限定された場所で多くの生物を生きたまま見ることは容易ではない、ましてや世界中に分布する昆虫を見ることは無理な話だ。しかし、標本を通してなら不可能ではない。そんな、不可能を可能にしてくれる世界の昆虫標本展示会が千葉県立中央博物博物館で7月5日より開催されている。
今回のテーマはズバリ「大昆虫展」博物館を少し入ると昆虫を40倍サイズに拡大したパネル展示や、巨大ダンボール昆虫など、タイトル通りスケールの大きな展示会だ。展示場に入ると色彩や形など特徴を捉えたコーナー、クワガタやカブトムシなど子供たちに人気の昆虫とムシキングカードとを比較できるように並べて展示されているコーナーなど、昆虫の自由研究のテーマには事欠かない展示は多くの家族連れでにぎわっていた。今回は、そんな千葉県立中央博物館の展示会をレポートしていこう。
博物館入り口を入ってすぐに大きなダンボール昆虫が展示してある |
子供たちの身長より大きな昆虫のパネルだ |
1 形態から見る昆虫の多様性
会場に入ると、まず驚くのが正面奥にある昆虫の拡大パネルと凹の字型に展示された標本箱の点数。しかし、展示は入り口から時計周りに順に見ることができるのでとてもとても見やすい。
順路1のテーマは色の多様性。このコーナーでは昆虫の色をテーマに昆虫を展示している。黒、赤、橙、白などといった色による分類から、昆虫の種類別に色彩の違いなどを見ることができるようになっている。その中でも特に目に付いたのが、コガネムシやタマムシといった、小さく色鮮やかに輝きを見せる昆虫だ。会場で自由に利用できる虫眼鏡で、夢中になって見ている子供達がとても印象的だった。また、映画好きの方ならご存知だろうが、数年前に公開されたレア・プルー監督の「天国の青い蝶」、余命数ヶ月の主人公が幻の青いブルー・モルフォを追いかけるという話なのだが、劇中で登場した蝶といわれているレテノールモルフォも展示されている。もちろんそれ以外にも世界中のモルフォチョウが展示されているので色彩の違いを比較しながら楽しめるので必見だ。このほか、ユーラシア大陸、アフリカ、北米、南米すべてに分布しているモンキチョウの仲間の標本を産地別に見ることができる。標本の下には産地の地図も展示されているので地域や気候などの変化でどのような違いがあるか観察してみてはいかがだろう。
展示は壁に沿って標本箱が展示されている。 |
コガネムシの仲間をルーペを使って熱心に観察していた。 |
世界中のモンキチョウが飾られている |
モルフォチョウは光のあたり方で見え方が変化する |
2 模様や暮らしの多様性
順路2、3のテーマは模様とくらしの多様性だ。昆虫が自然界の中でどのように生息しているかを垣間見ることができるコーナーとなっている。模様の多様性コーナーでは枯葉に似ているカマキリやヤママユガの不思議な模様がとても興味深い。
昆虫のふしぎがテーマになっている。 |
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くらしの多様性コーナーでは、昆虫がどのようなものを食べ外敵から身を守っているかを、展示と標本を通して知ることができるようになっている。一つ紹介すると、アゲハチョウの仲間の幼虫は鳥などに攻撃されると頭の後ろから角を出し、同時に刺激のあるにおいを放出し鳥などから身を守るそうだ。そのほか昆虫の不思議な生態を知ることができる展示になっている。
においで攻撃するナミアゲハの幼虫
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肉を食べるオオカマキリ |
3 ムシキングカードと標本
ムシキングカードの累計出荷枚数は2007年2月末現在4億2000枚(セガ発表)といわれている。子供達、特に小学生低学年以下の人気は絶大でその発行枚数からみても想像がつく。ムシキングから昆虫の名前を覚える子供たちも多いそうだ。順路4では、そんなムシキングカードと実物の昆虫標本と比較してみることができる展示になっている。
筆者はムシキングカードを今回初めて見たのだが、きっとカード下にある数値が体力を表すのだろう、最強のカブトムシとされるヘラクレスオオカブトが「200」と他の昆虫よりも数値も大きく、「なるほど」と妙に関心させられた。ちなみにカブトムシは「120」となっていた。また、それ以外にもさまざまなカブトムシやクワガタの種類を雌雄あわせて展示してある。
ムシキングカードと昆虫の展示 |
子供たちが見やすいように展示が低くなっている
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4 昆虫の形と大きさににびっくり
順路5、6は昆虫の大きさや形に関する展示になっている。昆虫からイメージする大きさは、手のひらに乗せたり指でつまんだりというイメージが一般的だが、世界にはこんなサイズの昆虫がいるのかと驚かされるコーナーになっている。その驚きは是非会場に行って直接感じてほしいが、すこし紹介すると、世界最大の昆虫として30センチもの長さもあるナナフシの一種が展示され、ちょっとおいそれと手のひらに置けそうにないサイズに驚く。その他形がバイオリンに似ているバイオリンムシの仲間や幼虫が20センチにもなる世界最大のカミキリムシなどを見ることができる。
また、目が離れているシュモクバエの一種や全身トゲに覆われたトゲハムシの仲間など虫眼鏡で観察するとよいだろう。
巨大なトビナナフシ |
サイズは大きくはないが形がユニークなものばかりを集めたコーナー |
世界最大のカミキリムシ |
形がバイオリンに似ているバイオリンムシ |
会場には虫眼鏡とペンライトが用意され自由に使用することができるので小さな虫を拡大したり、チョウに光をあてて反射の加減で色の変化を観察するのも展示の楽しみにするといいだろう。
5 トピックス展示
メイン会場を出るとトピックス会場があり、そこではパソコンから高精細画像で収蔵された昆虫画像を、マウスを使い簡単に見ることができるようになっている。また昆虫と人間とのかかわりを食や環境といった身近なテーマから知ることが出来る展示がある。
備え付けのパソコンから高精細な昆虫画像を見れるようになっている。小さな子供たちも使いこなしていた。 |
ズームシーのコーナーでは大きな画面で昆虫の高精細画像を見ることが可能だ。 |
ラオスの食卓には昆虫がいっぱい |
親子で楽しめる展示がおおい |
今回展示されていた標本の中から環境省レッドリストに掲載されている昆虫も展示されていたのであわせて紹介しておこう。
オオムラサキ、ノブオオオアオコメツキ、ヤエヤママルバネクワガタ、エサキクチキゴキブリ、ミヤマシジミなど
情報不足(DD)のエサキクチキゴキブリ |
絶滅危惧U類(VU)ミヤマシジミ |
準絶滅危惧(NT)ノブオオオアオコメツキ |
絶滅危惧U類 ギフチョウ |
今回拝見した大昆虫展、標本の点数も多く見ごたえのある展示会だ。テーマからも分るように多様性に満ちた昆虫の世界を少しの時間ではあるが垣間見ることが出来た。子供たちだけではなく家族ずれで是非見に行って楽しんでほしい展示会だった。
6 標本から何かを学んでほしい(斉藤明子先生に聞いて)
大昆虫展を担当されている千葉県立中央博物館の斉藤明子先生に今回の展示についてお話を聞く機会がありましたのでいくつかの質問をお伺いしました。
まず今回の展示を通して見に来られる方に何を伝えたいでしょうか?
昆虫は種類が多くその大きさや形はまちまちです。なかでも昆虫の多様性について口で説明するのは難しいことです。しかし、標本を通して直感的に色あざかさや種類の多さといったものを分ってもらえればと思っています。
展示に関するエピソードと楽しむポイントがあれば教えていただけますか?
昨年から小学校6年生以上の方からのボランティアを募集しています。その中に小学生のお子さんがいるんですが、そのお子さんからオオエンマハンミョウはないんですかという質問があったんですよ。まず小学生がオオエンマハンミョウを知っていたことに驚きましたが、私の知らないところで話題になっていたみたいで、それではということで今回の展示にも入れさせていただいたんですよ。
またそれ以外にも、今回の展示にはボランティアの方たちのアイデアを取り入れて展示してある部分も多いんです。その一つが会場に設置された昆虫クイズです。レベル1〜3まであるんですが。このクイズを一緒に考えてくれているのもボランティアの人たちなんです。レベル1のクイズでは子供たちの目線で私が考えない様なクイズを考えてくれました。レベル3では少し難しくなりますが、それでもレベル2で5人に一人、大人でも難しいレベル3では数百人に一人ぐらいですが子供達も正解しているんですよ。是非やってみてください。
ナナフシの仲間、その大きさに驚きだ |
世界中のモンキチョウの仲間を見ることが出来る |
また、トンボなど点数の少ないものもありますが、形が奇抜な昆虫は変わりものの昆虫たちとしてまとめてあるコーナーもありますから不思議な昆虫の形を観察されるのもいいですね。
お忙しい中ご協力いただきありがとうございました。
レベル3のクイズ、確かに難しい |
ボランティアのスタッフの方がこの時採点をしていました。 |
筆者も会場でクイズをやってみたがレベル1は何とか全問正解したがレベル2、レベル3は惜しいところで間違ってしまった残念。クイズをクリアーするとポストカードがもらえるので是非全問正解を狙ってはいかがだろう。
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