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展示会レポート 
国立科学博物館企画展 
  「琉球の植物 」
               特別講演会レポート

開催日時:
2009425日(土)14:00〜16:00
開催場所:国立科学博物館 日本館2階講堂
テーマ琉球列島の絶滅危惧植物とその保全」
               國府方吾郎先生(国立科学博物館研究主幹)

最後に國府方吾郎先生(国立科学博物館研究主幹)が企画展「琉球の植物」の目的と生物の保全、絶滅危惧植物の保全活動の重要性を絡め講演が行われた。また生物多様性を「知る」「守る」「伝える」をキーワードに生物多様性の先進国となるべく日本の活動のビジョンを打ち出しより多くの方に知っていただくためのメッセージを強くアピールされた。その内容を紹介していこう。

1 企画展「琉球列島の植物」の目的 

「今回の講演では、私が絶滅危惧植物と生物多様性について何時も考え思っていることを話し皆さんにも一緒に考えて頂きたいと持っております。」

「今回の講演では、まずなぜ企画展「琉球の植物」を行ったかを話し。そしてなぜ絶滅危惧生物を保全をしなければいけないのか。また、絶滅危惧生物の保全と生物多様性を「知る」「守る」「伝える」ことの重要性について話。そして、最後にめざせ「生物多様性」先進国、日本と言う内容で話を進めていきます。」


國府方吾郎先生

企画展「琉球の植物」の目的

「まず初めに、どうして今回企画展「琉球の植物」を開催したかと言うことですが、先ほどの横田先生のお話に有ったように琉球列島と言うのは非常に植物相が豊富です。そして絶滅危惧植物が集中していて生物多様性の危機を訴えることが出来ると言う点。」

「そして佐々木先生がお話頂いたように植物と人との関係が非常に深く、琉球の人たちがさまざまな形で植物を利用して恩恵を受けています。ことからも琉球列島の植物を知ること、それはまさに生物多様性を知っていたくことが出来ると考えています。」

「このことから、今回のキーワードである「生物多様性」を知っていただきより理解を深めていただく事それが今回の企画展「琉球の植物」目的です。」

「そして声を大きくして言いたキーワードは繰り返しになりますが「生物多様性」です。」

「また生物多様性という言葉を知っている方には生物多様性+α知っていただければなと思っております。」


キーワードは生物多様性

有用植物ワダツミの木

「まずは、なぜ絶滅危惧植物を保全しなければならないのかを皆さんと考えていきたいと思います。」

「これは、奄美大島に生息するワダツミノキです。このワダツミノキという和名は歌手の元ちとせさんが歌っている歌から付けられたものです。つまり最近記載されたものです。」

「このワダツミノキ絶滅危惧植物なんですが2004年に奄美大島固有の新種として記載されるまでは石垣島と西表島に分布するクサミズキとされてきました。」

「クサミズキに含まれるカンプトテシンは抗がん物質として注目されていますがワダツミノキに関しては研究は進んでいません。しかし、もとより個体が少ない上に開発と乱獲によって絶滅の危機に瀕しています。」

2 生態系サービスから

「植物の価値を経済的に考える上で「生態系サービス」と言う言葉が有ります。生物・生態系に由来し、人類の利益になるサービスのことを指します。」

「例えば、植物が放出する酸素も人間の利益になります。1977年に地球上における生態系サービスとそれを生み出す自然資源の1年間の価値は大体3300兆円にもなるという発表もありました。日本の一般会計が85兆円、特別会計が377兆円ですからこの金額の大きさが比較できるのではないでしょうか。これほど膨大な金額を生物・生態系が人類に与えているということになります。」


保全の大切さを訴える

生態系サービス

「まず生態系サービスを紹介したのはこの金額だけ知ってもらう目的だけではなく次のこと知って頂きたくて例に挙げました。それと言うのは先ほど紹介したワダツミノキなどの貴重な有用植物は当然のごとく保全していかなければなりません。」

「しかし中には経済的な価値が低いもの有ります。それら経済的な価値の低いものは保全しなくてもいいのかと問われれば、私の答えは”NO”です。それを説明するためには生物多様性とは何かを知る必要があります。次に生物多様性とは何かをお話していきましょう。」

3 「生物多様性」は3つの多様性からなる

「生物多様性は次の3つの多様性から構成されていると考えられています。

1つ目、遺伝子の多様性:一種の中にもさまざまな遺伝子が有る。

例えると人(ホモ・サピエンス)の種の中でも顔が違うなどです。

2つ目、「種の多様性」:地球には色々な生物がいます。

例えるとすでに知られているものでも約150万種のうち植物は25万種も有未知のものを合わせると1000万種以上と言われています

3つ目、「生態系の多様性」:色々な生物の繋がりです。

生物の繋がり、食う・食われるといったこと。寄生や共生などの多様な生態系を示しています。」

「生物多様性はこれら3つの多様性が有ることですね。」


「生物多様性」3つの多様性からなる

生物多様性ピラミッド

「それでは、これら3つの多様性が自然の中でどのように形成されているか見てみましょう。」

「生物多様性を図にするとこのようなピラミッドの関係が築けます。まず、底辺に遺伝子の多様性が有り、その上に種、そしてこれらの基盤の上に生態系が形成していることを知っていただけるのではないでしょうか。」

「しかし中には、1種類ぐらい種が絶滅しても問題ないのではないかと質問されることが有ります。確かに、多くの種が有る中で1種類くらい絶滅してもと考える方がいてもおかしくはありません。しかし、例えば、食物網の頂点に立つラッコの個体が減少することによって、食物網が乱れウニが大発生するなど生態系に大きな影響を与える種が有ります。これをキーストーン種と言いますが、このキーストーンとは石で出来た橋のキーになる石のことでこれをはずすと橋が崩れてしまう重要なもののことを指します。」

「このようなキーストーン種は当然として残していかなければなりません。同様にそれ以外の種に関しても同様に残していかなければなりません。北極にラッコだけが生き残っているだけではだめなのです。」


種の絶滅は生物多様性の基盤を破壊する

キーストーン種とは

4 すべての生態系を残さなければならない重要性

「これは、ハンモックにくつろぐ人類をイメージして種の保存について考えています。まず、ハンモックに人がくつろいでいるとします。ハンモックは多くの結び目が有る網目状になっていることはご存知の通りかとおもいます。」

「そしてその「結び目=種」、点と点の結び線の繋がりを「生態の繋がり」。そして全体の「ハンモック=生物の多様性」と考えて下さい。この結び目の1種が無くなると生物多様性の網に穴が開きます。」

「当然その影響はその場に留まらず隣接している結び目に影響を与えやがては大きな穴になり、その影響は大きなものになるのです。1つ1つの絶滅はやがて多くの絶滅を生むきっかけになると言うこと、1000種の絶滅とは一種の絶滅の1000回の繰り返しであり、絶滅の連鎖が生態系を破滅するのだと行くことを知って頂き、1種類の絶滅であっても見過ごしてはいけないことを考えて頂きたいのです。」


ハンモックにくつろぐ人類

絶滅の連鎖は人類に大きな影響をもたらす

「なぜ絶滅危惧生物を保全するかのまとめですが絶滅し消えていくのがかわいそうと言う感情論だけではなく、人類がそれら生物多様性の上に立ち生きていることを知って守っていくことの重要性を知る。そしてその形が崩れると私たち人に大きな影響を受けてしまうことを知って頂きたいのです。」

5 筑波実験植物園で行われていること

「筑波実験植物園では絶滅危惧植物の保全と生物多様性を「知って」、「伝えて」、「守る」ことをテーマに活動を進めています。」

「また絶滅危惧植物を守ることは生物多様性にかかわってきます。」

「私たちが生物多様性を知り、伝えるためには植物の研究が必要不可欠です。そして研究により集められた膨大な研究資料は絶滅危惧植物を守るための基礎データになっています
。レットデータブックもこれらのデータを基に出来てることを知っていただければと思います。」


筑波実験植物園のテーマ

レッドデータブック

「また今回の企画展にも展示していますが、生物多様性地形図を制作し展示しています。これは日本列島のどこに絶滅危惧植物が有るかを知ることが出来るものです。」

「「多様性地形図」に関しては制作した海老原先生に簡単にお話しいただきます。」


国立科学博物館 植物研究部 
海老原淳先生
「これは科博の標本をもとに絶滅危惧植物の指数を高さにして一目でその絶滅危惧植物の集中する地点が分るというものです。そして保全すべき優先的な地域はどこなのか保護地域がどこなのかを知ることも出来るものです。」


多様性地形図

「このような研究が絶滅危惧植物の保全に非常に重要であることがお分かりいただけたと思います。分類学的な蓄積、レッドデータブックの作成、絶滅危惧植物の分布の解析など筑波実験植物園のになう役割を知っていただければと思います。」

6 生物多様性を守る

「次に生物多様性を守るですが。絶滅危惧植物を保全するには自生地で保全するのがベストです。」
「現在、奄美大島、沖縄本島の一部で豊かな自然を世界遺産に登録し、次の世代に残していこうと言う活動が進んでいます。」

「このようなことが進んでいけば自生地での保全は進んでいけると考えています。」

「しかし、琉球の植物のすべてが自生地で保全されているかと言うとそうとは言ません。中には絶滅してしまった種も有ります、例えばオリズルスミレですね。このように自生地での保全が出来ないものは自生地外保全と言うことが行われています。多くの絶滅危惧植物が有るのは悲しいことです。」

「筑波実験植物園では自生地での保存の難しい種を合わせ絶滅危惧生物2018種類のうち日本産の554種についても保全しています。」

「絶滅危惧植物を伝えることしては出版や講演、そして今回のような展示に付け加えて筑波実験植物園では、毎年絶滅危惧植物展を行っています。これらを通し多くの方に伝えていきたいと考えています。」

「多くの方に生物多様性を知っていただき絶滅危惧植物のことを理解していただかなければいけません。逆に絶滅危惧植物のことを知っていただければ生物多様性の重要性を理解していただけるものと考えています。そのようなことから生物多様性を強く伝えていかなければと思っております。」

「また来年は「生物多様性条約代10回目締約国会議(COP10)が名古屋で開催されます。」「そのような意味でも生物多様性という言葉を多くの方に知って頂くいい機会だと思っております。」

7 生物多様性の理解度を3つのステップで

「次に生物多様性の理解度を3つのステップにしてみました。」

「今回の企画展にこられた方が生物多様性という言葉を知って頂くと言うのが今回の企画展の目的と言ってもいいぐらいですが。」

「 ステップ1は「生物多様性」の言葉を知っている。

「 ステップ2は「生物多様性」の定義を知っている。」

「 ステップ3は「生物多様性」の重要性を知っている。」

「このステップを持って生物多様性を知って頂くことが今回の最大の目的として位置付けています。」

「そして、生物多様性を、知って、守り、伝える、このことは誰でも出来ることだと思います。」

「まず知る。身近にある絶滅危惧植物を知ってください。そして守ることは市民団体の活動等に参加してください。そして環境問題を考えていただければ、これも守ることに繋がります。よく環境の保全を守ることだけでよいと考える方がいますが、そこに生きる生物多様性のことを考えなければいくらきれいな空が残されても生物にとっては重要なことではないのです。」

「そして、これら生物多様性のことを多くの方に教えてあげていただければと考えています。」


「そして最終的には日本が生物多様性の先進国になることが出来ればと切望し訴えて生きたいと思っております。」

と最後に強いアピールをし締めくくられた。


国立科学博物館 企画展 
   「琉球の植物」展

期間:平成21年3月24日〜平成21年5月17日 
(休館日は博物館ホームページを確認ください。)

入館料:一般・大学生/600円(団体300円)・高校生以下無料(団体は20名以上)

お問い合わせ 国立科学博物館  電話  ハローダイヤル 03-5777-8600 
展示資料


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