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文・撮影 中村浩二 2010/5/27

その他の研究や活動などがあれば教えて下さい。

博物館で現在進行しているものは先ほど紹介した「深海性動物相の解明と海洋生態系保護に関する基礎研究」がありますが、そのほかに、独自に外部資金の科学研究費の分担研究者としてロシア極東域の魚類調査や、中国やベトナムの魚類調査などもしました。

そのほかにも、いろんなところに誘われていくというのもありますね。

中でも10年以上前行った、ロシアの極東域の調査は私にとってゲンゲ類の研究の視野を広げる大切なものでした。

この数十年で劇的に変化した国のひとつはロシアだと思います。ソ連時代には簡単に訪問することすらできませんでした。私が北海道大学とロシア科学アカデミーの共同調査に参加させてもらってはじめて調査で入ったロシアの地はマガダン市でした。オホーツク海の最北端に位置し、都市であるにも関わらす観光客にまったく出会わない不思議な場所でした。私はマガダン市周辺で浅海性魚類相の調査を多くの研究者たちと行いましたが、多くのロシア人研究者の友人を得て、現在にいたるまで共同研究を続けています。 私がこのロシア調査に参加できた理由のひとつはゲンゲの専門家ということでした。北方系の魚を調査する場合にはゲンゲというのはとても重要なグループでしたので。




ここからは研究に使う標本の種類について具体的にお聞かせください。

液浸標本


液浸標本は魚類標本を保存する場合に最も一般的なものです。

保管にはガラス製の容器が使用されます。

なぜガラスの瓶が使用されているのかですが、耐久性で最も信頼が高いところが主な理由です。標本を液に漬けて保存しなければならないので、容器がすぐに壊れるというは致命的でもあるわけです。 ヨーロッパの博物館には300〜400年ももっている瓶があります。陶器のツボも良さそうですが、中身が確認できないので少々不便ですね。

後の話につながりますが、フタの密閉性が高いことも重要なポイントになります。また液浸標本にはアルコールやホルマリンなどの保存液が使用われます。保存液を変えるのには、いろいろな理由があると思いますが、なにより価格が大きくと思います。アルコールは値段が高くつきます。それとフタがしっかりした容器でないとすぐに蒸発してしまいます。

管理が難しいのです。

ホルマリンはアルコールに比べると安価で、市販されている液体を10%にして使います。だだし劇薬で毒物なので、人体には非常に悪く、その意味で取り扱いが難しいといます。設備の整った研究所などの施設でないときちんと保管できません。
また、本来ホルマリンは保存液ではなくて固定液なので、その中に標本を長時間入れておくことは標本にとって良くありません。骨などが壊れていきますので、保存液として使うのはできるだけ避けるべきで、保存液がないよりはましという程度で保存液として利用される場合があるというのが本当のところです。


液浸標本で保存することのメリットですが、魚は水生動物なので液浸標本に入れておくことで、より自然な状態を残せます。

剥製標本と液浸標本についてもお話ししましょう。昔は保存する薬品が今ほど身近になかったので、保存するために良い方法として剥製がありました。しかし剥製を作るためには特別な技術が必要で、上手に作ることは研究者にはできませんし、コストもかなり高いです。現在では専門の剥製業者につくってもらいますが、1体あたり数万円〜数十万円かかります。博物館でさえ、保管用に剥製を作っていたらいくらお金があってもたりません。展示という皆さんに見てもらう時だけに利用するのが普通です。なお剥製は中身がありません。内蔵や骨は別に液浸標本で保存するようにしなければなりません。

瓶だと規格がきまっていて、整理もしやすいですね。剥製のように乾燥した標本だとヒレなどの壊れやすい部分が外に飛び出ているので、保存が簡単ではありません。


染色透明標本(写真B参照)

染色透明標本ですが、分類に必要な骨の形を観察するために作ります。骨の形は分類にも役立ちますが、類縁関係や進化を推定する際にも大切な特徴です。染色透明標本の技術がなかった昔は、筋肉を剥がして骨を観察していました。しかし、この方法ですと小さな骨を見逃してしまう危険があります。透明化の方法ですが、トリプシンという酵素で筋肉を溶かします。トリプシンは骨までは溶かしませんので、骨は残って見えるというわけです。硬骨は半透明なので、観察しやすくするためにアリザリンレッドという薬品をつかって赤く染色します。軟骨はアルシアンブルーという薬品をつかって青く染めます。2種類の染色液を使うと青と赤のきれいな透明標本ができあがります。


軟エックス線像(写真A参照)やCTスキャン像について

軟エックス線像とCTスキャン像はエックス線を使うということで基本的には同じですが、形態の見え方がかなり違います。軟エックス線は2次元で観察できる骨の数などを数えるのに向いています。CTスキャンは3次元で観察できるようにしたもので、いろいろな角度から骨を観察できる。私が研究しているゲンゲ類はヒレを構成する鰭条(きじょう)がたいへん観察しにくく、基本的に必ず軟エックス線を撮影して使います。CTスキャンは、解剖ができない貴重な標本から、骨の特徴を引き出す際に利用しますが、軟エックス線に比べると時間や手間がかかります。




DNA標本

DNA標本はDNAを読むために生鮮状態の標本から取りだした小さい肉片のことです。進化学や分類学だけでなく、生態学などの研究にはかかせません。

研究者にとって標本の持つ価値とは

第1番は証拠です。

再現性がないと科学ではありません。 標本さえ残っていれば、先人の残した仕事を客観的に再評価できます。分類学も日進月歩ですので、10年前や20年前には1種類だと思われていたものが、現在2ないしは3種類にわけられている場合などもよくある話です。このような場場合、標本が残っていなければ、先人の研究した種類がなんだったかのがわからなくなってしまいます。先人が種類を勘違いしていたということも起こりえる問題で、標本がすべてを解決してくれます。

証拠を残すことは研究者としての一つの義務と思います。

将来どのように利用できる予想がつかないからこそ、標本を残していくことが大切なのです。




先生が影響を受けた本などありましたらお聞かせいただけますか。また研究者を目指す方にアドバイスをいただければと思います。

いくつか本がありますが、影響を受けた本のひとつでお勧めしたいのは内田 恵太郎博士の「稚魚を求めて-ある研究自叙伝-」です。

稚魚について書かれた本です。稚魚は親魚とは違った形をしており、生態も面白いものが多いです。ウナギのレプトセファルス幼生は有名な稚魚ですね。この本は高校生のころに夢中になってに読みました。 この本は私だけではなく同年代の魚類研究者に大きな影響を与えています。研究者を目指すのは本に出会うことも一つの大きなきっかけになるのだと感じています。

私は生きものを飼ったり魚の図鑑を見るのが好きな少年でした。小学校までは将来は研究者になりたいと文集などに書いていました。研究者になれるかどうかは運不運がありますが、まずは好きなことをずっと好きでいられるような環境が重要ないと前に進みません。もちろん食べていかなくてはいけないので、研究者になったらすべて幸せということではないですよ。研究以外の仕事も研究と同じくらいしなければいけないですし。




最後に先生の研究のアピールについてあれば

ゲンゲという魚はまだ認知度に低い魚です。これから多くの方に知ってもらって身近な魚になるように、いろんなところで話や執筆をしたいと思います。


どうも長時間のインタビューにご協力いただき心よりお礼申し上げます。

今回ご紹介した篠原現人先生はじめ国立科学博物館(上野)では先生方が展示解説を行うディスカバリートークが毎週行われています。是非国立科学博物館に行かれる際には事前にチェックして出かけられることをオススメします。
科学に関する様々なことが身近に感じられるはず。

詳しい日程や内容については国立科学博物館のホームページにてご確認ください。




(C)国立科学博物館 脊椎動物研究グループ 魚類 篠原現人先生 提供画像
A  軟エックス線像 
B
 染色透明標本

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