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文・撮影 中村浩二 2010/5/27

我が国では唯一の総合的な科学系博物館である国立科学博物館は、自然史及び科学技術研究に関する世界の中核拠点として、調査研究、標本資料の収集・保管、展示・学習支援の活動を柱に活動を行っている。これらの中には、国内はもとより世界中のフィールドで研究者が赴き自然史の基礎研究などが行われており、それら研究に必要となる標本収集・保管においても、国内最大級の約380万点を有するナショナルコレクションの基盤としての役目をになっている。
収集された標本は、国立科学博物館のみならず、さまざまな研究機関・大学・博物館での研究や企画展示などにも利用され、私たちの科学リテラシーにも役立てられてもいる。
今回は、国立科学博物館の脊椎動物研究グループで、魚類の形態学と分類学を研究されている篠原現人先生にインタビューを行う。博物館で行われている研究を通し研究と標本の重要性などをお聞きしていく。
篠原現人先生は2009年12月から2010年2月まで行われた天皇陛下御即位二十周年記念展示「ハゼの世界と多様性」展において、研究者が研究のために使用する標本とはどのようなものかなどの解説展示を中心的に担当された1人だ。「標本は生きものが存在していた証拠」とお話いただいた篠原現人先生に国立科学博物館での研究活動とはどのようなもので、ご自身の研究に利用される標本とはどのようなものか、研究者の目線で標本の重要性について語っていただいた。



まず先生が所属されている脊髄動物研究部グループについてお聞かせください?

脊椎動物研究グループは哺乳類、鳥類、魚類など脊椎動物をカバーするチームです。研究員の構成ですが、魚類は私で、分類学と形態学が専門、鳥類も1人で、遺伝子を使った生態学が専門、哺乳類は海生哺乳類が1人と陸生哺乳類(タヌキやモグラなどの小型哺乳類)が1人おり、形態学と分類学を専門にしています。

両生類や爬虫類も脊髄動物の主要なグループですが、現在は臨時に陸生哺乳類のですが、現在は研究員がカバーしています。

先生は主にどのような魚の研究をされていますか?

来館者向けのセミナーなどで時々お話をしていますが、私は深海性の種を多く含むゲンゲ類を研究しています。日本の周りに新種なども沢山残っている魚です。体型はウナギに似ていますが、ウナギ類とは系統的にかなり離れていています。形は似ていませんが、スズキやタイのほうにより近縁なさかなです。

ゲンゲ類の分類は博物館に勤めてから始めました。

博物館に就職する前は、大学院でアイナメ類の研究をしていました。アイナメ類はカサゴ類やカジカ類の仲間です。カジカ類やアイナメ類というのは北方に生息しており、ゲンゲ類よりもずっと魚っぽい体型をしています。さて、10年ほど前に研究を始めたゲンゲ類は、最近でこそ水族館などで見られることができるようになりましたが、分類が難しいためなのか、地味すぎるのかあんまり積極的に展示されていこかったマイナーな魚でもあります。

ではなぜそのマイナーなグループのゲンゲ類を研究されようと思われたのですか?

大学院が終わる頃、それまで研究していたアイナメ類の研究が一段落つきました。そして博物館に就職できたのですが、その時にもっと分類学に貢献できる難しい魚類を研究しようと思いました。最初の年に調査船に乗る機会に恵まれ、その時に名前のわからないゲンゲ類が大量に捕れました。そこから研究を始めだんだん研究にはまっていったんです。わからないことがこんなにあるのだと実感し、このことがきっかけでゲンゲ類の専門家になろうと思いました。やればやるほど新しい発見があることが魅力的でしたね。




ゲンゲ類は体色も地味で、形もさほど面白くもありません、それであまり多くの研究者も研究対象として魅力を感じなかったのかも知れません。しかし、人気のない魚にも目を向けてしっかり研究していくことも大事なのです。水産研究所の人も名前がつかない種が沢山とれるので、少々困っていたのも理由1つです。ゲンゲ類の研究は分類学だけではなく水産学にも役立つものになると直感しました。


ゲンゲ類のことについて基本的なことを教えていただきますか。ゲンゲ類は何種いるのでしょうか?また先生が発見した種もあるんですか?


世界に270種ぐらいいると確定されています。これからまだまだ新種が見つかると思うので数年先にはもっと多くなっているかもしれませんね。
私が発見したゲンゲの新種は5種ですが、種より上の単位の親属も3つ発見しています。ゲンゲ類は冷たいところを好む魚です。例えばベーリング海、アイスランド周り、さらに南極海にも生息します。冷たい海や深海でした魚であると考えられています。

それでは研究に必要な標本の収集はどのように行っているのですか?

一番私がよく利用させてもらうものは調査船です。いわゆる漁業調査船ですね。これは水産研究所などに所属している船で、タラやカニなどといった水産有用種の資源量調査を毎年各地で調べています。乗船して、有用種以外のものを分けてもらっています。詳しく調べるとその中には新種や珍しいものが結構います。

採取調査は年間にどれほど行かれますか?

年に数回です。春や秋の調査に乗せてもらうことが多いです。調査船も一年中資源量調査をしているわけではないので、いつでも利用させてもらうわけではないのです。

そのほかに大学の調査船に乗せてもらう場合もあります。

大学の調査船は水産研究所とは違った目的で調査を行います。これまで他の船が調査したことがない場所にも行って網を曳きます。いろいろな研究機関のさまざまな専門分野の研究者が共同で調査します。採取物は配分しますが、ゲンゲ類は競争相手がいないのでだいたい私が研究用に持ちかえります。

1回の調査で、どれぐらいの量がとれるんですか?

それは調査によってまちまちです。ただ私の専門はゲンゲ類ですが、私は博物館の職員でもあります。だから自分の研究材料だけではなく、博物館や世界の魚類研究者にとってよいと思われる研究材料は出来るだけ多く持ち帰り、博物館のコレクションにします。

標本が博物館に保管されるということは、その博物館だけの所有物になったという意味ではありません。標本は博物館に保管されることで人類の共通財産なるんです。1週間の短い調査でも、ダンボールに10箱とか20箱とかの分量にすぐになります。

採集される魚のサイズは大小さまざまです。小さくて、すぐに壊れそうな柔らかい魚は船上で標本を作ります。そうでないものは冷凍して博物館に持ち帰り、ゆっくり丁寧に標本をつくります。

深海性のゲンゲ類の中には体がブヨブヨの寒天質のものがいます。それを不用意に冷凍すると、皮が破れてボロボロの標本しか残せません。
深海性のゲンゲ類の良い状態の標本を作るためには、船上でホルマリンにつけて固定する必要があります。
分類学では状態が良い標本が残せるかどうかで成果がずいぶんと変わってきますので、標本作りはとても大切です。


次に作ったその標本をどのように活用するのかを教えていただけますか?

一番は研究資料としての利用です。すでに知られている種でも沢山の標本を残しておき、すぐに調べられる状態にしておくことが、分類学には大切なことなのです。
また標本をじっくり観察すれば魚がたどってきた進化の歴史がわかります。

さらに標本は教育や展示などにも利用されます。

まず、教育ですが、例えばハゼ展の開催と重なった時期に、国立科学博物館では学生を対象にした深海魚の分類に関する勉強会を主催しました。研究者以外あまり知られていませんが、当館には世界でも有数の深海魚のコレクションがあります。その標本はまだ十分に研究されていないので、将来魚類研究者になりたいという学生を招待して、研究のやり方を教授したり、海外から深海魚研究者の第1人者を招待して、参加した学生に世界の分類学に触れさせるような機会を設けました。

あと展示です。標本は剥製などに利用されます。

また展示物の手法の違いですが、剥製の代わりにプラスティネーションという方法があります。水分をプラスチック樹脂におきかえるという技術ですが、コストなどの問題もありますのであまり当館では普及していません。

標本の重要性やデータの活用についてお聞かせ下さい。

標本は古くなったから捨てたり交換するというものではありません。逆に年月がたてば価値がでてきます。国立科学博物館では明治時代の標本を今も管理収蔵しています。標本は増えるばかりなので、保管場所が手狭になるだろうと不安を感じる人もいるかも知れません。また、できる限りデータをデジタルでとって保存し、標本そのものは捨ててしまえばいいと極端なことをいう人もいますが、実はそうではないんです。



実際、時代が違うと取り出せる情報に差がでてきます。例えば脊髄骨数を数えるにしても、軟エックス線撮影装置がない時代には解剖をするしか研究の手段がはありませんでした。貴重な標本では解剖そのものができない場合もあったことでしょう。現在では軟エックス線が普及していますし、それを改良して、より内部の構造を観察しやすくしたCTスキャン装置も大きな研究機関では導入が始まりましたので、取り出せる情報は数年前とは格段にちがうのです。

CTスキャン装置を使えば解剖をしなくても骨の縫合線などの形もわかるようになります。繰り返しますが技術の進歩によって標本から抽出できるデータもかわってきます。現時点での技術でデータを全部とったとし、それを捨ててしまうとその後から知りえる情報もとれなくなってしまう危険性がありますね。その理由から標本を将来にわたって保存し管理していくことを、私は非常に重要なことと考えています。

場所がもったいないからという理由で捨ててしまったり、手狭だからという理由で捨てしまったりというのはだめなんですね。

標本はその種が生息していた証拠という視点もわすれないで下さい。

標本が多数が集まるとわかることがあります。現在多くの研究機関で基本データベースを作っていますが、上手く利用すれば特定の地域の魚類相などがすぐにわかります。あと季節的な出現なども。。

図鑑などに深海魚の全長が何メートルから何メートルと書いてありますね。あれも標本の情報がなければ知ることができないのです。生息水深というのも標本からわかる重要なデータです。標本を数多く残せば残すほど正確な生息水深度がわかってきますので、深海魚の研究には標本はさらに大切なものなのです。

標本データベースを利用すれば魚類と生息環境との関係も明らかになってきます。いろんな環境条件が先にわかれば、調査をしなくても、この場所にはその種がいるに違いないと予測することができるようになるのでしょう。博物館がこれらの情報を提供するこが将来的にできれば理想的ですね。


国立科学博物館では研究プロジェクトとして「深海性動物相の解明と海洋生態系保護に関する基礎研究」を行っています。これまで東北太平洋岸、駿河湾、土佐湾、南西諸島調査してきました。現在は日本海を調査しています。

日本海でこの研究プロジェクトはいちおう終わりですが、現在までいろんなことがわかってきてきました。少し先の話になりますが、深海魚についても先ほどの予測みたいなことにつなげられればと思っています。

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