標本が並べられ見ることが出来た。鰭脚類はイタチのなかまから進化したと考えられ、アナグマはそのイタチの中でも祖先に近い特徴を持っていることが解説されその骨格標本も並べられていた。


鰭脚類の進化の解説


右:原始的な鰭脚類 オンケトケトゥス
左:鰭脚類の近縁種 アナグマ


似ているにちがう 魚類 爬虫類 哺乳類

海に進出した哺乳類の章の終わりには、魚類、爬虫類、哺乳類と違う種であっても環境へ適応する中で、外観や機能が結果的に似てしまった点について解説されていた。このように似てしまうことを「収斂」と呼ぶのだが、ヒレのつき方や、位置や数などそれぞれに特徴があり似ているのはうわべだけであることが解説されていた。

鯨類のスジイルカ(レプリカ)爬虫類のステノプテリギウスの化石、魚類のアオザメなど同じ流線型をしているがそれぞれ種が違う。


鯨類のスジイルカ(レプリカ)と爬虫類のステノプテリギウスの化石

手前:魚類のアオザメ

2 イルカとクジラ

第2章では、水中にもっとも適応したクジラとイルカにスポットをあて、歯のある「ハクジラ」の特徴や「ヒゲクジラ」のエサのとり方などそれぞれのなかまの違いについて詳しく解説。またクジラとイルカでは、何が同じかなど鯨類のさまざまな形態や生態をそれら標本とともに解説され知ることが出来た。また、この章では地球上最大のシロナガスクジラの全身骨格標本やイッカクの全身骨格標本も頭上に吊り下げられておりさまざまな角度から間近で観察できたことも本展示の魅力の1つだった。また、サイエンスラボのコーナーでは、実際にハクジラの歯やヒゲクジラのヒゲを実際にさわることが出来るコーナーも設けられていた。またこの章ではさまざまなクジラによってちがう歯についても多くの種の歯を比べながらその違いを見ることが出来た。


 第2章の展示風景

シャチの全身骨格標本

ハクジラの代表シャチ

クジラには、歯のある「ハクジラ」と歯がなく上あごにクジラヒゲのある「ヒゲクジラ」にわけることが出来る。世界中で80種以上いることが知られており、日本周辺にも40種ほどくらしていることがわかっている。「ハクジラ」の特徴は魚やイカなどのエサを一匹ずつ食べ、「ヒゲクジラ」はオキアミなどのエサの群れを一度に食べるなどの特徴がある。


第2章では 鯨類の歯のある「ハクジラ」 クジラヒゲのある「ヒゲクジラ」の解説から始まっている

この章の始めには、ハクジラの仲間にはどのような特徴がありどのような生き物なのか「ハクジラ大辞典」として解説されていた。また、シャチの全身骨格標本と歯の成長を知る液浸標本も展示されていた。この章では、それぞれの多くのハクジラの仲間やヒゲクジラの仲間の全身骨格標本とそれぞれの歯とヒゲの標本が展示されているので、それぞれの種にさまざま違いを見つけることが出来た。
まずハクジラの特徴を6つにわけ解説している。1 エサ生物を一匹ずつ捕らえる。2 歯がある。3 鼻の穴(噴気孔)は1つ。4 嗅覚が無い。5 エコロケーション(反響定位)をする。6 盲腸が無いの6つのポイント。


シャチの歯 液浸標本

会場ではシャチの声を聞くことも出来る

またここではシャチの全身骨格標本とシャチの歯の成長層からわかるシャチの年齢について解説されていた。ハクジラの歯は一生、生え変わることが無いので、歯を縦に切り顕微鏡で見ると成長層といわれる交互の模様が見える。ここでは、0才の新生児13才の若いオトナ、年老いた59才のそれぞれの歯の液真標本が展示されていた。また、ハクジラの代表ともいえるシャチは、体に対し胸ビレが大きくせまい場所でも小回りがきき強力なあごの力で獲物を捕らえる「海のハンター」とも呼ばれている事などが解説されていた。

イルカとクジラの違いは無い

イルカとクジラは違う種のように思われるが実は生物学的には違いはなく、ハクジラの中で小さくて愛くるしくものをイルカとよび、大きな体を持つものをクジラと区別されているそうだ。明確な決まりがあるそうではないが4〜5m以下のクジラをイルカと呼ばれることが多いそうだ。


スジイルカの全身骨格標本

イルカについて解説

スナメリ 胃

ここではスメナリのレプリカとスジイルカの全身骨格標本が展示されている。またその下には、舌骨が展示されていた。舌骨とは下あごの骨の内側か後ろ下にブーメランのような形をした骨のことで、ここでは、カマイルカの舌骨とニホンカモシカの舌骨が並べられ展示されていた。並べられた2つの舌骨からは海の哺乳類の方が陸の哺乳類の骨のほうがおおきいことがわかる。これは、海の哺乳類がエサ生物を吸い込んでたべるのと関係していることが解説されていた。このほかこのコーナーでは、スメナリの胃のプラスティネーションが展示されスメナリの胃がどのようにして働いているか解説されていた。かまずに丸のみしたエサ生物をくだく前胃、消化酵素を分布し食べ物を分解する主胃、主胃で消化されたものを少しずつ流す幽門胃などを見ることが出来た。 


左:ニホンカモシカの舌骨 右:カマイルカの舌骨

スナメリの胃


ハクジラの仲間の中で食べものによって歯の本数がちがう

ハクジラの歯は一般的に円錐形で、すべて同じ形をしている。また歯はエサ生物をとらえるときに役立つが、意外なことにエサをかみくだくことなく丸のみし、胃でエサをくだく役割を果たす。そのためエサ生物の違いによっては歯の本数に違いがある。ここではグループごとによって違う歯の数について解説されていた。まず、魚類やイカやタコ、海底にすむエビやシャコなどさまざまなエサ生物を食べるハクジラは歯の数がおおく。逆にイカやタコを種に食べるものは、歯が少ない傾向にあることが解説されている。

歯が多いものではシワハイルカの頭骨標本と歯が少ないハクジラではコマッコウやハナゴンドウの頭骨標本がならべられその違いを見ることが出来た。


ハクジラの食べ物と歯について解説

シワハイルカの頭骨標本

オウギハクジラ大集合

今回の企画展では、「謎のクジラ」とされていたオウギハクジラ属4種のオス・メスの頭骨標本を一同に見ることが出来た。オウギハクジラ属は、その他のハクジラとは違い歯は下あごの左右に1対のみで、成長したオスにしか生えていない。また若い固体とメスには歯がなくても生きているので、歯がなくても食べることに関係が無いことがわかるそうだ。また歯の新たな役割としてメスをめぐってオス同士で争うときなどに使われ、オスの二次性徴として重要な役割を果たしている。
今回の展示では、コブハクジラ、オウギハクジラ、ハッブスオウギハクジラ、イチョウハクジラのそれぞれのオス・メスの頭骨標本が並べられていた。ハッブスオウギハクジラの標本からもオスの歯は、大きく平らで、上あごの左右から強くはさむように高くつき出しているのがわかる。


4種のオウギハクジラ属

ハッブスオウギハクジラ(オス)の頭骨標本

その横には、オウギハクジラ(オス)の全身骨格標本が並べられていた。また、オウギハクジラの歯の成長過程をしる展示もされていた。下あごに1対のみに生える歯はもともと三角形で、若い時は下あごの中に埋もれていて、オスが思春期をむかえるころ、急に変化し、栗のような形からどんどん伸び歯肉を破って左右から挟みこむように生えるとの解説がある。


オウギハクジラの全身骨格

オウギハクジラの歯の成長

イッカクとシロイルカ


イッカクとシロイルカの全身骨格標本が上下で並べられ見ることが出来た。共に分類はイッカク科で同じ仲間になる。それぞれ首の骨が融合していないので他のイルカに比べて首がよく動くのだそうだ。


イッカクの全身骨格標本は天井からつられている

シロイルカの全身骨格標本
ヒゲクジラ大辞典

会場中央に順路を進めると地球上最大の動物シロナガスクジラの全身骨格標本(所蔵:山口県下関市 複製)が展示されている。体長25mにもなる展示されていた固体はハクジラの全身骨格標本と見比べるととても大きく、体長の約4分の1をしめる頭骨だけでもシャチの大きさと変わらないくらいほどの違いがある。


体長25mあるシロナガスクジラの全身骨格標本(所蔵:山口県下関市 複製)
地球上最大のシロナガスクジラ

口の中に歯はなく、クジラひげを持つ巨大なヒゲクジラにはハクジラと違う特徴があることが解説されていた。
1にエサ生物の群れを、海水や海底の泥ごと一口で取り込みクジラヒゲをフィルタとして水からこしとってエサを食べる。
2に上あごにクジラヒゲと呼ばれる三角形のかたいヒゲ板が左右に百枚単位で生えていること。
3鼻の穴が2つある。
4長距離の季節性回遊をする種が多い。そして5つ目として、一般的に体が大きいなどの特徴があることが解説されていた。

ここではシロナガスクジラやニタリクジラの全身骨格標本が展示されている。


前から見たシロナガスクジラ

シロナガスクジラの解説

ヒゲクジラのくらし(ザトウクジラ・コクジラ・セミクジラ3種の餌のとり方の違い)


ヒゲクジラは大きな体をしているが、オキアミや甲殻類・イカやタコなどさらには小さな動物プランクトンなどを食べるためにエサ生物のとりかたも独特で頭の形も種により独特な形態をしている。このコーナーでは、ザトウクジラ・コククジラ・セミクジラの摂餌の解説と頭骨標本が並べられそれぞれの違いを比較し見ることが出来た。

ザトウクジラは口を大きく開いて大量の水とともにエサ生物をのみこむエンガルフフィーディング(のみこみ摂餌)をおこなう。また、コククジラは海底の泥とともにエサ生物を吸い込むボトムフィールディング(低質摂餌)、セミクジラは海面ちかくでエサ生物をすきとっているかのようにエサをとるスキムフィーディング(漉き取り摂餌)など独特なエサのとりかについて解説していた。


左からザトウクジラ・コクジラ・セミクジラの頭骨標本

摂餌の方法の違いで形が違う頭骨

シロナガスクジラの全身造形モデル

会場には、国立科学博物館日本館の屋外に展示されているシロナガスクジラの実物大レプリカの10分の1モデルが展示されていた。この全身造形モデルはレプリカを作製するために作られたもので、このモデルを3次元スキャナでデジタル化して最終原型を作ったものだそうだ。


10分の1の全身造形モデル


館外に展示されているシロナガスクジラ

ニタリクジラの全身骨格

頭上から吊り下げられているニタリクジラの全身骨格標本を真下から見ることも出来た。ニタリクジラは、熱帯から温帯の海にくらし。日本近海では黒潮よりも沖合いで見られることが多いことが解説。
今回展示されている個体は2007年の千葉県袖ヶ浦に流れついたもので袖ヶ浦市の協力のもと研究者が調査されたあと約1年地中に埋められその後発掘し全身骨格標本としたものが展示されていた。


ニタリクジラの全身骨格標本


サイエンスラボ

イルカやクジラの歯やヒゲなどからだの一部をさわり観察できるサイエンスラボのコーナーには多くの人の列が出来ていた。ここでは、シロナガスクジラのヒゲ板やナガスクジラのヒゲ板などを実際にさわりその質感をたしかめることが出来た。
そのほかにも、さわることは出来なかったがシロナガスクジラ、ナガスクジラ、イワシクジラ、ニタリクジラ、ツノシマクジラ、セミクジラ、ホッキョククジラなど大きさの違うヒゲ板が並べられ観察することが出来た。

その横にはカマイルカの歯をさわるコーナーが設けられていた。「!ケガにちゅうい!」と書かれるほど歯の先はするどくとがっていることを指の感触で知ることが出来る。


サイエンスサボのコーナー

カマイルカの歯をさわるコーナー

「食べる・食べられる」の関係 

次のコーナーでは、イルカやクジラが食べられるものと食べるものなどについて解説されていた。

このコーナーでのポイントは、これほど巨大で、海の生態系の頂点にみえるイルカやクジラが何をたべているのか、またその一方でホオジロサメのようにイルカを捕食する生き物について解説展示されていた。


このコーナーでは胃の中に残っていたものなどが展示されていた

イルカやクジラを食べるものや寄生生物・付着生物について解説

イルカやクジラが食べるものとして、シャチが食べたものと、ハナゴンドウが食べたものが紹介されている。
ここには、2005年北海道の羅白の海岸に流れついて死んだシャチの胃から出てきたものから何を食べていたかがわかる。この胃からはアザラシやイカなどのエサ生物が確認されている。また、体長7.6mのシャチは死亡前の数ヶ月に少なくてもアザラシ32頭、イカ190匹を食べておりここではそれらを証明する資料が展示されていた。



ハナゴンドウの胃の中から見つかったアオリイカ

体の脂体の1部をくりぬい食べるダルマザメ

ハナゴンドウは、主にイカを食べるイルカの一種。展示では愛知県沿岸を死亡して漂流していたハナゴンドウの胃の中から見つかったアオリイカの5個体のうちの3個体が展示されていた。他にも約30個体のイカの顎ばんなどが残っていたそうだ。

イルカ、クジラを食べるものと利用するもの

イルカやクジラを食べるものとしてサメのなかまがいるが、ここではこれらについて解説されていた。ホオジロサメのように1頭を丸のみするものもあれば、体の脂体の1部をくりぬいて食べるダルマザメなどがいることを知ることが出来た。展示では、ホホジロザメの胃の内容物であるイシイルカやヒゲ板などが水槽に入れられ展示されている。


寄生生物のアニサキス属線虫

付着生物のオニフジツボ(中央)

またここでは、イルカやクジラを利用するものとして寄生生物や付着生物などについても展示されていた。セミクジラやコククジラなどの体表に無数にすむクジラジラミは皮膚を食べて生きているものだ。そしてアニサキス属線虫はイルカやクジラの胃の中で生活し、クジラの食べものを横取りし生きている。

付着生物であるフジツボのなかまは、クジラから養分をとるわけではなく、クジラが移動すると、房状の蔓脚を出して海中のエサをからめとって食べる生き物だ。展示では、ザトウクジラの体表に着生する代表的なフジツボのオニフジツボの液真標本が展示されていた。

イルカ・クジラのからだ
 


イルカ・クジラの内臓と骨盤骨の解説展示

イルカやクジラの体を解説したコーナーでは、内臓や骨盤骨などについて解説されていた。クジラやイルカの内臓は、一般的な哺乳類と基本的には同じようなつくりをしている、肺で呼吸し、2心房2心室の心臓で血液を循環させるなどがそうだ。その一方で水中生活に適応したからだの変化も存在する。オスの精巣が腹腔内におさまったことや後肢が退化し骨盤のなごりが残る骨盤骨などがそれだが、ここではこれら臓器や骨盤骨が展示されている。このほか、クジラの内耳に関する展示では、セミクジラ、ザトウクジラ、マッコウくじらの内耳の鋳型標本が並べられ見ることが出来た。


クジラの内耳の鋳型標本

手前:カズハゴンドウの胃 右:心臓

鳴音とエコロケーションの解説

共鳴とエコロケーションを紹介した展示では、ハクジラ類がはっした超音波が返ってきた音波を受け取りエサ生物や敵の存在を認識するエコロケーション(反響定位)能力について頭部の断面標本とともに解説されていた。

そのほか、スメナリが海底のエサ生物をさがす時に口にふくんだ水を吹きかけて探すが、このとき空気をふくんでいると空気が回転してリング状に見える。ここでは、このバブルリングを呼ばれる空気の輪を体験することもできた。


鳴音とエコロケーションの解説

バブルリングを観察することも

マッコウクジラとダイオウイカの戦いとマッコウクジラの頭の内部構造

ハクジラの中でもっとも大きいものはマッコウクジラで、オスが体長20mにもなることがある一方でメスは、12mほどとオス・メスに差があるクジラだ。

また深海1,000m近くではダイオウイカとの闘いを証明する食べられる時に抵抗してつけたと思われる吸盤のあとが口の周りに残されていて、深海の中でマッコウクジラとダイオウイカとの闘いが行われていることがわかっている。ここでは、ダイオウイカとの闘いをイメージさせる大きな模型が展示されていた。この模型では、マッコウクジラの頭部構造がわかるようになっており、「ジャンク」と呼ばれる頭骨の上の脂肪組織と、さらにその上に脳油を満たしたタンクのような袋「ケース」がのっているのがわかる。
マッコウクジラの脳脂は石油が実用化されるまでは重要な天然油脂だったことが解説されている。


マッコウクジラとダイオウイカの戦い

マッコウクジラの頭の内部構造

マッコウクジラの腸から得られた貴重な「龍涎香(りゅうぜんこう)」の香りを体験するコーナーもあった。中国では龍の涎がかたまってできたと考えられた幻の香りで中世ヨーロッパの貴族も香水などで愛用したというものだ。ここでは、龍涎香の本体と、龍涎香から抽出したチンキ、そして、龍涎香のアンバーグリス香の主要香気成分の1つ「ノルラブタンオキサイド」が合成された主要香気成分のそれぞれ3つの香りをかぐことが出来た。


マッコウクジラの脳油

龍涎香(りゅうぜんこう)の香りを体験

3 多様な海の哺乳類たち

多様な海の哺乳類たち

第3章では、鯨類以外の鰭脚類や海牛類など海にいきる哺乳類にはどのような生きものがいるのかそれぞれの特徴と剥製標本などとともに展示されていた。


第3章の展示風景

アザラシやオットセイセイウチはイヌやライオンと同じ食肉目のグループに分類され、その中でも、アザラシや、オットセイは手足の先がヒレのようになっているので鰭脚類ともいわれている。また鰭脚類は、出産や、子育ての時には陸や氷の上に上がり生活を行う。また、海牛類のマナティやジュゴンは草食性で海や河川などに住み、ワカメやコンブそれにウミヒルモなど海藻や海草などを食べることなどが解説されていた。


鰭脚類(ききゃくるい)、その他の食肉目、海牛類が並んでいた

鰭客類には、食肉目のアシカ科、アザラシ科、セイウチ科の3科にわけられ、35種が知られている。今回の展示では、それぞれの特徴と剥製標本や骨格標本などが並べてその特徴を観察することが出来た。

アシカ科

アシカ科には耳介(耳)があり、一夫多妻で群れをつくりオスがメスよりも大きく短くてびっしりとした下毛と長い剛毛で出来た2層構造の毛皮を持っている。また、大きな前ヒレを使ってすばやく泳ぐ特徴を持っている。


アシカ科の動物

アシカ科の後肢

トドのオス・メスそれぞれの剥製標本が並んでいるのでその大きさの比較をすることができた。そのほか、オットセイ(コドモ)の剥製標本や、カリフォルニアアシカの剥製と全身骨格標本が展示されアシカの特徴を観察することが出来た。

アザラシ科

アザラシ科には耳介(耳)がなく、メスとオスではちが違う形態をして、中にはメスがオスよりも大きい種もいる。また毛皮の毛足は短く、水中では体を魚のように左右動かして見えるように泳ぐ特徴がる。ここでは、ウェッデルアザラシ(オス)やヒョウアザラシの剥製標本や、食べるエサ生物によって歯の形ちがうことを紹介するためにウェッデルアザラシとカニクイアザラシの頭骨標本が並べられ展示されていた。主に魚類を食べるウェッデルアザラシは普通のアザラシに見られる歯をもっているが、カニクイアザラシは炎のようにわかれ口にふくんだ海水からプランクトンだけをこしとって食べることが解説されていた。


左からミナミゾウアザラシのオスの全身骨格標本とメスの剥製標本

ウェッデルアザラシとカニクイアザラシの頭骨標本

ミナミゾウアザラシ

このほかアザラシ科の中でもっとも大きなミナミゾウアザラシのオスの全身骨格標本とメスの剥製標本が展示されている。ミナミゾウアザラシは血液中に大量の酸素をたくわえることで長時間もぐることができ、亜南極圏の島々で出産と子育てをするものだ。展示されていた全身骨格標本はからだの上半身をおきあがらせたようなポーズだったがその後ろに展示されていたホッキョククマと変わらないかそれ以上の高さがあった。

日本近海で見られるアザラシたち




日本近海には、ゴマフアザラシ、ワモンアザラシ、クラカケアザラシ、ゼニガタアザラシ、アゴヒゲアザラシの5種類のアザラシが知られている。ここでは、この5種類の剥製標本と、ゴマフアザラシ、ワモンアザラシの全身骨格標本が展示されていた。

アシカ科とアザラシ科の両方の特徴も持っているセイウチ科


セイウチの剥製と全身骨格標本

牙がよくわかる頭骨標本

セイウチ科は、アザラシ科の特徴である耳介(耳)がない特徴と、前ヒレが大きく、後ヒレを前方に曲げることができ陸上で歩くことができるなどアシカ科の特徴と両方の特徴をもっている。またオスとメスともにりっぱな牙をもち陸に上がるときや、エサを捜すときなどに使うと考えられているとの解説があった。展示では、セイウチの剥製と全身骨格標本、また牙がよくわかる頭骨標本が展示されている。

海牛類のジュゴン・アメリカマナティ


ジュゴンの全身骨格標本とメスのレプリカ

ジュゴンとアメリカマナティの頭骨標本

海牛類には現在、ジュゴン科の1種とマナティ科の3種が棲息している。ほかの海の哺乳類とは違い唯一の草食性のグループだ。ジュゴンは海にすみ尾ヒレの形はイルカやクジラに似ていて、尾ヒレは大きなしゃもじ型をしている。
ここではジュゴンの全身骨格標本とメスのレプリカ、頭骨標本がアメリカマナティの頭骨標本と並べられ展示されていた。ジュゴンは海底の水草を食べるため、頭部の鼻先がマナティにくらべると下向きであることがわかる。

4 絶滅の淵で



第4章全景風景

絶滅の淵でとタイトルのついた第4章では、人間が絶滅させてしまった中国のヨウスコウカワイルカや日本周辺に棲息していたニホンアシカなどが展示されていた。また、絶滅が危惧されている、沖縄のジュゴンや日本沿岸をおよぐ西大西洋のコクジラそしてガンジス河のガンジスカワイルカなどにも絶滅が危惧される種として紹介されていた。
ここ数百年の人類の活動で生物を絶滅や絶滅の危機に追いやっていることを学ぶことができた。


絶滅させてしまった海の哺乳類

ニホンアシカの剥製標本

また「ヒト社会の発展と向上は、時に動物の命をおびやかす。絶滅させてしまった生物を元にもどすことはできない。こうした過去を繰り貸さないために、私たちはどうすればよいのだろうか。絶滅してしまった動物たちのメッセージを受け止め、もう一度向きあってみようと。」とかかれたボードからは私たちが無関心ではなく現状を知り考えることの重要性を教えてくれた。

そのほかにも、ニホンアシカ(所蔵:大阪市天王寺動植物公園事務所)はかつて日本全国にすんでいたと考えられているが1970年代半ばから目撃さていない生き物で、乱獲のために絶滅したと考えられている。


絶滅が危惧される海の哺乳類

手前:ガンジスカワイルカ 奥:ジュゴン

絶滅の危機にあるガンジスカワイルカは、ガンジス河にすみ、淡い褐色のカワイルカで、目に水晶体が無い唯一の哺乳類で、近縁のインダスカワイルカとともに絶滅のおそれがある種だ。このほか、沖縄周辺の個体群がもっとも絶滅の危機にあるとされるジュゴンだが、乱獲やエサとなる藻場が減っていることなどが原因とされその数を減らしている。最近では、数頭しか確認されておらず回復は絶望的と見方もされている生き物だ。

このほか北極圏の氷が溶け出し棲息地が減っているともいわれているホッキョクグマの剥製やコクジラの頭骨標本などが展示され紹介されていた。


ホッキョクグマの剥製標本

コククジラの頭骨標本

5 海の多様性を守るために

「食べる・食べられる」の関係

「海の多様性を守るために」をテーマに第6章では、「食べる・食べられる」「汚れていく海」をキーワードに日本の4方を囲む海の中ではどのような生態系がからみあい支え支えられているのかを知ることが出来る展示になっていた。また、最後には、このすばらしい生物たちに満たされた海をこれからの世代にも引き継いで行くためにどのようにしていけばいいかの提言もされていた。


第6章の展示風景

「食べる・食べられる」の解説


一次生産者から高次消費者の関係図

まずここで目を引くのが、7mほどの壁一面に展示された海にいきる多様な生物の「食べる・食べられる」の関係を示した解説図だ。藻類や植物プランクトンによって、地球上に取り込まれた太陽エネルギーは食物連鎖を通して、微小な生物(生産者)から、少し大きなプランクトンや捕食者(低次の消費者)へ、そして、さらに巨大な生物(高次の消費者)に受け渡されて行く。また、どの生物も食べられずに寿命で死ねば、その死体は、分解者にとって利用されることが生態写真や液浸標本などをとおし矢印付で解説されその関係性を詳しく知ることが出来た。また。連鎖全体のどの関係、どの環境が破壊されても、全体のバランスに影響する可能性があるのだということを伝えていた。


中型硬骨魚類のニシン(左)とスケトウダラ(右)

頭足類のイカ

汚れていく海

海に生きるもの生態系を維持していくことの重要性について解説された展示のあとに、ヒトが環境とどのように関わっていかなければいけないかについて考えさせられるのが「汚れていく海」のコーナーだ、ここでは、ヒトがごみとして捨てたものがクジラやイルカの胃の中に詰まっていることや、漁網が体にからまって苦しんでいるクジラや、海鳥やアザラシがいることを知ることが出来た。ここでは、個人であれ、産業界全体であれ「捨てる」ものが、海の住人に深刻な迷惑を与えていることを知っておく必要性があることを説いていた。

展示では、つり糸にからまっているオオセグロカモメの剥製や海で拾われたごみで作られた人形がシンボリックなものとして展示されている。


汚れいてく海のコーナー

痛々しいオオセグロカモメの剥製

最後に、海にいきていた哺乳類がやがて陸にくらす場をうつし、やがて海に還っていくことになる海にくらす哺乳類たち、しかし、浅瀬の藻場の衰退、沿岸の水質汚染、遠洋の水産資源の乱獲、地球規模の温暖化など海の生物たちを取り巻く環境が変化してくると、海の生態系の中の位置を確固なもとしたかれらの棲息状況にも変化が現れ、その変化がいつ、どのような形で現れてくるかを予想することはほとんど不可能に近い。彼らも、私たち人類も、海の環境の中でいきていける無数の生命によって支えられていることを知り、この特別展が、地球にすむ生物たちの多様性を維持していくために、私たちに何ができるかを考えるきっかけになれば幸いであるとのメッセージがあった。


海にすむいきもの

最後に海の多様性を守るために何が必要であるかのメッセージが

6 地球のためにできること

最後の第7章では生物の多様性と企業とのかかわりを紹介するコーナーになっている。企業とのかかわりがあまり無いように見える生物多様性との関わりだが、企業の活動に必要な資源は自然からうみだされるものであり、生物多様性に影響を与えているのだ。2006年にブラジルで開かれた、生物多様性条約代8回締約国会議で「生物多様性を牛輪なれる速度を落とすためには、民間企業の取り組みが不可欠」と決議されるなど企業も生物多様性の大切さを理解して行動することが大切であることがここでは解説されている。


第7章の全景

展示では、日本の企業や海外の企業の生物多様性に関わる取り組みについてパネル展示されていた。

印刷の分野では、株式会社凸版印刷の使用後のリサイクル適正までを考慮した印刷工程を紹介。また2009年には「トッパングループ地球環境宣言」を制定して、地球環境保全への取りくみについて紹介されていた。

このほか株式会社JR東日本では、消費電力や騒音を抑えるための鉄道のハイブリット化など企業の取り組みについて紹介されていた。


株式会社凸版印刷の取り組み

株式会社JR東日本の取り組み

かはく生物多様性シリーズ2010特別展「大哺乳類展」では陸と海でくらす私たちと同じ哺乳類のなかまにはどのような生き物もがいるのかをその進化や多様性について、何が同じで何が違うのかを学ぶことができた。展示された剥製や骨格標本など2つの特別展で公開されたものを同様に見ることは今後難しいのではと思われるほどスケールが大きなものであった。

現在国立科学博物館では、かはく生物多様性シリーズ2010最後となる企画展「あしたのごはんのために」が開催されている。この展示では、ごはんや田んぼといった私たちになじみ深い食文化と遺伝的多様性をキーワードに生物多様性のことを知ることができる企画展だ。

是非身近なごはんから生物多様性を考えてみられてはいかがだろうか期間は平成22年9月18日(土)〜平成23年1月16日(日)まで国立科学博物館日本館1階企画展示室で開催されている。

かはく生物多様性シリーズ 2010 第5弾
特別展「大哺乳類展−海のなかまたち」

開催期間:平成22年7月10日(土)〜9月26日(日)
開催会場:国立科学博物館 特別展会場(東京・上野公園)
主催 国立科学博物館、朝日新聞社、TBS

休館日 : 7月12日(月)、9月6日(月)、13日(月)
開館時間 :午前9時〜午後5時(金曜日は午後8時まで)
※入館は各閉館時間の30分前まで
特別開館 :8/7(土)〜8/15(日)は午後6時まで延長開館
(ただし、8/13(金)は午後8時まで)

入場料 当日券 前売券/団体券(各20名以上)
一般・大学生 1,400円 1,200円
小・中・高校生 500円 400円
展示資料
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