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 特別版 土壌&植物

Exhibition レポート

企画展 生き物に学び、くらしに活かす ―博物館とバイオミメティクス開催期間:2016年4月19日(火)~6月12日(日)

企画展 レポート

生き物に学び、くらしに活かす ―博物館とバイオミメティクス

2016年4月19日(火)~6月12日(日)

国立科学博物館(東京・上野) 日本館1階 企画展示室・中央ホール

企画展 生き物に学び、くらしに活かす ―博物館とバイオミメティクス

開催期間:2016年4月19日(火)~6月12日(日)

開催場所:国立科学博物館(東京・上野) 日本館1階 企画展示室・中央ホール

 

3 海洋生物とバイオミメティクス

 

第3章は海洋動物から学ぶバイミメティクスだ。この章では水の摩擦抵抗を少なくする。流れをつかまえる、お互いにぶつからないよう動く、吸着、脱着するなどの機能を有する生物を紹介し、彼らの優れた能力がバイオミメティクスのヒントになっていることが紹介されている。具体的には水着に応用されたカジキの親水性、ザトウクジラ 風水発電機の回転翼、ハコフグ の形態から自動車、タコの脚からヒントを得たバスケットシューズ、魚の群れから学ぶ交通などだ。ここでも、展示内容を元にコーナーをみていく。海洋生物全般の担当は、国立科学博物館 動物研究部 篠原現人 先生が担当されてた。

 

高速遊泳する魚の表面構造

 

魚類のなかでも特に速く泳ぐといわれているのはカジキのなかま。その体型は水の抵抗が少ない流線型で、さらに皮膚から出る粘液が水に溶け、表面の水の摩擦抵抗を小さくする。水着の生地に水をはじく部分と粘液のように水になじむ部分を組み合わせると、それぞれの表面で水の流れが変わり、水がスムーズに流れるようになる。

 

カジキの皮膚から親水性素材

 

競泳水着は選手がより早く泳げるようになるように日々進化している。ミズノ(株)はカジキの高速遊泳を支えているのが皮膚表面の粘液と考え、表面にジェル加工を施した親水性素材「マーリンコンプ」を開発し、この素材を使用した水着を2008年に完成させた(マーリンはカジキの英名)。水着の表面にこの親水性素材とこれまでのほとんどの水着で使われてきた撥水性素材を並べると、それぞれの表面での流れの違いでたてみぞが発生し、水流が乱れず、水の抵抗を8%も減らすことに成功したことが解説されている。ここでは、水着とカジキの剥製標本が並べて展示。

 

バスケットショーズとタコの吸盤

 

バスケットボールでは瞬時にとまることや、ジャンプ・方向転換などの素早い動きが要求される。選手の能力を最大限に引き出せるようなグリップ性が高く(スリップしにくい)、クッション性に優れたシューズの開発が求められる。(株)アシックス創設者の鬼塚喜八郎氏はグリップ性の開発に苦心していたときにタコの酢のものを見て、吸盤構造を備えたソール(足裏)を思いついた。そのアイデアが元となり1950年代初めに靴底全体で床に吸い付く高性能のバスケットシューズが誕生。今回の企画展ためにその当時の貴重な現物が展示されてる。

 

魚類とバイオニックカー

 

「自然は最も優れたエンジニアで、最も巧みなデザイナである」という考えで車の研究開発をおこなってきたダイムラー社は、理想の形をハコフグの体に見つけた。意外だが、ハコフグは箱型でありながら泳ぎが上手で、その体は流線型をしている。硬い構造や内部空間の広さもクルマ向きで、空気抵抗は現在のコンパクトカーに比べても65%以上も低くなるという実験結果もあるそうだ。バイオミックカーの紹介コーナーでは、数種類のハコフグのなかまの標本が展示されていた。

 

クジラのヒレを模した風力発電についてみてみる。

 

ザトウクジラは体の3分の1もある長い胸ビレを持っている。ヒレの前力にはコブがあり、凹凸をまねて風力発電機の回転翼にギザギザをつけるとか風をよくとらえるようになった。弱い風でも動く回転翼で効率的な発電が出来る。

ザトウクジラは胸ビレ前縁にあるコブ(指)で、ヒレの上に小さい渦を発生させ、大きな抵抗となる大きな渦の発生を抑えます。ザトウクジラはこの仕組みでヒレの傾き(迎え角)を大きくし、低速遊泳でも大きな揚力を得ることができます。このコブをヒントにアメリカのウェストチェスター大学のフランク・フィッシュ博士は空気を撹乱する能力が高い工業用ファンを製作し、さらに風力発電の回転翼に利用することで、風を効率よくとらえることに成功している。展示のクジラの胸ビレ模型ではその特徴を確認することができる。

 

クジラの胸ビレと水流

 

胸ビレで揚力を得るためには迎え角を大きくしなければならない。しかし角度を大きくすると後方に水流の流れが生じ、失速につながる。ザトウクジラの胸ビレは、前縁がギザギザになり、水をしっかりととらえ後方でも水流を乱さないことが解説さいた。

 

魚類の群れから渋滞を考える

 

次に展示されていのは、魚の行動から暮らしに活かすヒント。衝突を避ける魚たちの動きについてだ。魚類の中には群れをつくる種類がいる。群れは障害物や捕食者を避けて移動するが、その時に魚同士がぶつかることがない、群れの簡単な3つのルール(地位すぎる場合は接近する、近すぎる場合は反発する、適切な場合は維持する)を自動車に応用すれば、渋滞や交通事故をなせるのではないかと考えられている。

 

魚類から「ぶつからないクルマ」へ

 

魚の体には側線という水圧や水流の変化を感知する器官がある。目と同じように側線は距離を測るのに役立ち、障害物やなかまどうしがぶつからないようにしている。魚の群れの動きの仕組みをまねて作られたのが日産自動車(株)のロボットカー「エポロ:エピソード・ゼロ・ロボット」、レーザー光でなかまとの距離を測り、情報交換を行いながら走行。この能力を自動車に応用すれば「ぶつからない安全なクルマ」ができることが期待されている。ここでは、実際の日産が作ったロボットカーが紹介。

 

 

4 鳥類とバイオミメティクス

 

鳥から、視覚 飛行 運動 静音 保温性 飛翔 色 を私たちは学ぶことができる。具体的には、アネハヅルはヒマラヤ山脈を超える高高度を飛び、キョクサジサキは 北極圏から南極9万キロを渡り、フクロウ前縁には静音に有効な「セレーション」がある。このように鳥には、飛翔力、飛翔を与える羽毛、そして羽毛に備える色を持つという特徴がある。

この鳥の章では、これら、鳥の運動能力と羽毛にかかわる構造、それをまねる試みをあわせて紹介。またこの章の展示は、山階鳥類研究所の山崎剛史先生(自然誌研究室) が鳥類の飛翔に関するバイオミメティクスを担当。森本元先生(保全研究室・鳥類識別センター)が鳥の構造色分野の展示を担当されていた。

 

鳥に学ぶ空の飛び方

 

鳥類の飛翔は、どのような人口飛翔体よりはるかに省力性能が高く、静かで、また曲芸的だ。鳥類の翼は100個ほどもある筋肉で微調整されており、そのときどきに最も適した翼型と飛翔方法が選択されているからだ、例えば、小型マルチコプター(いわゆるドローン)の飛行可能時間はふつう数分~数十分だが、鳥類には80~90時間も無着陸で飛行した記録がある。アネハヅルはヒマラヤ山脈を超える高高度を飛び、キョクアジサシは南極・北極間の渡りを行う。ハヤブサは時速320kmのスピードで獲物を急襲し、つかまえることができる。ここでは飛翔に関するパネル解説と、アネハヅル、ハヤブサ、キョクアジサシの剥製標本がならぶ。

 

飛翔の原理についての解説

 

翼が発生させる上向きの力(揚力)を使って空を飛ぶ方法には、大きく分けて滑空と動力飛行の2つの方法がある。滑空は、前に進むための特別な推進力の発生源を持たない。単に空中を滑り落ちていくか、風を利用する。グライダー、紙飛行機のほか、風や上昇気流があるときに海鳥や猛禽類などがおこなう。動力飛行は前に進むための力を自ら発生させるもので、飛行機、ヘリコプター、鳥類の羽ばたき飛翔などがその例だ。

 

鳥の翼

 

鳥の翼は、前あしが変化してできている。身体を浮かべるための揚力を主に生み出すのは、人間の前腕に相当する骨に付く大きな羽(次列風切羽)、肩と手首の関節の間に貼られた皮膚、それを覆う羽毛。手首から先の部分には、推進力の源となる羽(初列風切羽)がついている。羽ばたきを行うことでこの羽から生まれる揚力は前方に傾いているため、推進力が生まれる。

 

羽ばたき飛翔の模倣

 

鳥の飛翔のバイオミメティクスは、滑空の模倣から始まったが、今ホットなのは羽ばたき飛翔の研究、滑空と羽ばたき飛翔の両方をうまく模倣できれば、風があるときは滑空、ないときは羽ばたき飛翔を用い、スマートな人工飛翔体を作ることができるだろうとし、鳥のように省力性・静音性・安定性に飛んだ飛翔を実現するため、羽ばたきがたの人工飛翔を作る試みがさかんに行われている。

ここでは、千葉大学の研究グループのハチドリ型のロボット映像を紹介し、ハチドリのつばさの運動をハイスピードカメラで解析するようすも知ることが出来た。

 

スマートな飛翔を支える仕組み

 

鳥に似た新幹線

 

500系新幹線のパンタグラフに見られるギザギザの構造は、空気の流れをコントロールし、騒音を減らす。これは、静かに飛ばなければ狩りに失敗するフクロウをまねたもので。かれらの翼には前縁には「セレーション」と呼ばれるノコギリの歯のような構造があり、羽音を消すことに役に立っている。またこの新幹線の先頭車両は、水中にスムーズに飛び込んで餌を捕るカワセミのクチバシに似ている。このかたちには、トンネルをくぐる時に出る騒音を抑える効果があります。人間が苦労の末に考え出したかたちを、カワセミはずっと昔から使っていいたことが解説していた。

 

飛びながらものをつかむ

 

鳥の中には、枝や電線を上手につかんで休息し、空を飛んで獲物を足でつかまえるものもいる、人工飛翔体に同じような機能を付け加えることができれば、その活躍の場は大きく広がる。ここでは、魚食性のワシが獲物の頭上をかすめるように飛びつつ、狩りをするときの足の動きをまねたロボットが開発されており、より

高性能な人工飛翔体研究に鳥の機能が取り入れれていることが知ることができた。

 

鳥の構造色

 

鳥の羽の色は様々だ。ここでは、その羽の色がどのような仕組みで形成されいるのか、剥製標本と解説で構成され鳥類の色について語られている。

 

鳥類の羽は主に、赤色系「カロチロイド色素」黒色・茶色系「メラニン色素」、青色系「構造色」で発色している。中でも構造色の研究は、バイオミメティクスへの応用が期待されている。鳥類の構造色の特徴は、主に羽内部構造によって発色する点にある。その構造はケラチンやメラニンの顆粒といった微細構造で構成され。クジャクやシチメンチョウ、ドバトの金属光沢のある色や、ルリビタキの落ち着いた青色などが代表例と紹介されている。

 

羽毛と構造色

 

ドバトの虹色は小羽枝表面における多層膜干渉による構造色、クジャクなどの青色や虹色はメラニン顆粒が規則的に配列する構造色、カワセミやルリビタキなどの青色はスポンジ層の泡状構造がもつ立体的な規則性構造に由来する構造色だ。いずれも規則的な微小構造の存在が、特定の短い(青色)を強めて発色している。インコ類など、色素色と構造色の混色で発色する鳥もいる。

近年では、こうした鳥の発色構造を模した素材開発行われている。構造色は、実に青色だけに限らず、メラニン系の微小顆粒を規則てきに配列することで、色素色でない、様々な色を構造色発色する試みも行われていることが解説されていた。

このコーナーでは、こうした構造色を持つ、カワセミやルリビタキ、クジャク、七面鳥の標本が並べられいた。

 

羽毛内部構造に似た構造色素材

 

鳥類の羽毛を拡大すると、木の幹のような羽軸、そこからはえた太い枝のような羽枝、さらにそこから生える細かい枝のような小羽枝という、3段構造になっている。この羽枝や小羽枝の断面を拡大すると、一番外側の皮状の構造、その内部に、泡状のスポンジ層という構造や、メラニンの顆粒がみられる。

 

メラニン顆粒を模倣した微小粒子の配列による構造色素材

 

鳥類の構造色の中には、メラニン色素の顆粒が規則的に配列することで、光の一部の波長を強めて発色する構造が知られている。この配列構造を応用し、メラニン顆粒を模倣したポリドーパミンという高分子を複合した粒状を利用する構造色素材の研究が進んでいるとされていた。

 

ここまでの章では、私たちの暮らしのなかで活かされている、生き物と実用化された製品のとの関係を、昆虫、海洋生物、鳥類から紹介する展示が中心だった。第5章からは、博物館に収蔵されている標本からどのようなアイデアの「気づき」を得ることが出来のか、また博物館標本から、生物学者が生物の機能や能力を使いどのようなアイデアをもっているのかが紹介されている。

 

 

 

 

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